第597話 【許嫁女子会(〈タロ〉様を三分割)】

 【許嫁女子会(〈タロ〉様を三分割)】


 「〈アコ〉ちゃん、もう少しで結婚式ですね。すごく綺麗な花嫁になると思いますよ」


 「〈サトミ〉も、早く見たいって思っているんだ」


 「二人ともありがとう。気合を入れて頑張りますわ」


 「前日には、〈サトミ〉ちゃんと私が中心になって、花冠を作りますからね」


 「二人に花冠を作って貰えるのは、すごく有難いし嬉しいわ。こんなこと他の側室なら、絶対にしてくれないと思うわ」


 「あはぁ、〈サトミ〉は〈タロ〉様を、独り占めしたい気持ちがちょっぴりあるけど。〈アコ〉ちゃんと親友なのは、何があっても変わらないよ」


 「うふ、私もそうですけど。〈タロ〉様が聞いたら、少し複雑な顔をするでしょうね」


 「ふふ、〈タロ〉様はこんなに可愛い妻を、三人も娶(めと)るんですもの。私達のことを、まとめて大きく包み込んで欲しいものですわ」


 「あははぁ、〈タロ〉様は大変そうだね。でも〈タロ〉様なら出来るって、〈サトミ〉は思う」


 「そうですね。〈タロ〉様ならきっと可能です。今までの延長線上で良いのですからね」


 「そうよ。〈サトミ〉ちゃんと〈クルス〉ちゃんの言う通りだわ。〈タロ〉様が私達以外の女性に、手を出さなければ良いだけです」


 「そうです。そうであれば、後は私達三人だけの課題になるだけですね」


 「〈クルス〉ちゃん、〈サトミ〉達の課題ってなに」


 「そこで私は考えたのですわ。〈タロ〉様を三つに割っちゃえと」


 「えぇー、三つに割って〈アコ〉ちゃんは、〈タロ〉様のどの部分をとるの」


 「うーん、頭の方か下半身か迷いますわ」


 「うふふ、冗談はさておいて、〈アコ〉ちゃんの考えを聞かせてください」


 「ふふふ、〈サトミ〉ちゃんに上手く乗れたと思ったのに、〈クルス〉ちゃんは笑いに厳しいわね」


 「あははっ、〈サトミ〉もいい返しだと思ったんだけどな」


 「おほん」


 「ふぅ、〈クルス〉ちゃん、今から話すので少し待ってよ」


 「えぇ、早くお願いします」


 「私達は三人だから、十日を三で割り、三日づつ〈タロ〉様と過ごせる日とするのよ。余った一日は〈タロ〉様の自由な日としてあげましょう」


 「へっ、十の内、〈サトミ〉は三日か。〈アコ〉ちゃんは、正妻なのにそれで良いの」


 「そうですよ。一日増やせば良いのではないですか」


 「うーん、それは良くないと思うわ。親友って、分け隔(へだ)てないものだと思うの。〈タロ〉様と逢うのは、今までは十日に一度くらいだったわ。結婚したのにと少し淋しい気持ちになると思うけど、我慢出来る範囲だと思うのよ」


 「そうですか。考えが決まっているのなら、それを試してみましょう。私達の後宮は隣同士ですので、それほど淋しくはないと思います」


 「そうか。〈タロ〉様と逢えない時は、〈アコ〉ちゃんか〈クルス〉ちゃんと直ぐに逢えるんだ」


 「決まったわね。〈クルス〉ちゃんが言ったように、この取決めが絶対ではないのですわ。不都合が起きたら、これ以外のことでも私に相談をしてね。私は《ラング伯爵家》の内の管理を任されるのから、一緒に良い答えを考えましょう」


 「〈アコ〉ちゃん、この取決めは何時からするの」


 「そうね。私の結婚式の後からでどうかしら」


 「〈アコ〉ちゃんは、新婚なにの三日で良いのですか。結婚式の後だけ、もっと長くても良いのではないですか。結婚式はこれからなので皆平等ですよ、どうでしょう」


 「〈サトミ〉も、それで良いと思うな、新婚はやっぱり特別だもの」


 「それはそう思うわ。でもやっぱり、最初に決めた通り三分割でいきましょう。最初が濃密過ぎれば、後が辛くなると思うの。その代わり結婚式の次の日は、〈タロ〉様と完全な二人切りにしましょうよ。ただ〈タロ〉様と丸一日も会話が続くか、ちょっと心配ね」


 「うふふ、良く言いますね。顔が笑っていますよ」


 「あははっ、〈サトミ〉も話したいことが一杯あるんだ」


 「ふふふ、〈タロ〉様が持たないかもってことよ。それと結婚した後は、もう〈タロ〉様と呼ばないことにしたわ」


 「えぇー、〈アコ〉ちゃん、《ラング伯爵》様って呼ぶの。そんな他人みたいなの嫌だな」


 「ふふ、違うわよ。正式に妻になるから、〈あなた〉って呼ぼうと思っているの。急に変えたら二人とも吃驚すると思って、今言っておくわね」


 「うーん、そうですか。〈タロ〉様では良くないですよね」


 「えっ、〈サトミ〉も〈タロ〉様って呼んじゃいけないの」


 「〈サトミ〉ちゃん、ダメって言うわけじゃないわ。でも、〈ドリー〉さんも〈サヤーテ先生〉も〈タロ〉様って呼ぶのよ。私達は妻なんだから、特別な呼び方をしたいと思わない」


 「おっ、言われてみれば、そうだね。〈サトミ〉も何か考えよう」


 「うふふ、私も心の中で呼んだことがあるのですが、いざとなると恥ずかしくて言えそうにないのですよ」


 「本当にそう思うわ。〈タロ〉様がもし笑ったら、承知しないと心に決めているのよ」


 「あははっ、逆に〈タロ〉様が真っ赤になるんじゃないのかな」


 「ぷっ、〈サトミ〉ちゃん、笑わせないでよ。モジモジと照れている〈タロ〉様を想像しちゃったわ」


 「ぷぷっ、〈タロ〉様が「えっ、僕のこと」と言って、固まっている姿が目に浮かびますね」


 ― それからも、三人は〈タロ〉の奇妙なところや普通でないところを、時には怒りながら、時には笑いながら、時が経つのを忘れて話し続けた。胸が痛くなるような悲しいことや、誇らしくて胸が熱くなるような出来事も混じっていた。小鳥が窓辺で朝の詩をさえずっても、まだ三人の話はつきなかったようだ。 ―

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