第596話 これは勝ち過ぎだ

 領民は倍を超えて、今や七千人を超えようとしている。


 《ラング領》が発展し仕事が多いと聞き、周辺の町から人々が流入してきたんだ。

 次男三男や次女三女が多いらしい。

 王都や大きな町へ流れていた若い人が、《ラング領》を選んでくれたのを嬉しく思う。


 今までは成人後、仕事も住むところも無くて、《ラング》を離れていた領民も留まってくれている。

 遠くの領地から来た人も、かなりの数にのぼる。


 兵士の数は、元の五十人から三倍の百五十人に増加させている。

 伯爵領に相応しい数を、確保出来ているってことだ。

 〈ハパ先生〉が張り切って、毎日のように訓練を実施しているらしい。

 脱走兵が出ないか少し心配になるな。


 農地は水車を増設して、元の十倍まで広がっている。

 まあ、元が小さかったからな。

 僕は普通の大きさだけどな。


 鳥の糞の効果もあり、農産物の収量が著しく増大して、余剰分は近隣の町へ輸出しているほどである。

 今まで農作物を輸出していた領地貴族から、苦情が来ていたようだが、僕がこの前戦勲をあげたら言って来なくなったらしい。

 王子と特別な関係にあると邪推したんだと思う。


 塩の話も片付いている。

 安売り攻勢をかけてきた領地が、実質的に破綻(はたん)してしまった。

 効率的に採塩が出来ないのに、最初から無理だったんだろう。


 ただ、安売り攻勢で潰れる、弱小の岩塩鉱山が出てしまった。

 《ラング領》の塩は、そのシェアを奪う形となり、前より儲かるようになっている。


 また塩付け魚と干物も、庶民を中心に定着しつつあるようだ。

 ちょっとこれは勝ち過ぎだから、占有率を盾にした値上げは、控えるように言い渡している。

 あまりに貪(むさぼ)ると、どこかで反動が生じかねない。

 あまりにも大きなアソコは、誰にも受け入れて貰えないってことだ。


 うーん、そうなんだろうか。

 大きければ大きいほど、喜ばれるのかも知れないぞ。

 あぁー、僕には一生分からないことだな。


 新町に三階建てが多い理由も判明した。

 何と、一階を店舗として三階建ての住居を建てる場合には、《ラング領》から補助金を支給していたんだ。


 あれほど空白を怖がっていたのに、僕はどうしてそんな書類にサインをしたんだろう。

 よく内容を確認せずに、いい加減な執務をしていたんだろうな。

 心当たりがあり過ぎるぞ。


 これからは本腰を入れて執務に取り組もう。


 うん。

 腰は要(かなめ)だから重要である。

 ピストン運動の主要器官でもあり、〈無限ハイパー光速ぶっ続け幻小突き〉と言う技を開発したいと思っているんだよ。


 そしてこの補助金の犯人は、〈ソラィウ〉だと判明した。

 いや。

 後ろで操っていたのは〈ベート〉に違いない。

 自分達が一階に服屋を開いて、二、三階に新居構えるための補助金が欲しかったんだろう。


 〈ソラィウ〉と〈ベート〉は、悪い人間じゃないと思うけど、自分達の幸せを優先し過ぎる傾向があるな。

 特に〈ベート〉は、下請けで搾取されて、ひがみ根性が激しいんだと思う。

 結婚して幸せを掴めば変わるかな。

 もう変らないだろうな。


 重臣達のレクチャーは、結局一日では終わらなかった。

 残りは明日に回すことになって、夕食前にやっと僕は解放された。


 〈クルス〉と〈サトミ〉は、実家へ帰っているから、夕食は〈アコ〉と〈アコ〉の母親と食べることになる。

 〈アコ〉の母親は、《ラング領》の発展にかなり驚いていて、僕を褒めまくってくれた。

 こんな話、聞いたことも本で読んだこともないと大絶賛だ。

 嬉しくなってお返しに、〈アコ〉の母親に「お若い」「綺麗です」とおべんちゃらを連発しておいた。


 いつもの〈アコ〉なら、僕にそれは言い過ぎだと口を挟むのだけど、今日は合わせるように乗っかってくる。

 えぇー、何時もとかなり違うぞ。

 結婚式を前に親子関係が、劇的に良くなったみたいだ。


 〈アコ〉の母親は、とても気分が良いのだろう。

 ワインをガブガブ飲んで、酔っぱらってしまったようだ。

 「〈タロ〉様はすごいですわ」をうわ言のように連発する、少し草臥(くたび)れた、おしゃべり人形のようになってしまっている。


 もう限界なので、〈アコ〉が寝室に引っ張っていった。

 食堂に帰って来た〈アコ〉は、ニタリととても悪い顔をしたので、僕はゾクリとしてしまう。


 「〈タロ〉様、五月蠅い邪魔者はいなくなりましたわ。私の後宮を案内してあげますね」


 「おっ、それは良いな。よろしく頼むよ」


 「ふふ、頼まれましたわ。でもその前に、お風呂に入ってくださいね。結婚するまでは、後宮のお風呂は沸かしてないのです」


 僕はパジャマ姿で後宮の扉をトントンとノックした。

 服装は迷ったが、お風呂に入った後なら、もうパジャマで良いよな。

 扉を開けてくれた〈アコ〉は、ロング丈のネグリジェを着ていたから、これで良かったんだ。


 〈アコ〉のネグリジェは、シンプルで透けてもいない、本当の寝る目的の物だ。

 少し期待していた僕は、態度に少し出していたんだと思う。


 「〈タロ〉様、今日は初夜ではありませんよ。そんなに期待されても困りますわ」


 望ましいエッチのためには、期待を裏切られた感を、決して出してはいけないぞ。


 「へへっ、期待どおりだよ。今の〈アコ〉もとても素敵だよ」


 「まあ、お酒でお口が良く回っていますね。でも嬉しいですわ」


 〈アコ〉は後宮に足を踏み入れた僕の腕に、自分の腕を絡ませて、廊下を通ってまずはリビングへ案内してくれた。

 もちろん、おっぱいはフニュフニュと当たっているぞ。


 ざっと見渡すと〈アコ〉の後宮は、白を基調としたデザインで統一されているようだ。

 リビングには、座り心地が良さそうな白色のソファーを、真ん中に置いてあるのが目立っている。


 「おぉ、白が映えるな。清潔感があって良いんじゃないか」


 「ふふ、〈タロ〉様も、そう思いますか。気に入って頂けて良かったですわ。そこの長椅子に座ってくださいな」


 〈アコ〉はデキャンタに入れたワインとグラスを二つ、台所から持ってきてれた。


 「〈タロ〉様、結婚式がもう十日後ですわ。体調をしっかりと整えておいてくださいね」


 「分かっているって。それより、未来の綺麗な花嫁さんに乾杯をしようよ」


 「ふふふ、未来と言っても十日後ですわ。私達の幸せな未来にしましょうよ」


 「それでも良いな。それじゃ乾杯」


 「ふふ、乾杯」


 僕と〈アコ〉は、ワインをグビッと飲んで、見詰め合ってから少し笑った。

 新婚ごっこをしている感じが、二人ともくすぐったかったのだろう。


 新婚ごっこだから、当然キスをして、僕は〈アコ〉をお姫様抱っこに抱えあげた。

 目指すは白いシーツのベッドの上だ。


 抱き抱えられながら、〈アコ〉が寝室のノブを回して、僕は〈アコ〉をベッドの上に横たえた。

 寝室には既に小さなランプが灯っている。

 準備が良過ぎるのが、嬉しいような、少し残念なような。


 「〈タロ〉様、きて」


 「直ぐ行くよ」


 あっちの方は、直ぐにはいかないように極力努めます。

 ただし、努力義務の範疇(はんちゅう)ですから、過度の期待をされても無理です。

 無理なものは無理なんですよ。


 ちょっと手間取りながら〈アコ〉のネグリジェを脱がして、自分のパジャマも脱いでいく。

 〈アコ〉のおっぱいは、やっぱり大きい。

 この大っきなおっぱいを、これから思う存分揉めるんだ。

 下半身がピタンピタンと当たる勢いになっているぞ。

 〈アコ〉はそこをさすって「すごい」って言ってくれた。

 何がスゴイのかは分からない。


 僕は顔を埋めて左右から揉んでみる。

 〈アコ〉は短い言葉を何度か発して、僕の気持ちをさらに燃え上がらせてくれた。

 ショーツをムチムチの足から抜き取る時は、顔を両手で覆っていたな。

 そんな〈アコ〉が可愛くて、僕の努力が実を結ばなかった。


 妊娠した可能性はあるけど、耐久の方がダメダメだったんだ。

 まだ〈アコ〉は痛いようだから、早いのは歓迎してくれている。

 ただ時間が有り余った感じだ。


 だからもう一度ワインを飲むことになった。

 〈アコ〉は笑いながら、おしゃべりするのは楽しいと言ってはくれていたが、これが結婚後も続くようなら楽しくはならないだろう。

 ネグリジェの胸の部分が、はち切れそうなのを見て、直ぐに復活したのが唯一の希望だよ。


 〈アコ〉と僕は、後宮の戸締りをして、それぞれの部屋にそっと帰った。

 帰って行く途中で、十日後からは〈アコ〉と一緒に寝るんだと考えた。


 繊細で感じやすい僕が、良く眠ることが出来るのか、ちょっと心配だな。

 結婚はエッチなことばかりじゃないんだ。

 日常生活が大きく変わることに、やっと気づいたぞ。


 失ってしまうものも、一杯あるのかも知れないな。

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