第11章 前払いなんて、あんまりだ
第594話 入り江にある漁師小屋
僕と〈クルス〉は、《ラング領》へ〈深遠の面影号〉で向かっている。
同船者には、〈リク〉と〈サヤ〉がいて、〈ソラィウ〉も一緒だ。
〈サヤ〉は親族になったから、〈アコ〉との結婚式に出席したいらしい。
それはそうなんだが、同じ船で帰らなくても良いのではと思う。
恐れていたとおり、〈サヤ〉が鍛錬をしたいと言い出して、それに〈リク〉も激しく同調したから、《ラング領》へ着くまで鍛錬をする羽目になってしまった。
〈ソラィウ〉は、まだ懲(こ)りていないのか。
「運動をするのは、健康のためにも良いことですね」
と言ってやがったよ。
だけど一日目で、直ぐに後悔したようで「こんなの健康に悪いです」と、泣き言を叫んでいた。
僕が、頭をもぐほど激しく頷(うなす)いていたのは、悲しい光景だったな。
いつもの航海なら、許嫁達と一緒にシャワーを浴びるのだが、今回〈クルス〉は一緒に浴びてはくれなかった。
二人切りだから、背後に回られて襲われると思ったのだろう。
実質妻のことだけはある。
良く分かってらっしゃる。
シャワー室は滑りやすいから、後ろからがベストなんだよ。
そう言うことで、〈リク〉と〈ソラィウ〉と浴びることになってしまった。
誰も得をしないと思うが、水の節約のためだ、しょうがない。
だけどあそこの大きさが、僕とあまり変わらないことが分かって、少し得をした気分だ。
〈ソラィウ〉が少し大きいのが、かなり腹立たしいけどな。
〈クルス〉は後悔中、教育関係の本を読みまくっていて、僕の相手はしてくれなかった。
僕も鍛錬で疲れていたので、イチャイチャはまるで出来なかった。
今回は何も楽しくない航海だったな。
入り江に着くと、大勢の人が出迎えてくれている。
〈アコ〉と〈サトミ〉も、大きく手を振っているぞ。
桟橋を降りると、〈クルス〉に〈アコ〉と〈サトミ〉が抱き着いてきて、帰着をとても喜んでいる。
おいおい、僕には抱き着かないのか。
ちょとおかしくないか。
「あはぁ、〈タロ〉様、お帰りなさい」
〈サトミ〉が、ニコニコ笑って出迎えてくれた。
「ふふ、お元気そうで良かったですわ」
〈アコ〉も嬉しそうだ。
だけど〈クルス〉に、抱き着いたまま言っているぞ。
「ただいま。二人とも元気で良かったよ」
少し寂しいけど、僕はこう言うしかないよな。
許嫁達と再会を喜んでいると、横からにゅーうっと女の人が割り込んできた。
おっ、この女の人は《入り江の姉御》の母狐じゃないか。
今は白粉(おしろい)を、顔と手に塗り込んでいないので、年相応のお婆さんに見えるな。
「ご領主様、お帰り。ヒィヒィ、良いもんがあるんだ。ちょっと見てお行きよ」
僕は腕をとられて、そのまま、入り江にある漁師小屋へかどわかされてしまった。
荒波を相手にしている、漁師の腕力はすごいものがあるな。
でも、僕は青年で相手はお婆さんだぞ。
人智を超えた力だから、抗(あらが)えなかったんだと思う。
「これを見てみなよ。ツヤツヤで玉が揃(そろ)っているだろう」
《入り江の姉御》の母親が、実は男で、股間を見せられた訳じゃないぞ。
見せられたのは、大粒の真珠のネックレスだ。
一連で首につける短いタイプで、同じ色のイヤリングも一緒にあった。
真珠か。
エレガントで、慎(つつ)ましい中に凛(りん)とした存在感がある、宝石の女王と呼ばれているらしい。
これを許嫁達が首にかければ、おっぱいが倍いやらしくなるぞ。
肉肉しい真珠探し遊びを、することが出来るぞ。
冠婚葬祭を含め、他の用途にも使えるから、ぜひとも欲しいな。
「これを僕にくれるのか」
「はぁ、何を呆(ほう)けてなさる。漁師は慈善事業じゃないよ。お銭をたんまり頂きたいのさ」
これだけの真珠を集めようとすれば、膨大な数の貝を採取する必要がある。
その労力に見合う対価を、たんまり寄こせと言うことか。
そりゃそうだよな。
でも一組だけじゃ買えないな。
「でも僕には、許嫁が三人いるんだよ。一人だけ依怙贔屓(えこひいき)は出来ないんだ」
「けぇけぇっ、心配しなさんな。色は違うけぇ、後二人分の玉もちゃんとあるさ」
「えっ、そうなの」
「ほれ、黒玉と黄玉だ。まだ糸を通してないけぇど、玉数はあるさ」
《入り江の姉御》の母親が見せてくれたのは、黒真珠と金色の真珠だ。
言っているように、ネックレスとイヤリングを作れる数があると思う。
「でもお高いんじゃないのか」
「ケチケチしなさんな。正妻さんに聞いたら、ガバガバ儲かっているらしいじゃねえか、旦那様よ」
かぁー、僕が拉致(らち)されても、〈アコ〉と〈サトミ〉が騒がなかったのは、この妖狐とグルだったのか。
帰って来たばかりで、〈南国茶店〉の数か月分の儲けが吹っ飛んだよ。
これからある結婚式が、とても心配になってくる。
「ご領主様、毎度あり。また店へ飲みに来てくださいよ。くうぇくうぇっ」
ものすごく機嫌の良い鳴き声に送られて、僕は少し疲れて漁師小屋を出て行く。
あんた達の店には、決して飲みに行かないぞ。
罠(わな)に嵌(は)められて、ケツの穴の毛まで毟(むし)られるだろう。
玉の周りもツヤツヤにされそうだよ。
僕はきつく言ってやろうと〈アコ〉を睨みつけたが、胸の前で手を組むゴメンなさいのポーズ見て、怒れなくなってしまう。
組んだ腕でグニュっと挟み、おっぱいを強力に見せてきたんだよ。
強化されたおっぱいの谷間は、華厳の滝の滝壺に匹敵するだろう。
けっこうな深さがあると思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます