第590話 最後の制服姿

 《赤鳩》の門まで行くと、〈クルス〉が既に門の内側で待っていた。


 「〈タロ〉様、用事は終わりました。お昼を食べに行きましょうか」


 「そうだな。どこが良い」


 「それでしたら、〈肉詰め包〉のお店が良いですね。〈タロ〉様、覚えています。私はすごく淋しい思いをしたのですよ」


 〈クルス〉も、あの時の記憶がとても強いんだ。

 僕はもう忘れたいのだけどな。

 この前〈アコ〉と同じ店に行ったことは、絶対に黙っておこう。


 「ははっ、もう言わないでくれよ。あれからは、淋しい思いをさせてないだろう」


 「うふふ、そうでしょうか。これからの〈タロ〉様の頑張りに期待しますね」


 〈クルス〉はニコニコと笑いながら、かなりのプレッシャーをかけてくる。

 一線を越えてからの〈クルス〉は、遠慮がなくなったな。

 仲がより深くなったと、良いように思っておこう。


 僕達はお茶を〈南国茶店〉で水筒に詰めて貰い、屋根裏部屋に上がっていく。

 前を昇っていく〈クルス〉のお尻は、昨日僕の目の前でツヤツヤと輝いていた。


 奥の方まで全てを僕にさらけ出した、愛しいものなんだ。

 征服欲が満たされて、強度の支配欲が発生してしまっている。

 過度の支配欲は良くないけど、〈クルス〉は美尻だからしょうがないよな。

 今日は歯形をつけてみよう。


 僕と〈クルス〉は、部屋着に着替えた後、ソファーに座り〈肉詰め包〉を「美味しい」と言って食べ話をした。


 「さっきの女性が言ってたことだけど、〈クルス〉は《赤鳩》に未練はないのか」


 「はぁ、私が何時未練があると言いました。〈タロ〉様はどういう意味で聞いているのですか」


 わぁー、余計なことを聞いてしまったらしい。

 〈クルス〉の逆鱗(げきりん)に触れてしまったようだ。


 「えぇっと、少し心配になったんだよ」


 「何が心配なのです」


 「〈クルス〉の本当の気持ちは、研究を続けたかったってことだよ」


 「はぁー、〈タロ〉様は私のことを、まだよく理解されていませんね。私が自分の意思で、〈タロ〉様と離れるはずがありません。〈タロ〉様は私に《赤鳩》に残れとおっしゃるのですか」


 〈クルス〉の目がすぅーと細くなった。

 返答次第では、決して許さないっていう目だ。


 「えー、言うはずないだろう。残りたいって言うのを、逆に心配しているんだよ」


 「うふふ、そうですか。それを心配されていましたか。だったら、私をもっと愛してください」


 〈クルス〉は僕の口元についていた〈肉詰め包〉の汁を、舌でペロッと舐めて、僕の鼠径部(そけいぶ)を触りながら嫣然(えんぜん)と笑っている。


 「私は卒舎までの五日間、〈タロ〉様を独占出来て、とても愉快(ゆかい)な気分なのですよ」


 僕は鼠径部周辺を刺激されてしまったので、〈クルス〉に覆いかぶさった。


 「きゃー、〈タロ〉様は、いつも強引ですね。私を壊したらいけないのですよ」


 絡みつくような〈クルス〉の視線に、僕は突き動かされて唇を奪いにいった。

 うーん、僕の理性を壊しているのは、いつも〈クルス〉の方だと思う。


 屋根裏部屋の薄暗い灯りの中で、〈クルス〉の身体に溺れていくんだ。

 快感を覚えたエロ猿は、それを求めて死ぬまで腰を振り続けるのだろう。


 〈クルス〉も既に壊れているのだろうか。

 一時的なものだと思う。

 お互いに長く我慢していたものを、急に解(と)き放ったから、暴走気味になっているだけだろう。

 哀しいことに人間は、直ぐに飽(あ)きる動物だからな。

 猿みたいな誠実さを持ちあわせてはいない、いやらしい生き物だと思う。


 うっすらと歯型のついた〈クルス〉のお尻を触りながら、二回戦を挑(いど)んだら怒られるのかなと、顔色を窺(うかが)っている意地汚い獣がここにいるよ。



 〈クルス〉の卒舎式が始まった。

 〈クルス〉の親御(おやご)さんは、二人とも出席していない。


 実の母親だけでもと以前聞いたら、「私はもう大人なので必要ありません」と言っていた。

 〈クルス〉の方から、遠方で来るのが大変だと出席を断ったらしい。

 まあ、〈クルス〉の言うことも、もっともである。


 代りに僕がしっかりと、〈クルス〉の最後の制服姿を眼に焼き付けてあげよう。

 まあ、結婚してから何回かは、着て貰う予定だけどな。


 校長と来賓の祝辞が終わり、卒舎生代表の謝辞は何と〈クルス〉だった。

 自分のことのように、誇らしい気持ちになるぞ。


 成績が一番の卒舎生は、昨日〈クルス〉を待ち伏せしていた女性だ。

 〈クルス〉の話によると、天才肌で協調性に難があるということらしい。

 それで、〈クルス〉が卒舎生代表となったのかも知れないな。


 〈クルス〉の謝辞は、一部の隙もない固い内容だった。

 昨日はあれほど、フニャフニャだったのに解(げ)せないな。


 卒舎式が終わって、僕は一足早く〈健武術場〉に入ることにした。

 既に礼服を着ているし、昨日のうちに〈クルス〉へ《紅王鳥》の羽の髪飾りを渡している。

 もちろん、礼服は保護色の青色にしてある。


 一人でいる〈健武術場〉は、驚くほど大きい。

 こんなに大きかったんだと、改めて思う。


 広大な異空間に、たった一人で取り残されている感じになってくるな。

 係の先生が入ってきて、僕を驚いたように見ているぞ。

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