第588話 長い黒髪を、白いシーツの上に広げ

 僕達はほろ酔いで楽しく夕食を食べて、部屋に戻ってきた。

 最初に僕がシャワーを浴びて、今は〈クルス〉が浴室に入っている。


 この状況は〈クルス〉が、もう了承しているってことだよな。

 卒舎したんだから、もう縛(しば)りはなくなったと言えるだろう。


 うーん、だんだん緊張してきたぞ。


 浴室から〈クルス〉が、身体と髪にバスタオルを巻いて出てきた。

 髪を巻上げているから、細いうなじが見えている。


 急な泊まりだから、二人とも着替えを持っていなかったので、〈クルス〉が下着を洗濯してくれたんだ。

 だからそれが乾くまで、二人ともノーパンでバスタオル一枚だ。


 〈クルス〉は分かっていて選択したんだろうか。

 〈クルス〉の裸の肩と太ももが濡れて、とても艶(なま)めかしい。

 おっぱいも普通に、バスタオルを押し上げているぞ。


 「うぅ、〈タロ〉様。そんなに私を見詰めないでください」


 〈クルス〉は真っ赤になって、浴室の前で立ち尽くしている。

 〈クルス〉もこの状況で、どうしたら良いのか分からないのだろう。


 僕が動かなくてどうするんだ。


 僕は椅子から決然と立ち上がって、雄々しく〈クルス〉に近づいていく。

 〈クルス〉は胸の前で手を合わせ、迫りくる精悍(せいかん)さが満ちた僕に怯(おび)えているようだ。


 これから、バスタオルをバッと剥ぎ取られ、レロレロと全身を舐め回されて、ザワリザワリと恥ずかしい部分を触られるのだから、当然だろう。


 僕は二歩〈クルス〉近づいた時に、床に置いてあった紙袋につまずいてしまった。

 なぜこんな場所に、紙袋を置いてしまったのだろう。

 死んだ方が良いくらいの間抜野郎だ。

 

 紙袋は僕に蹴られた形になって、中身の本を〈クルス〉の前にぶち撒(ま)けてしまった。

 見られちゃいけないヤツらが、暴(あば)かれてしまうぞ。

 〈クルス〉は目の前にやって来た僕の本を、思わず拾い上げようとしている。

 僕は慌てて本を回収しようとしたが、今一歩間に合わなかった。


 〈クルス〉の拾い上げた本は、「実録:黒髪の優等生は、伯爵の匂いに満たされてガクブルしたっちゃ」だ。

 〈クルス〉に見られて一番恥ずかしい本だけど、「実録:《緑農学苑》の売り子の観察記録」よりは、まだ良かったのかも知れない。


 〈クルス〉は本の題名を見て真っ赤になっている。

 プルプルと震えているようだ。

 ガクブルじゃなくて、プルプルなんだ。


 「〈タロ〉様は、このような本がお好きなのですか」


 僕がバカなことを考えていると、〈クルス〉が冷たい口調で言ってきた。


 これは良く考えて答えるべきクエストだな。

 魅惑の洞窟の帳(とばり)を我はいざ開かん。


 「あっ、この本は〈クルス〉をひな型にしていると疑ったんだよ。だから内容を知る必要があると思ったんだ」


 「私が発表会で朗読した詩を、茶化しているように思いますが、どうしてこのような本が発売されたのでしょう」


 「それは〈クルス〉が、美人で魅力的だからじゃないかな」


 「もう〈タロ〉様は。違いますよ。〈タロ〉様が英雄だから学舎生に需要があるのですよ」


 〈クルス〉の怒りは少し冷めたようだ。

 もうプルプルしていない。


 「そうかな。〈クルス〉が優等生だから、引きずり落とす快感があるんじゃないのかな」


 「えっ、〈タロ〉様は私を、引きずり落としたいのですか」


 〈クルス〉は意外だったのか、吃驚したような顔をしている。


 「もちろん、〈クルス〉を不幸にはしないよ。引きずり落としたいのは、そのタオルだよ」


 僕は〈クルス〉に近づいて、本を奪い抱きしめた。


 「〈タロ〉様の匂いに包まれて、本のようになるのは恥ずかし過ぎます」


 〈クルス〉はまたプルプルと震え出したけど、僕は構わずキスをした。

 〈クルス〉が震えるのは、最初だからしょうがない。

 震えが止まるのを待っていられるほど、僕は大人じゃないんだ。


 僕は〈クルス〉をお姫様抱っこに抱えてベッドに向かう。


 「きゃっ、〈タロ〉様、どうかお願いします」


 〈クルス〉は僕の首にしがみついて、泣きそうな顔をしている。

 タオルから小振りなお尻がむき出しになり、黒い陰(かげ)りが見えている。


 でも僕は、何をお願いされているんだろう。


 ベッドに〈クルス〉を横たえて、僕は部屋の灯りを消して、ベッドサイドの小さなランプをつけた。

 黄色い仄(ほのかな)かな灯りが、〈クルス〉の息づかいのように瞬(またた)いている。


 「〈タロ〉様、まだ髪が濡れているのです」


 「僕は気にならないよ」


 〈クルス〉の巻いているタオルを剥ぎ取ったら、「ひぃ」って息を呑(の)む声が漏れた。

 僕もタオルをとって〈クルス〉の上に覆(おお)いかぶさり、唇を奪いながらおっぱいを触っていく。

 〈クルス〉は抵抗をしないけど身体は固いままだ。

 〈クルス〉の身体を解(ほぐ)せないかと、僕は色んな場所を触り続ける。


 「あぁ、そんな。そこは触らないで」


 あっ、そうだ。

 耳を舐めなくちゃ。


 僕は髪に巻いているタオルを外して、〈クルス〉の耳を丁寧にしゃぶってあげた。

 〈クルス〉は長い黒髪を、白いシーツの上に広げて、何かを耐えている感じがする。

 しばらく舐めていると、〈クルス〉は荒い息を吐いて、僕の下で身体をわななかせだした。


 僕はそれからも長い時間、〈クルス〉の色んな場所を責め続ける。

 すると徐々に身体が開いてきたので、僕は〈クルス〉に思いをぶつけた。

 あぁー、僕の思いは一瞬だった。


 〈クルス〉はやっぱり「痛い」と叫んでいたから、一瞬で良かったんだよ。

 そう思おう。


 「〈クルス〉、痛そうだったな。ごめんな」


 「〈タロ〉様、謝る必要はありませんよ。慣れるまでは痛いと習っています」


 《赤鳩》は、そういう授業もあるんだ。


 「そうか。僕は〈クルス〉と一つになれてとても嬉しいよ」


 「私も嬉しいのは同じです。それにもう〈タロ〉様に、我慢をさせたくて済むのも嬉しいのです」


 「僕に我慢させないのが嬉しいの」


 「〈タロ〉様、もう私に怖いものはありません。いくら染められても良いのですよ」


 〈クルス〉は裸の僕の胸に、顔を埋めて背中をさすりながら言ってくれた。

 ただ僕には、何が怖くて何に染まるのかは、良く分かっていない。

 でも隣に〈クルス〉がいるのなら、どうでも良いことだと思う。


 僕達は二人とも裸で引っ付いて眠った。

 僕がおっぱいに手を伸ばしたら、「もう寝ましょう」と怒られた。

 僕の方が染められる予感しかしないぞ。


 朝食を最上階のレストランで食べていると、〈クルス〉が「上から見る王都の見納(みおさ)めですね」と呟く。

 僕は「そうだな。王都は卒舎して《ラング》で大人になるんだ」と返した。


 「うふふ、昨晩、私達は大人になったのではないのですか」


 「はは、人生は複雑だから、色んな卒舎があるんだよ」


 「うふふふ、上手いこと言いましたね。褒めて差し上げます」


 〈クルス〉はなぜかツボに入ったらしく、いつまでも笑っていた。


 まあ、泣くよりは百倍良いことだろう。

 僕が〈クルス〉に渡された薬を飲んでいるのを、嬉しそうに見ている。

 まあ、お酒より身体に悪い可能性は百倍もないだろう。

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