第585話 確かな温かさ

 僕は一人、学舎町の角の公園にポツンと座っている。

 ここは門から遠いので、誰も通りかかる人はいない。


 夜空を見上げると、金と銀の星々が光速で、互いに離れて行くのが幻視出来るようだ。


 大きくて赤い月が、《白鶴》学舎の屋根に隠れようとしている。

 もう少しだけ、僕に貴女(あなた)の光を分けてください。

 足元が見えなくなるような暗がりを、今は欲しくないのです。

 別れの後は、確かな温かさがあれば良いと思いませんか。


 僕の方へトコトコと向かってくる、小さな足音が聞こえてくる。


 「ふふ、〈タロ〉様。お待たせしました。これでも急いできたのですよ」


 〈アコ〉を認識した途端(とたん)に、僕の近くで太陽が昇ったように明るくなった。

 明る過ぎて、空の星々が見えなくなり、もう〈アコ〉しか見えない。

 暖かな南風が頬を撫でつけてくるぞ。


 「はははっ、〈アコ〉が来てくれて嬉しいな」


 「はぁ、私が来るのは当たり前でしょう。帰りがけに言いましたわ」


 「それはそうだな。〈アコ〉、お腹は減っていない」


 「そうですね。気合を入れて踊りましたから、ペコペコですわ」


 〈アコ〉はお腹をさすりながら、微笑んでいる。

 最後は特殊な踊り方だったから、腰を中心に体力も消耗したんだろう。


 今の〈アコ〉が着ているのは、ドレスでもなく制服でもなく、裾が短いニットのワンピースだ。

 胸をお尻の形を、忠実になぞったシルエットになっているぞ。

 やっぱり〈アコ〉は、ひょうたん型だと思うし、すごくエロくないか。

 もう学舎生じゃなくて、一人の女性だと言うのか。


 「僕もペコペコなんだ。どこで食べよう」


 「それでしたら、〈肉詰め包〉が良いですわ。学舎町で最初に食べましたわ。〈タロ〉様、覚えていますか」


 僕が最初に怒られた時の、因縁のミートパイだな。


 「はぁ、怒られたのは良く覚えているよ」


 「ふふ、怒ってはいませんよ。ちょっぴり拗(す)ねただけですわ」


 僕達は、この世界では〈肉詰め包〉と言う名の、ミートパイを四つ買った。

 四つだとかなりのボリュームになる。

 食べきれるか心配な量だ。


 「〈タロ〉様、屋根裏部屋で食べましょう。あの部屋に行くのも、これが最後かも知れませんわ」


 ワインの瓶(びん)を二本買って、屋根裏部屋の階段を昇り始める。

 もう学舎生ではないので、こんな日はお酒を飲んでもいいはずだ。

 僕の目の前には、毛糸に包まれた〈アコ〉の大きなお尻が左右に揺れていた。


 「この急な階段に、〈アコ〉はもう慣れたみたいだな」


 〈アコ〉は一瞬、昇る足を止めて僕を振り返った。


 「えぇ、もう何も怖くなくなりましたわ」


 部屋着に着替えて見ると、部屋はソファーに占領されている。

 屋根裏部屋も、変ってしまったんだな。


 ソファーに座って〈肉詰め包〉を食べていると、やっぱり〈アコ〉が二つ目はもう食べられないと言ってきた。


 「四つは多過ぎたな」


 「同じ物になりますけど、残りは明日食べれば良いのですわ」


 ナイフで苦労してコルクを抜いたら、〈アコ〉が良く出来ましたと褒めてくれた。

 コップを用意していなので、ワインの瓶から直接飲むしかない。


 「ははっ、行儀が良い飲み方じゃないな」


 「ふふ、豪快(ごうかい)に飲みましょうよ」


 僕と〈アコ〉は、瓶からワインをグビグビと飲んだ。

 豪快かどうかは疑問だけど、不作法なことを〈アコ〉とするのは楽しい。

 悪戯(いたずらを)を共にして、秘密を共有したような気持ちになる。


 「〈アコ〉は、いつまでこうしていられるんだ」


 「いつまでもいられますよ」


 ほへぇ、どう言うことだ。


 「お母さんには、どう言ってきたの」


 「友達の家で、女子会をするって言いましたわ」


 「へぇー、〈ロロ〉の家で泊まるのかい」


 「泊まった方が良いのですか」


 「はぁ」


 「〈タロ〉様の方こそ、どうされるのですか」


 「うーん、そうだな。酔っぱらってここで寝ても良いな」


 「私は、〈タロ〉様をもう一人にはさせませんわ」


 〈アコ〉は僕に抱き着いて顔を見詰めてきた。

 僕は誘われるようにキスをする。

 〈アコ〉は僕の背中にしっかりと手を回して、しばらく離してくれなかった。

 そして、ワインを一口飲んでこう言うんだ。


 「酔ったみたいですわ。とても身体が熱いのです。〈タロ〉様も服を脱ぐのでしょう」


 「あぁ、とても熱いな」


 僕は本当に熱かったのかも知れない。

 熱に浮かされたように服を脱いだ。

 〈アコ〉は僕が服を脱ぐのを見て、部屋着の上と下を脱いでいく。

 僕がシャツとパンツを脱ごうとすると。


 「灯りを消してください」


 とか細い声でお願いされた。


 〈アコ〉はスリップ姿で、青い顔をして少し震えていたと思う。

 灯りを消して、僕がシャツとパンツを脱いだら、〈アコ〉の方からも全てを脱いだ気配がしてくる。


 絨毯の上に〈アコ〉を押し倒して、今までで一番激しいキスをした。

 〈アコ〉も、今まで見せたことがないくらい、狂ったように舌を絡ませてくる。

 僕は無我夢中(むがむちゅう)になって、〈アコ〉のおっぱいにむしゃぶりついた。


 「あぁ、つぅ、〈タロ〉様、優しくして。お願い」


 これはいけないと思って、力を抜いて優しく触ることにした。

 でもどこまで、力を抜けたかは自信がない。

 無我夢中状態は、ずっと続いていたんだ。


 僕はおっぱいに吸い付きながら、〈アコ〉の太もも周辺も触っていく。

 暗いから想像だけど、〈アコ〉は瞳に涙を溜めていたと思う。

 でも僕が気にするから、涙と痛みはギュっと我慢してくれていたんだ。


 僕は激情にかられて、「〈アコ〉を愛してるぞ」と大きな声で叫んでしまう。


 「もっと愛しています」「もっと愛してください」


 と〈アコ〉が叫び返してくれる。


 勇気を貰った僕は、〈アコ〉の身体を手と唇を使って愛撫していく。

 〈アコ〉が出す荒い息の他に、湿った音が混ざって来たので、僕は遂(つい)に決行することにした。


 もう我慢が出来ないんだ。

 興奮と欲望が、僕史上最高点になっている。

 〈アコ〉が守っていた未知なるものを、僕は求めて痛いほどなんだ。


 だけど、暗くて分からない。

 未経験では難しい。

 頭の知識とはまるで違っている。


 僕は知らずに「くそっ」「くそっ」と言ってたようだ。


 「ふふ、〈タロ〉様。焦らないで、まだ夜は長いのです」


 〈アコ〉が足の力を抜いてくれたんだろう。

 何となく分かってきた。

 何回も周辺を捜して辿(たど)り着くことが出来た。

 男は単純なのに、どうして女性はこんなに複雑なんだろう。


 火傷(やけど)をするほど熱く滑(ぬめ)ったものに、ギチギチと包まれて僕は直ぐに果ててしまう。


 ただ早いのは、痛がっている〈アコ〉には、良いことだったと思おう。

 当然、二回目はしない。


 「おっしゃー」


 僕は何とも言えない達成感で、雄叫(おたけ)びをあげる。

 〈アコ〉は「痛かったです」と可愛く言ってくれたよ。

 僕は嬉しくて愛おしくて、〈アコ〉をギュッと抱きしめて優しくキスをする。


 「〈アコ〉痛くしてごめんな。でもとても気持ち良かったよ」


 「いいえ、私はとても幸せです。最初だから仕方がないのです」


 「僕も幸せだよ」


 「ふふふ、〈タロ〉様とより強く繋がりましたね」


 「そうだよ。もう切れないぞ」


 「えぇ、〈タロ〉様をきつく束縛(そくばく)しますわ」


 〈アコ〉は笑いながら、スベスベな手と素足で僕の身体に絡みついてきた。

 この気持ちいい拘束を、外すすべを僕は持っていない。

 フアフアの髪の毛も、僕の首にしっかりと絡みついている。


 「お母さんにバレないか、少し心配だな」


 「えっと、それはバレると思いますよ。でもどってことないですわ。お母様は結婚式まではと言っていましたが、〈タロ〉様と私が望むのなら、何も問題はないのです」


 「そっか。〈アコ〉の言う通りだな」


 「えぇ、妊娠しても、誰にも文句は言わせませんわ。結婚式はまだですが、私達はもう夫と妻になったのです」


 僕と〈アコ〉は少しワインを飲んで、裸のまま抱き合って眠った。

 〈アコ〉は疲れたのだろう、「すぅー」「すぅー」寝息を立てながらよく眠っている。


 僕は「よし」とよく分からない気合を入れて、〈アコ〉のおっぱいを触りながら考えた。


 場所が分からなかったのは、しょうがいない。

 初めてだし、暗かった。


 今度は少し灯りをつけてやろう。

 小さなランプが必要だな。


 痛くしてしまったのは、仕方がないとはいえ、かなり反省しなくちゃならない。

 もっと我慢をして、潤滑(じゅんかつ)にしなくてはいけないな。


 でも痛いと言われて、少し嬉しい気持ちもある。

 僕のは小さくなかった、ということだろう。

 入れ物に比べて入れた物が、大き過ぎたと言うことに違いない。


 たぶん、〈アコ〉の演技じゃないはずだ。

 何と言っても、初めてだからな。


 でもまさか、〈アコ〉は僕が落ち込まないように、「痛かったです」と言ったんじゃないよな。

 〈アコ〉はとっても優しい女だから、心配の種がつきないぞ。


 種を放出したばかりだと言うのに、ついたばかりだと言うのに、悩みはつきないな。


 僕は本当に困ったもんだ。 

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