第569話 おっぱいに我を忘れてしまった

 「〈タロ〉様、〈サトミ〉を抱きしめてくれる」


 「うん、さっきから、〈サトミ〉を抱きしめたくてウズウズしてたんだ」


 「あはぁ、だったら今直ぐしてよ」


 僕は外を見ている〈サトミ〉を、背後から抱きしめた。

 すると〈サトミ〉は、器用に反転して僕の胸へ顔を埋めてきた。

 身体のこなしが、やっぱり上手いな。


 「〈サトミ〉、離さないぞ」


 「うん、〈サトミ〉を離しちゃ嫌だよ」


 僕は〈サトミ〉の顔を手で包みながら上に向かせて、唇にそっと唇を合わせた。

 〈サトミ〉は「ふぁ」と息を吐き、僕の背中へ回した手に力を込める。

 僕は唇にも、目にも鼻にもほっぺにも、〈サトミ〉の顔にキスを繰り返した。


 〈アコ〉と〈クルス〉とのキスの回数を、超えてキスを繰り返そうと思ったんだ。


 そうだ、忘れてはいけない。

 おっぱいも揉まないとと思って、椅子の上で体勢を変えた時に頭へ激痛が走った。

 

 「ごあぁ、痛ってえぇ」


 頭の周りを、銀色の星が放射状にチラついているぞ。


 「きゃ、〈タロ〉様、大丈夫」


 「頭が痛いんだ」


 天井が危ないと思っていたのに、おっぱいに我を忘れてしまったよ。


 「あっ、〈タロ〉様の頭に、大きなたんこぶが出来ているよ」


 〈サトミ〉が頭をさすってくれるけど、それも痛いんだ。

 でも〈サトミ〉が僕のために、さすってくれているんだから、ここはグッと我慢をしよう。


 「〈サトミ〉、ありがとう。もうだいぶ良くなったよ」


 「はぁ、〈タロ〉様。〈サトミ〉の胸を触ろうとしてたでしょう」


 「おぉ、まあそうだ」


 「ふふふん、しょうがないね。十回だけだよ」


 〈サトミ〉は上着とブラウスを脱いで、今スリップを脱いでいるところだ。

 後ろを向いているけど、首の方まで赤くなっている。


 「〈タロ〉様、十回だけだよ。約束ね」


 「うん、分かった」


 〈サトミ〉は振り返って、おっぱいを僕にさらけ出してくれている。

 僕は有難く、おっぱいをゆっくり十回揉んだ。


 「んんう、いつもよりゆっくりだよ」


 言われなくても、そうしたんだから分かっているぞ。


 「あぁ、もう終わりか」


 「あはぁ、今は終わりだけど、もう直ぐいくらでも揉ましてあげるよ。だから今は我慢してよね」


 〈サトミ〉は、ニコニコと笑いながらサッと服を着てしまった。

 いつ見ても着替えるのが早いな。

 おっぱいがブレて見えたほどだぞ。


 〈サトミ〉はもう二階へは戻らないと言ったから、〈南国茶店〉でお茶を飲むことにする。


 「ここで〈タロ〉様とお茶を飲むのも、〈サトミ〉は初めてだよ」


 「そうだったか。それならお菓子も一杯頼めよ」


 「うん、分かった」


 〈サトミ〉は、〈甘いおイモ〉を頼んで「美味しい」と言って食べている。


 「あっ、そうだ。〈タロ〉様、聞いてよ。〈サトミ〉も最終学年になったから、〈馬主任〉になったんだ」


 「〈馬主任〉か。すごそうな名前だな」


 「へへっ、そんなにすごくないけど、ちょっぴりすごいんだよ。《緑農学苑》で飼っている馬のお世話する、学舎生の責任者になったんだ」


 「大変そうだけど、やりがいのある役目みたいだな」


 「うん、うん。〈タロ〉様もそう思う。〈サトミ〉は、もう飼育当番を決めて〈馬主任〉のお仕事に邁進(まいしん)しているんだ」


 〈サトミ〉が難しい言葉を使ってるぞ。

 責任者を任され張り切っている感じが、とても可愛くて包み込んであげたくなるな。


 「おぉ、〈サトミ〉はやるな。でも身体に気をつけて無理はするなよ」


 「はい、分かっています。だけどね。それは〈サトミ〉が、〈タロ〉様に言いたいことだよ。戦争から帰って来た時に見た〈タロ〉様のお顔は、それは酷かったんだからね」


 「うっ、すみません。これからは気をつけます」


 「あはぁ、〈タロ〉様は〈サトミ〉の言うことをよく聞いて、良い子でいるようにしなさいね」


 「はぁー、僕はもう大人で、子供じゃないぞ」


 「ふふっ、でも辛い時は〈サトミ〉が抱きしめてあげるよ」


 「えぇー、逆だよ。ただ、〈サトミ〉に抱きしめられるのは、いつでも大歓迎(だいかんげい)だ」


 「あはははっ」


 〈サトミ〉が大笑いしている理由が、僕にはよく分からない。

 何かが、〈サトミ〉のツボに嵌(は)まったんだろうか。


 僕は薄ら笑いを浮かべていたと思うけど、何にしても〈サトミ〉が笑顔なのは良いことだろう。


 〈南国茶店〉からの帰り道で、久ぶりに〈サトミ〉と手を繋いで歩いてみよう。

 いつもとは、また違った景色へ変わるはずだ。

 〈サトミ〉とおしゃべりをして、二人の手から体温が伝わり合うのだから当然だと思う。



 〈ソラィウ〉が、意気揚々(いきようよう)と僕へと報告をしてきた。


 「ご領主様、バッチリです。〈ラング英雄広場〉の名称を撤回させました」


 「ほぉ、良くやったな。それで名称はどうなった。名付けそのものがなくなったのか」


 「名付けはされますよ。〈タロスィト〉広場という名前を、押す案もあったのですが、ギリギリの交渉で〈ラング広場〉と変えることが出来ました」


 うーん、〈タロスィト〉広場って、怖気立(おぞげだ)つな。

 〈英雄〉が消えただけでも、まだマシか。


 ただ、歓楽街である〈人魚の里〉にある広場に、〈ラング〉という地名が付くんだ。

 許嫁達を初めてとして、《ラング領》の女性達はどう思うのか考えると少し怖いぞ。


 これは、〈ソラィウ〉の交渉が悪かったと言うしかないな。

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