第567話 卒業記念舞踏会

  【卒業記念舞踏会(《白鶴学舎》との共催)】


〇趣旨: 諸君らの卒舎を祝し、社会へ雄々(おお)しく羽ばたくのを後押しするこ

    とが主な目的である。

     また、姉妹校の《白鶴学舎》生と変わらぬ友情と何時(いつ)までも続く

    信頼を構築し、両校の発展に繋げるものである。


〇日時: 三月の後月の一日 午後 卒舎式の終了後に実施


〇場所: 健武術場


〇演奏: 〈ヨヨーカル〉先生および本学舎卒舎生有志


〇音曲: 輪舞旋楽および跳舞旋楽


〇服装: 卒業記念舞踏会に相応しいもの。公序良俗に反していないこと。

   《白鶴学舎》生に失礼となりますので、制服での参加は控えましょう。

   事前に申請すれば貸し出しも可能です(※中古品)。


〇踊り申込:

  新入生歓迎舞踏会とは違い、《白鶴学舎》に対して事前に要請は行っていま

    せん。

  三年も時間があったのですから、踊る相手に困ることはないはずです。

  それでも撃沈(げきちん)しないことを、今から祈っております。

    また、《白鶴学舎》生が踊れていないのを発見した時は、直ちに踊りを申し

    込むこと。

    《白鶴学舎》卒舎生には、様々な場面で今後お世話になることが多いため、

    積極的に関係を 構築することが望ましいのです。


〇その他:

  婚約者がいる場合白鶴学舎生以外でも参加は可。

    この場合は事前に届け出ること。 



 おぉ、もう〈卒業記念舞踏会〉の告知が張り出してあるぞ。


 今からだったら、踊りのパートナーをダッシュで探せば間に合うってことだな。

 僕は〈アコ〉がいるので、何も焦る必要がない。

 分かっていたことなのに、告知を見て慌てているヤツがバカに見えるぞ。

 あははっ。


 〈服装〉の注意事項に〈制服〉がダメだと書いてあるが、これは過去に〈制服〉で参加した人がいるんだろう。

 着替えるが邪魔くさかったのか、金銭的に困窮していたのか。

 いづれにしても、《黒鷲》にも色んな人がいるもんだな。


 それと〈踊り申込〉の注意事項は嫌味な感じだ。

 〈三年あったからパートナーはいるはずだ〉と、すごい上から目線だよ。

 〈撃沈しないのを祈っています〉って、言い方がバカにしている感じだ。


 結構な悪意を感じてしまう。

 それとも先生の常識が、欠落しているんだろう。


 〈《白鶴学舎》卒舎生と積極的に関係を構築しろ〉と言うのも、損得勘定が先走っていると思う。 

 こういう不純な考えは、直ぐ相手に感づかれてしまうよ。


 「おっ、もう卒業記念舞踏会なのか。三年生になると、時間が経つのが早いな」


 「ほぉ、〈アル〉はこれを見ても余裕だな。もう踊ってくれる女子を確保しているのか」


 「ふっふっ、〈タロ〉君、分かる。モテる男は隠せないんだな」


 はぁー、誰がモテるんだよ。

 お前がもしモテたら、この世界に巨大隕石(きょだいいんせき)が落下するだろう。

 それほど強大なインパクトが、あることだと自覚しろよ。


 「はぁ、もしかして、〈メイ〉のことを言っているのか」


 「ふっふ、向こうから会いたいって言われたんだ。対抗戦で戦っていたのが、すごくカッコ良かったとも言われたな」


 けっ、〈サシィトルハ〉王子派の勢力拡大のために、〈ロロ〉のお茶会に誘われただけじゃないか。

 何がカッコ良かっただ。

 話題が続かないから、適当なことを言われたのに過ぎないと思うな。


 「おっ、〈タロ〉君も早速確認しているな。それとだな。この前聞いたが、〈ヨー〉さんは元気にしているのかな」


 〈先頭ガタイ〉が、ニコニコとして近づいてきやがった。

 コイツがニコニコしているのは、何だか落ち着かないな。


 「あぁ、元気にしているようだ。〈アコ〉からの伝言だと、横にいる〈アル〉と一緒に行けば〈ヨー〉と会えるらしいぞ」


 「おぉ、それは本当か。〈アル〉よ、俺も連れて行ってくれよ」


 「えぇ、良いのか。〈サシィトルハ〉王子派のお茶会だぞ」


 おぉ、〈アル〉も一応知っていたんだ。


 「そうなのか。〈ヨー〉さんは〈サシィトルハ〉王子派か。でももう問題ないぞ。〈ミ―クサナ〉との婚約は解消したから、俺は自由なんだ」


 〈先頭ガタイ〉は、やけに自由を強調しているな。

 婚約中は〈ミ―クサナ〉の束縛(そくばく)が強かったのだろう。

 よく知らないけど。



 今回の休養日も許嫁達は、〈ロロ〉のお茶会の手伝いに行ってしまった。

 護衛として〈リク〉も同行している。


 お茶会の間〈リク〉は、〈南国茶店〉を手伝っているらしい。

 〈カリナ〉は〈南国果物店〉にいるのに、どういう訳なんだろう。

 妊娠中や子供の手のかかるうちは、夫がアレしちゃうってヤツか。

 あぁ、暇だし淋しいってことだな。


 いっそ僕も行こうかと思ったけど、〈アル〉と〈先頭ガタイ〉がいるのなら行きたくなーいと思う。


「ご領主様、この前の戦争で《ラング領》の穀物とイモが大量に売れました。備蓄倉庫の中も整理でき、なかなかの儲けとなっております」


 駆け落ち夫が、生真面目に貿易の概略を報告してくれる。


 「おぉ、儲かったな。ご苦労様」


 「いや、私は大したことはしていませんよ」


 イケメンは、照れて頭をかく動作も男前だな。

 消えてしまえ。


 「そうだ。〈卒業記念舞踏会〉の告知が張り出されたんだが、《青燕》もあるんだろう。何とかコネを使って捻(ね)じ込んでやろうか」

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