第564話 どうして王宮に〈クルス〉がいるんだ
「〈タロ〉様、こちらへいらしてください」
えぇー、どうして王宮に〈クルス〉がいるんだ。
「はぁー、〈クルス〉がどうしているの」
「《赤鳩》の職場実習で来ています。〈タロ〉様から今日の功績者発表会のお話を聞いてなかったので、もしかしてと思っていたのです」
「《赤鳩》も実習があるんだ」
さすがは《赤鳩》の二番でエリートだな。
国王に一番近い〈王事局〉が実習先なんだ。
白いタイトスカートとジャケットが、キリリとして良く似合っているぞ。
この〈王事局〉の制服を実習が終わったらくれないか、〈クルス〉に聞いて貰おう。
「そのようなことは後にしましょう。今は服を早く着替えてください」
「それが、服を用意していないんだ」
「大丈夫です。念のため私が、今朝〈南国果物店〉に立ち寄って持ってきています」
「はぁー、〈クルス〉はすごいな」
「さすがだな。《赤鳩》の二番だけのことはあるな」
〈王事局〉の職員が、驚いたように小さな声で呟(つぶや)いていた。
僕はその後、〈クルス〉に手伝って貰い服を手早く着替えて、何とか功績者発表会に間に合うことが出来た。
功績は〈サシィトルハ〉王子が一番で、〈タィマンルハ〉王子が二番で、僕が三番目となっている。
まあ、指揮官はこの三人しかいなかったのでこうなるよな。
王国だから、僕の功績が王子より良くなるはずもない。
ただ、〈海方面旅団〉の活躍が認められ国王から表彰状を賜り、特別手当も支給されることになった。
少し増員もされるらしい。
特別手当は、〈サシィトルハ〉王子軍と〈タィマンルハ〉王子軍の兵士にも支給されるから、王国はこの勝利をかなり重要視しているんだろう。
おまけに、僕と〈副旅団長〉にも勲章が授与された。
両王子ものよりは、かなり劣(おと)るものだけど、〈副旅団長〉は泣きそうなほど喜んでいる。
僕はギリギリにホールへ入って来たので、〈副旅団長〉がいることも知らなかったよ。
「〈旅団長〉様、功績が認められて私は嬉しいです」
「そうか、良かったな。でも、はしゃぎ過ぎは禁物(きんもつ)だぞ」
〈副旅団長〉もこれで、奥さんに濃厚で過激なサービスをして貰えると思う。
巨尻プレスを連続でブチかまされて、ヒィヒィと叫ぶ姿が容易に想像出来る。
はしゃがれ過ぎて、腰を痛めないよう気をつけて欲しいものだ。
「はい。おっしゃる通りです。〈一番実の成っている枝は、一番低く垂(た)れる〉ですよね」
おぉ、〈副旅団長〉が何か賢そうなことを言っているぞ。
「《ラング伯爵》、君はすごいな。今さっき聞いたよ。王宮に作業服で来たらしいな。この王国始まって以来の快挙(かいきょ)だと思うぞ。これを吟遊詩人に語ってもらえば、大爆笑間違いなしだよ。ははははっ」
〈サシィトルハ〉王子に、思い切りからかわれてしまったよ。
二番で悔しいはずの、〈タィマンルハ〉王子までが笑ってやがる。
「はぁー、実習中だったのです」
「ははっ、胃が悪そうな班長がいるだろう」
「えぇ、いますよ。今朝も痛そうにしていました」
「ふふっふ、可哀そうだから、手加減(てかげん)をしてあげろよ。あぁ、それと〈スアノニ女子修道院〉は、院長のたっての願いで《ラング領》に再建することになったから、よろしく頼むぞ」
かぁー、何が手加減しろだと、僕は真面目に実習しているだけだ。
それに修道院を《ラング領》に建てるのなら、事前に相談するのが当たり前だろう。
〈サシィトルハ〉王子派になったのは、失敗だったのか。
「はぁー、《ラング領》みたいな田舎にですか」
「《ラング領》は発展中だと聞いているし、中央部に修道院を建てられるほどの広い空き地がないんだ。一番大きい理由は、君が院長のお気に入りってことだよ。心配しなくても建設費用は国が持つし、許嫁には黙っておいてやるよ。ははははっ」
けぇー、何が〈許嫁には黙っておいてやる〉だ。
誤解しているようだが、僕は熟女好きではない。
おっぱいも当たっただけで、一瞬も揉んでないわ。
でも一つ良いことがあるな。
新町の恐ろしい空白地帯が、これでかなり埋まるぞ。
〈スアノニ女子修道院〉は、大きな敷地で大きな建物にして貰おうっと。
功績者発表会が終わって、出席した貴族にお祝いを言われていると、〈王都旅団長〉の〈セミセ〉公爵と〈王国軍司令官〉の〈バクィラナ〉公爵のおっさん二人が、ニヤニヤと笑いながら近づいてきた。
「《ラング伯爵》、大変ご苦労様だった」
「また素晴らしい軍功をあげたようで良かったよ」
「ふっ、お二人は一体どこで、冬休みをとられていたのですか」
僕がこう言うとおっさん二人は、困ったような顔をしてどこかへ行ってしまった。
自分達が上手くやったのを、少しは悪かったと思っているんだろう。
まあ、終わったことだし、今嫌味も言えたしもう良いか。
それより、疲れたから王宮から退散したいな。
だけど、作業服に着替えるのをどうしたら良いんだ。
「〈タロ〉様、無事に終わったようですね。間に合って良かったです」
「〈クルス〉、危ないところを助かった。〈クルス〉が婚約者で本当に良かったよ」
「うふふ、お役に立てて良かったです」
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