第551話 〈サトミ〉も祈っている
軍議の中で話し合われた今回の功績は、〈サシィトルハ〉王子に分(ぶ)があるようだ。
司令官と思われる将校を確保したことと、南側の丘を守り切ったことが大きな戦功になるらしい。
〈タィマンルハ〉王子が守っていた北側の丘は、〈青白い肌の男達〉の攻勢のためズタズタに破られ大量の逃走者を許したようだ。
東側の丘から見ていた限りでは、北側の丘へ〈青白い肌の男達〉が殺到(さっとう)していたので単なる運だと思うけど、表面に現れる結果が全てなんだろう。
また弁明するにも、〈タィマンルハ〉王子側は伯爵だから、身分に差があることも難しくしている気がした。
東側の丘を守っていた〈海方面旅団〉は、若干の逃走者が認められたが、寡兵の割によく耐えたという評価らしい。
兵站の功績もあるので、〈海方面旅団兵〉にボーナスみたいのが出そうな感じだ。
いや、〈サシィトルハ〉王子に直談判でもして必ず出して貰おう。
正式な軍功は、国王へ報告を上奏(じょうそう)して、その裁定が下されるまで待つ必要がある。
たぶん、相当な時間がかかるはずだ。
軍議の後半は、この戦場の後始末について話し合われた。
味方の戦死者は、もちろん家族の元へ返されるが、敵側の大勢の戦死者はこの場で埋葬されることになった。
ここが王国の直轄地であり人里からも離れており、第一番に大量の死体を運ぶことも埋める場所にも困るからだ。
両王子の見解は、「〈修道女〉達もこのような人里から離れた場所は、嫌に決まっているから場所を移したら良い」とのことであった。
そうかも知れないが、事前に相談くらいはしてやれよとは思う。
まあ、この国は王政が敷かれていて、決めたのは王位継承者なんだから、どうしようもないよな。
軍議が終わっても、〈海方面旅団〉は忙しい日々が続きそうだ。
まず、〈青と赤の淑女号〉に乗船している〈修道女〉を〈トリクト〉の町に運んで、味方の重傷者と遺体を同じく〈トリクト〉の町へ運ぶ必要がある。
降ろした後は、更に敵側の遺体を埋めるための穴を、掘る道具も運んでこなくてはならない。
味方の重傷者は三百人近くいるし、遺体も百体を超えている。
僕の冬休みは完全になくなるけど、亡くなった人が大勢いるんだ。
とてもじゃないが、不平不満を言う気持ちにはなれない。
〈海方面旅団兵〉も同じような気持ちなんだろう。
口を真一文字に「キュッ」と結びテキパキと作業をこなしている。
でも、許嫁達の柔らかい唇とおっぱいとお尻が恋しいな。
三人は今どうしているのかな。
僕のことを考えてくれている時間もあるのかな。
次に逢う時には、顔を思い出して慰(なぐさ)められていたと言おう。
おっぱいを思い出して、手で慰めていたと言うよりずっと良いと思う。
〈青白い肌の男達〉の死体を穴に埋めて、簡単な墓標が立てられた。
〈スアノニ女子修道院〉の院長と助祭の〈修道女〉が、どうしても祈りを捧げたいと墓標の前で跪(ひざまず)いている。
僕と〈海方面旅団〉は、その後ろで頭(こうべ)を垂(た)れている。
祈りの言葉を知っている〈旅団兵〉は、院長の祈りに合わせて唱和(しょうわ)をしているようだ。
僕は全く分からないから、自分なりの言葉を心の中で呟き冥福を願った。
僕の隣で、〈サトミ〉も祈っていると感じたのは、悪いことじゃないはずだ。
両王子達は、もうここにはいない。
軍を率いて王都へ帰還している途中だと思う。
長い祈りの後に、院長が〈修道院〉の瓦礫(がれき)を見ながら「よく焼けましたね」とポツンと言った。
悲しんでいるのでも、怒っているのでもない顔だと思う。
ただ、淋しそうな顔だと思った。
僕は、どう返事をしたら良いのか分からなかったので、ただ「すみません」と謝っておいた。
「《ラング》伯爵様が、悪いわけじゃありませんわ」
と院長は否定をしてくれた。
更に院長は、「《ラング領》の発展は著(いちじる)しいと聞いております」とニッコリと笑って付け加えた。
「はははっ、田舎ですよ。大したことはありません」
「《ラング》伯爵様とは、この度(たび)ご縁(えん)が生(しょう)じました。このご縁は、とても良ものと私は確信いたしております」
「はははっ、縁ですか。私も院長と出会えて良かったですよ」
「うふふ、そう言って頂いて光栄ですわ。少し地面が凸凹になっていますので、腕をお貸し願えますか」
そう言いながら、院長は僕の腕に掴(つか)まってくる。
確かに死体を埋めるために穴を掘ったから、地面が凸凹で歩き難いのはその通りだ。
ただ、僕の腕をもう離さないとでも言うように、ガッチリと拘束してくるのはどうなんだろう。
院長はふくよかな身体の持ち主だから、おっぱいが腕に当たっているぞ。
僕は熟女好きじゃないから、こんなことに負けはなしないよ。
気をしっかり持って、この柔軟な攻撃に耐えてみせるよ。
〈アコ〉のおっぱいを思い出せば、おそらく簡単なことだと思うよ。
〈青と赤の淑女号〉は長い任務を終えて、《アンサ》の港まで帰ってきた。
大勢の人が見えるのは、僕達の出迎えなのかも知れないな。
錨を降ろした〈青と赤の淑女号〉は、船体を僅かに左右に振って「良い所のお嬢さんの私を、よくもこき使ってくれましたわね」と少し怒っているように思う。
だから、僕は〈海方面旅団兵〉に〈青と赤の淑女号〉の清掃やメンテナンスをしっかりやるように伝えることにした。
お嬢さんに乗った後は、アフターが大切なのは常識だろう。
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