第9章 冬休みは、流れ去った

第540話 青と赤の淑女号

  はぁー、大規模な軍の編成って、戦争になるのか。

 〈青白い肌の男達〉って何者なんだろう。

 段々気が重くなってくるよ。


 まずは、〈王国御前会議〉だな。


 〈王国御前会議〉は、グダグダと言い争いが続いて、良くない方向へ向かってしまった。

 〈青白い肌の男達〉への対応を協議する場であったのが、後継者争いの場となってしまったんだ。


 〈サシィトルハ〉王子と〈タィマンルハ〉王子が、それぞれ軍を率いて遠征することになったんだ。

 王都旅団は真っ二つにされて、それぞれの派閥の領地貴族の軍が、それに足されるという感じになった。

 両王子は、それぞれ五百名の軍を率いて合わせて千人の軍編成だ。

 大部分の領地貴族は、日和見(ひよりみ)だから、殆どが予備軍になってしまっている。


 これが世に名高い、戦力を分けて逐次投入(ちくじとうにゅう)するという最強の必負(ひっぱい)パターンじゃないのか。


 これは、いくらなんでもマズイよ。

 軍事戦略に詳しくない、僕でも容易に分かる。

 たぶん、皆が皆、〈青白い肌の男達〉を舐めているんだな。

 他国でも、領地が反乱を起こしたわけでもないから、ただの犯罪集団で軽く一ひねり出来ると思っているんだろう。


 救いは〈海方面旅団〉が、補給しかしなくても良いことだ。

 〈アンモル山地〉に源(みなもと)がある〈スアノニ川〉を、中流域まで遡(さかのぼ)って補給物資を降ろすだけで良いらしい。


 〈王国御前会議〉が終わったら、大忙しになってしまった。


 舐めているくせに、両王子が手柄欲しさに、直ぐに軍を動かしてしまったんだ。

 〈スアノニ川〉の中流域へ、十日後には補給物資を届けるよう命令しやがる。

 これから物資を集めるのに、そんなのは、どだい無理な話だよ。


 両王子は、何も知らないお坊ちゃんなんだな。

 王国の行く末が誠に案じられるよ。


 それに時間が無さ過ぎて、許嫁達としばしの別れを惜しむことも出来なかった。

 これが一番腹立たしい。


 首にヒモをかける大きなお守りを貰って、キスをして少しおっぱいを揉むことしか出来なかったんだ。

 三人を順番で僅(わず)かな時間しか割(さ)けなかったので、許嫁達も物足りなさそうにしていたぞ。

 僕にしがみついて中々離れなかったので、もっと、おっぱいやお尻を触って欲しかったに違いない。

 僕も、もちろん同じ気持ちだ。

 早くこの騒動が終わって、時間をかけて濃密にイチャイチャしたいな。


 〈リク〉と駆け落ち夫をお供に、馬を飛ばして《アンサ》の港へ向かった。


 「〈副旅団長〉。あっ、名前は〈ボツ〉だったな。物資の準備は出来ているか」


 「今、〈深遠の面影号〉から〈青と赤の淑女号〉へ、食料を積み込んでいるところです。矢尻(やじり)とかの武器や他の補給品は、積み込みが終わっています」


 奥さんばっかり褒めてたけど、この副旅団長もそこそこ優秀だったな。

 準備状況の把握は、しっかり出来ているようだ。


 「それじゃ、いつ出発出来る。両王子からは、九日後に〈スアノニ川〉まで来いと言われているんだ」


 「旅団長様、大変厳しい日程です。最善は尽くしますが、到着出来ない可能性が高いと考えます」


 副旅団長は顔を俯(うつむ)けて、身体を縮こめるように返事を返してくる。

 まあ、流れが緩(ゆる)い大河らしいけど、川の流れを遡るんだ。

 かなりの時間がかかるんだろう。


 「旅団長様、お話を遮(さえぎ)って申し訳ありませんが、私は何とか間に合うと考えています。船を引く馬と、川幅が狭くなり流れが急となる箇所に、小舟を既に手配しております」


 「嫁の言ったとおりなのですが、風向きが悪ければ時間がかかります」


 「ふふふ、何言っているのよ、あなた。長年従事(ながねんじゅうじ)していた水上での兵站(へいたん)は、あなたが王国で一番だわ。もっと自信を持ってくださいよ」


 奥さんはこう言って、豪快におっぱいを上下に揺らして笑っている。

 身体も大きいから、おっぱいも笑い方も豪快なんだな。

 豪快なのは、どでかいお尻だけじゃなかったんだ。

 

 それに、美人じゃないのになぜか存在するだけで、周りを前向きで明るい気持ちにさせてしまう。 

 たぶん、度量も度胸もどでかいんだと思う。


 「はっ、そうでした。〈海方面旅団〉は、戦いでは役に立ちませんが、水上での兵站は得意中の得意です」


 副旅団長の顔が明るくなったのは良いと思うが、こうも堂々と〈戦いでは役に立ちません〉と言い切るのはどうなんだろう。

 事実だから仕方がないか。


 頭が少し痛くなったので、僕はこめかみを揉もうとして、机の上の書類を落としてしまった。

 それを奥さんが、拾おうとしゃがんだ時に「ビリビリ―」と大きな音が鳴り響いた。


 奥さんが履いていた、秘書の制服であるタイトなスカートが、大きく破れてしまったんだ。

 青と赤の細かいストライプだったものが、青と赤の極太のストライプに変わり果てて見えてしまっている。

 ストライプが太くなっただけでは飽き足らずに、Tバックみたいにヒモとなって、お尻の割れ目に食い込んでいるぞ。

 絶対的な布の面積が、かなり不足しているんだと考察出来た。


 副旅団長は美人秘書に履かそうと用意していたストライプのショーツを、しょうがないから奥さんに履かせているのか。

 何かが目に沁(し)みて、涙が出そうになるよ。

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