第537話 【許嫁女子会(多数派工作)】

  【許嫁女子会(多数派工作)】


 「この間の舞踏会は、色々とありましたね」


 「そうね、〈クルス〉ちゃん。疲れると思ったわ」


 「〈サトミ〉は、〈タロ〉様と踊れて良かったよ。でも、ひどいことを言われたね」


 「ふふふ、あの後の授業で〈ミ―クサナ〉は、土に塗(まみ)れて泣きそうになってましたわ」


 「うふふ、〈サヤーテ先生〉は、さぞ怖かったでしょうね」


 「あっ、でも大丈夫か心配だよ。あの人が王妃になったら、お姉ちゃんへ仕返しをするかも知れないな」


 「ふん、私達をバカにした〈ミ―クサナ〉が、全面的に悪いのですわ。ただ、性格がねじ曲がっているから、〈サトミ〉ちゃんの心配はよく分かるわ」


 「そうですね。〈サヤーテ先生〉だけじゃなく、〈タロ〉様にも何かしてきそうです」


 「うん。あの人なら、何でもやると〈サトミ〉は思うよ」


 「だから、〈タロ〉様は〈サシィトルハ〉王子派になると言ったのですわ」


 「〈タロ〉様は、お友達の〈バクィラナ〉さんの扱いにも、憤慨したのだと思いますよ」


 「〈クルス〉ちゃんの言う通りだと思うわ。親と相手が自身の意思を蔑(ないがし)ろにして、婚約を破棄させたんでしょう。それはないんじゃない」


 「ひどいと思う。〈サトミ〉が〈タロ〉様と婚約破棄になったら、もう立ち直れないよ」


 「〈サトミ〉ちゃん、私も、きっとまた引きこもってしまいます。それほど悪逆非道な行いです」


 「だから私達で、〈サシィトルハ〉王子派を増やしましょう」


 「でも〈アコ〉ちゃん、〈サトミ〉達の知り合いは学舎生しかいないよ。決めるのは大人の人じゃないのかな」


 「もちろんそうよ。ただ、今はほとんどの家が様子見なの。学舎生は家族の中でもそれなりの発言力はあるはずだから、その子がハッキリと〈サシィトルハ〉王子派になれば、天秤(てんびん)はゆっくりでも傾くと思うの」


 「ふぁ、〈サトミ〉達で王国の天秤を動かすんだね」


 「ふふ、私達の力はとても小さいと思います。でも、諦めなければ道は開いてくれるはずです。具体的に増やす方法は、〈ロローナテ〉様がされている集まりに、まず知り合いを連れていきましょう」


 「そうね。〈ロロ〉の集会では、お菓子を大量に増やして貰うわ。そうすれば、〈ヨー〉が釣れて、〈バクィラナ〉さんも一緒に来そうだわ」


 「うふふ、お菓子目当てで他の女子も来る可能性が高いですね。それに、向こう側の公爵家の息子さんを、引き入れれば衝撃的なことになります」


 「あはぁ、婚約破棄されたから、すごく怒っていると思うな。だけど、〈サトミ〉は何をすればいいの」


 「〈サトミ〉ちゃんは、《緑農学苑》の中で、〈タロ〉様が〈サシィトルハ〉王子派になったと広めてくれれば良いのよ」


 「えっ、〈クルス〉ちゃん、それだけで良いの。あんまり効果はないと思うな」


 「〈サトミ〉ちゃん、〈タロ〉様は英雄なのですよ。直接的に平民は、後継者争いへ関与をすることはありませんけど、多くの人々の思いは無視出来ないものです」


 「へへっ、〈タロ〉様がついた方に、皆の支持も集まるってことか」


 「うふふ、当然ですわ。私達の未来の夫ですもの」


 「ふふふ、〈タロ〉様は、戦争で活躍して魔獣も倒して誘拐事件も防いでいますわ」


 「あはぁ、吟遊詩人の唱にもなっているしね、それじゃ〈サトミ〉は、近所や商店街の人にも広めておくね」


 「うふふ、きっとそれが段々と大きな流れになって、誰も抗えない巨大な渦を巻くと思いますよ」


 「あっ、少し違う話だけど、お姉ちゃんから伝言があるんだ。〈健体術〉の授業が大変だって聞いたから、お姉ちゃんに、〈アコ〉ちゃんと〈クルス〉ちゃんに優しくしてねって言ったら、伝えて欲しいって言われたの」


 「まあ、〈サヤーテ先生〉に頼んでくれたの。〈サトミ〉ちゃん、ありがとう」


 「本当に助かりますが、〈サヤーテ先生〉はどう仰っていました」


 「本来はどうかと思うけど、〈ミ―クサナ〉君に罵倒(ばとう)された仲間だ。協力をしようと伝えて欲しいって言ってたよ」


 「ふっ、協力ですか。大変心強い仲間が増えましたね」


 「〈クルス〉ちゃん、どういうことなの。良く分からないわ」


 「〈サヤーテ先生〉は、〈ミ―クサナ〉さんが王妃になれば、良くないことが起こると考えたのだと思います」


 「〈クルス〉ちゃん、そのことは、〈サトミ〉達も今考えたことだよ」


 「そうです。同じ考えですから、互いに協力するのです。たぶん、〈サヤーテ先生〉は仲間以外には、どうかと思うことをするのだと思います。その分、仲間は楽になるということですね」


 「はぁ、〈サヤーテ先生〉らしからぬ。かなり際(きわ)どいことを考えたのね」


 「〈アコ〉ちゃん、〈サヤーテ先生〉は〈ミ―クサナ〉さんのことを、大変な脅威(きょうい)と思っているのでしょう」


 「はぁー、お姉ちゃんは昔からなんだ。売られた喧嘩(けんか)は、相手が泣くまでやっちゃうんだよ」


 「ひぇー、泣くまでどうするのですか」


 「ひぃー、聞きたくありませんわ」


 「ボコボコだよ」


 ― それからも、三人は思いつくままに計略を、時には怒りながら、時には笑いながら、時が経つのを忘れて話し続けた。胸のすくような作戦や、少し意地の悪い作戦も混じっていた。真夜中を過ぎて静寂が町を包んでも、まだ三人の話はつきなかったようだ。 ―

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