第528話 黄金の襟巻留め

 これは、もっと儲かりそうだぞ。

 でもこの予想は、〈リーツア〉さん達には黙っておこう。

 それが大人の処世術(しょせいじゅつ)ってヤツだ。


 〈サトミ〉も呼んで、襟巻を渡すことにした。

 もちろん、黄金の襟巻留めも一緒にだ。


 「この襟巻は、〈ルメータ〉の親御さんに頂いたんだ。爪切りは〈レィイロ〉の親御さんからだ。お産を始め、三人にはとても感謝していると言っていらしたよ。それとこの襟巻留めは、僕からの贈り物なんだ」


 三人は銀オコジョの襟巻をちょっと撫(な)ぜて、爪切りを少し動かした後、襟巻留めを手に取って胸に抱いている。

 うーん、失敗したな。

 胸につけるブローチが欲しかったのか。


 「ふぁ、〈タロ〉様、ありがとう。サトミ〉はねぇ。この襟巻留めを一生大切にするよ。〈サトミ〉の宝物が、また増えちゃったよ」


 「うふふ、ありがとうございます。これは〈タロ〉様が、採取された紅水晶ですね。これで縁(えん)がより強固になりました」


 「ぐすっ、〈タロ〉様、胸を一杯にさせないで。不意打(ふいう)ちしたら、いけませんわ。心が止められなくなります」


 〈サトミ〉は、吃驚したような顔だ。

 〈クルス〉は、嬉しそうに笑っている。

 でも、〈アコ〉は少し泣いているぞ。


 同じ物を贈っただけなのに、反応がそれぞれ違い過ぎるので、僕は戸惑(とまど)ってアタフタしてしまう。

 茫然としている僕の胸に〈アコ〉がしがみ付いて、左右からも〈クルス〉と〈サトミ〉が抱き着いてきた。


 三人のじんわりと温かい体温と柔らかなおっぱいを感じて、不安だった僕の心はじわじわと満たされていく。

 プレゼントを喜んで貰ったみたいだ。

 贈り物をして本当に良かった。

 三人の頭を撫(な)ぜながら、心の底から思う。


 三人が襟巻と襟巻留めをつけて、僕に「似合う」と聞いてくるから。

 僕は、「すごく似合っているよ。上品で美人のお嬢様に見える」と思い切り褒めておいた。


 〈アコ〉も、もう笑って三人ともニッコニッコだ。

 これだけ褒めておけば、おっぱいもきっと揉み放題だろう。


 赤ちゃんを背負った〈ルメータ〉にお礼を言って、三人は〈南国果物店〉の奥でお茶をしている。

 試作品のおイモのパウンドケーキの試食も兼ねてだ。


 パウンドケーキには、〈緑農祭〉で購入したバターと卵と牛乳を、ふんだんに使用している。

 僕も食べたが、美味しいけど結構バターが効いてて重い感じもうける。

 これを食べると体重が増えそうだな。


 〈アコ〉のお腹の辺りをチラッと見たら、キッと睨まれてしまった。

 さっきの泣き顔は何だったんだろう。


 僕がもう一切れパウンドケーキを取ろうしたら、〈クルス〉に手をパッと掴(つか)まれてしまった。

 えっ、僕はもうパウンドケーキを、食べちゃいけないってことか。


 ここのオーナは僕なのにそんな。

 僕の立場と威厳(いげん)はこんなに低いのか。

 犬の〈ガリ〉でさえ切れ端(はし)を、穴の中で食べているぞ。


 「〈タロ〉様、この爪は何なのですか。汚いです。伸び過ぎですし、泥が詰まっています」


 〈クルス〉に「汚い」と、吐き捨てられちゃったよ。

 〈クルス〉はこんなに潔癖(けっぺき)だったかな。

 学舎の衛生環境関係の授業が、過激すぎるんじゃないのか。

 〈クルス〉といたす時は、事前のお風呂が必須になりそうだな。


 「えぇー、少し爪は伸びているかも知れないけど、泥は詰まってないよ」


 爪の中が薄っすら黒くなっているのは、この前の軍事的演習の時だな。

 薄っすらだから、泥が詰まっているは完全な言い過ぎだ。

 とても認められることじゃない。


 「あはぁ、ちょうど爪切りを貰ったばっかりだから、〈サトミ〉が切ってあげるよ」


 「ふふ、〈サトミ〉ちゃんの言う通りですわ。良い機会(きかい)でしたね」


 「爪はそれで良いとして、泥はお風呂で洗いましょう」


 「はぁー、爪なのにどうしてお風呂まで入るんだ」


 「ふっ、〈タロ〉様は、爪以外にも泥を溜めているに決まっています」


 一組じゃないから、この前の軍事的演習では、そこまでドロドロになっていないぞ。

 でも僕の抗議は、「〈タロ〉様ですからね」と言う情け容赦(ようしゃ)のない非情な理由で、相手にもされなかった。


 将来の夫を、爪の先ほども信用していないのか。

 今切ろうとしているから、全く信用していないってことだよな。


 僕は三人に周りを囲まれて、パチンパチンと爪を切られている。

 手でだけでなく足の指もだ。


 三人のすべすべの手が、僕の腕や脚を撫ぜ回してくる。

 三人同時に切ろうとするから、腕や脚を必要以上に掴まなくてはならないんだよ。

 もうその位でやめようよ。

 爪を切るだけなのに、変な気分になるじゃないか。


 僕が変な気持ちを抑えている間に、服を全ぶ脱がされ、お風呂へ連行されてしまった。

 僕の裸に慣れ過ぎだと強く思う。


 許嫁達三人も、服を脱いでタオル姿でお風呂に入ってくる。


 ただ、〈アコ〉がヤバい。

 おっぱいが大き過ぎて、通常のバスタオルでは隠しきれていないぞ。

 どこかと言うと、マロン色のものだ。

 マロン色が、チラチラとバスタオルの下から覗いている。


 これは黙っているべきか。

 それとも、注意してあげようか。

 悩むところだ。

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