第525話 アレってことだ

 それに《青燕》生のあそこも、皆五十歩百歩(みんなごじゅっぽひゃっぽ)じゃないか。

 ドングリ達の哀れな背比(せいくら)べだ。

 電撃特殊別働隊の凸凹コンビの凸の方は、ひょろっとしているし、凹の方は。

 おぉー、かなり大きいぞ。


 だが冷静になれ。

 身体が小さな人は、比率であそこが実際より、大きく見える場合があるらしい。

 きっとこの凹も、そうに違いない。


 だから、正当な評価をしてあげよう。

 僕のあそこはそこそこだけど、度量は広いんだ。


 「皆、注目してくれ。今日の勝利の功労者の二人だ。拍手で称えようじゃないか」


 「おぉー、〈トル〉〈シヨ〉良くやったぞ」


 「旗をブンブン振ってたのは、かなりカッコ良かったな」


 大浴場が大きな拍手と歓声に包まれた。

 凸凹コンビは照れ臭そうに、あそこを縮こませている。

 それはそうだ。

 こんな場面で大きくしたら、かなりヘビーな変態だ。


 それしても、名前が〈デコ〉〈ボコ〉じゃないのが、とても残念だ。

 もう改名してしまえよ、という感想を持つ。


 大浴場が陽気な笑いに包まれていると、泥を落とした一組が入ってきた。


 大浴場へ入った途端、止せば良いのに〈フラン〉を捜したのだと思う。

 女の子のような可愛い顔をしているからな。

 そうすると測(はか)ったように、さっきと同じこと繰り返しやがった。

 〈フラン〉を見て落ち込んで、僕を見て立ち直るんだ。

 僕の笑いは引きつってしまうよ。


 「伯爵様、お話をしても良いですか」


 話しかけてきたのは、確か、《青燕》の二組の〈主導与力〉だったと思う。


 「おぉ、良いけど。同学年だから、様付けはいらないよ。君付けでどうだい」


 「それじゃ、〈タロ〉君。〈レィイロ〉は元気にやっていますか。あんなことがあって、退舎したから心配なのです」


 「おぉ、元気にやっているぞ。子供も無事生まれて、もうお父さんだぞ」


 「あっ、お父さんですか。そうなりますよね。ただ、つい最近まで机を並べていたのに。信じられない気がします」


 他の《青燕》も「はぁー、子供か」「同い年なのに」と口々に言い出した。

 無理もないと思う。

 僕も今父親になったら、とても戸惑(とまど)うはずだ。

 そう思うと〈レィイロ〉は、もう大人なのかも知れないな。


 「嫁の〈ルメータ〉さんは、どうされています」


 「ほぉ、奥さんの方も知っているのか。もちろん母子ともに元気だよ」


 「えぇ、《赤鳩》の同学年では、一番色気があると有名でした」


 へぇー、そうなんだ。

 確かにすごい色気の持ち主だと思う。


 「《赤鳩》の学舎生で一番の美人は誰なんだ」


 「えっ、それは言い難(にく)いですね。〈タロ〉君の許嫁さんも、とても綺麗ですよ」


 言い難いってことは、〈クルス〉が一番とは思ってないんだ。

 何て失礼なヤツなんだ。

 でも、変に横恋慕(よこれんぼ)されるよりは良いか。


 今度〈クルス〉に逢ったら、僕は〈クルス〉が一番だとゴマをすっておこう。

 特別なサービスを、してくれるかも知れないぞ。


 《赤鳩》の一番を他の《青燕》生も話していたけれど、〈ルメータ〉を始め、色々な女の子の名前をあげていた。

 まあ、じっくりと顔を見たわけじゃないと思うし、好みは人それぞれだからな。


 ただ、少し気になることも聞こえてきた。

 〈クルス〉が、冷たいとの印象を持っているらしい。

 頭は良いのだけど、殆(ほとん)ど笑わないしツンとしている印象らしい。

 学年のトップスリーと成績が超優秀で、人と交わらない近寄りがたい人と表現されていた。


 《赤鳩》では友達も出来ているけど、ほぼ初対面の《青燕》生には壁を作っているのだろう。

 〈クルス〉に、愛想笑いは出来ないと思う。


 「でも、〈タロ〉君といる時は違うね。〈タロ〉君と腕を組んでいるところを見たよ。とても嬉しそうに笑っていたね」


 げぇー、見られていたのか。

 屋根裏部屋から帰る時だな。

 人目を気にせず腕を絡ませていたからな。


 「それに〈タロ〉君のパンツが、《赤鳩》に干してあったと噂が流れているよ」


 「えぇー、そうなのか」


 「うん、それはアレってことだよな」


 「あぁ、アレしてコレってことだ」


 「おぉー、やっぱりソレだったのか」


 「くっそー、〈タロ〉はやっぱり許せないぞ。《白鶴》の許嫁とも、ソレしているんだろう」


 ソレってなんだよ。

 僕はまだ、お預けを食らわされているぞ。


 「皆、腹が立っただろう。もう一度あの歌を歌ってやろうぜ」


 げぇー、あの歌はもうごめんだ。

 何かで、あの歌から気を逸(そ)らさないとマズいぞ。

 変な歌を歌うバカな連中の興味を引くことだ。


 そうか。〈緑農祭〉のコスチュームが良いな。

 こいつらは、お揃(そろ)いのコスチュームに弱いと決まっている。


 「ちょっと待った。僕は良い情報を持っているぞ。聞きたくないのか」


 周りで「良い情報って」「何のことだろう」「聞くだけ聞くか」とボソボソ声が上がってきた。

 伯爵様で海方面旅団長だからな、皆の知らない情報を持っていると思ったのだろう。


 「僕は〈緑農祭〉で遭遇(そうぐう)したんだ。お揃いの民族調衣装をまとった、十数人のうら若き学舎生だ。スカートは短いと付け加えよう。この情報はどうだ」


 「えっ、〈緑農祭〉ってなんだ」


 「あれだ。《緑農学苑》主催の即売会だと思う。お母さんが行くと言ってたよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る