第523話 ちっちぇ男達

 次々と挑んでくるけど、皆転んでもっとドロドロだ。

 本当にこいつ等の頭は良いのか。

 もうここは諦めて、違うルートから行くしかないだろう。


 「こんなのおかしいよ。僕達の方が有利なはずだ」


 「この崖は諦めて、枯草を突っ切ろう」


 やっと気づいたのか。

 一組の連中は、背丈まである枯草の中に分け入っていった。


 相当苦労して進んでいるようだ。

 「くっそ、この枯草め」と悪態(あくたい)が聞こえてくる。


 「枯草モグラ作戦を開始しろ」


 僕が即興で考えた作戦名だ。

 作戦内容は、今さっき班長と副班長に伝えてある。

 要は枯草から、頭を出した直後を叩けというものだ。

 作戦と言えるほどではないけど、こんな時は乗りも大切なんだ。


 ただ、僕の命令に誰も反応してくれなった。

 これが冷たく無視されたという現象なのかな。

 周りに誰もいなくて聞くことが出来ないので、自信はありません。


 僕達二組は崖に一つの班だけ残して、枯草の方から道に入ってこようとするヤツの邪魔をしている。

 枯草がガサガサと動いた場所を、数人で一斉に突くんだ。

 一方的に突かれて、「ガハッ」「痛い」とまた枯草の方へ戻っていってるぞ。


 我が二組の連中は、「落ち武者がりだ」と嬉しそうに突いている。

 えっ、僕の考えた〈枯草モグラ作戦〉はどうするんだ。

 組長が考えた作戦名を使用しないとは、二組はもう瓦解(がかい)してしまっているんじゃないのか。

 これが組織の内部崩壊ってヤツなのか。


 一組は「落ち武者がり」に対抗するため、拠点への道を守っていた班も一人だけ残して攻撃に参加させたようだ。

 人数を同数にしなければ、とても守備を抜けないと判断したんだと思う。

 それと二組は守備一辺倒で、攻めはないと判断したのかも知れない。


 今の状況を整理すると。組はそれぞれ三班に分かれている。

 そのうち両組の一つの班は、難所で対峙している。


 一組の二つの班は、枯草の中を進み二組の拠点に続く道へ出ようとしている。

 二組の二つの班は、一組の二つの班が枯草から出ようとするのを潰している。


 一組は枯草が邪魔になり連携した攻撃が出来ないので、二組の守備が耐えている状況だ。

 一組は枯草の中をあまり進みたくないから、拠点へ続く道にこだわっている。


 だけどそのうち、枯草の中を大きく迂回(うかい)されて、全方位から攻撃されてしまうだろ

う。 


 模擬刀で相手を無力化することは出来ない。

 この軍事演習は、思い切り叩きつけて、骨折させるようなものではない。

 しょせん授業の一つだ。


 模擬刀で競り合っているうちに、背中の上に乗って旗を抜けばそれで勝敗が決まってしまう。

 乗る背中は味方なら当然良いし、敵方がダメだと言うルールはない。

 要は旗の近くまで来られたら、直ぐに負けるっていうことだ。


 「おりゃ、おりゃ」


 拠点の背後から、変な掛け声を大声で怒鳴っているヤツがいる。

 おぉ、〈先頭ガタイ〉だ。

 ようやく本来のウザいところを見せてくれるらしい。


 僕はいそいそと走って〈先頭ガタイ〉と対峙する。


 〈先頭ガタイ〉は枯草の中を突っ走って来たのだろう。

 枯草を身体全体に纏(まと)い、頬(ほほ)が薄く切れて血が滲(にじ)んでいる。

 

 おほぉ、これでこそ〈先頭ガタイ〉だ。

 ただの授業なのに、鬱陶(うっと)しいほど真面目にやるバカである。


 「あははっ、落ち武者がりだ。ここは通さないぞ」


 あっ、〈枯草モグラ作戦〉と自分だけでも言わなくちゃいけないのに。

 つい言っちゃったよ。

 〈枯草モグラ作戦〉は、ネーミングミスってことなのか。


 「ふん、貴様は恵(めぐ)まれ過ぎているんだ。この怨念許すまじ」


 うーん、どうして僕が嫉妬されて怨みまで買っているんだ。

 全く身に覚えもないし、理解不能だな。


 〈先頭ガタイ〉は模擬刀を大上段に振りかぶり、渾身(こんしん)の力で切り下ろしてきた。

 僕はそれを左に軽く受け流す。

 力み過ぎていたので〈先頭ガタイ〉は、たたらを踏むように体勢を大きく崩してしまった。


 「がぁー、受け流すな。堂々と刀で受けろ」


 はぁ、受け方まで制約するのか。

 コイツは何をしたいのだろう。

 僕へ力一杯打込んで、ストレスを発散したいだけじゃないのか。


 でも、しょうがないな。

 それで元気が出るなら少し付き合ってやろう。

 僕と〈先頭ガタイ〉はその後、模擬刀で「バシン」「バシン」と激しく打ち合った。

 もちろん、力は少し手加減しているし、打ち込む箇所は模擬刀にしておいた。


 ただ〈先頭ガタイ〉は、甲でも胴でも面でもなく、なぜか僕の股間の近くを切り下してくる。

 胴を狙ったものだと思う。

 何だコイツは、狙いがブレるようになってしまっているぞ。

 まだ、調子が良くないらしい。


 〈先頭ガタイ〉に続いたんだろう、一組の連中が、拠点の周りからワラワラと湧き出してきた。

 〈ロラ〉を始め我が二組も「落ち武者がりだ」と言いつつ頑張っていたが、徐々に押し込まれるようになってくる。

 全方向から湧いてくるのも原因だが、一組の連中の気合に負けているのが大きな要因だと思う。


 なぜか一組の連中は、怒っているような真剣さなんだ。

 ひょっとしたら、ドロドロにされて枯草で痛い目をさせられたのを恨んでいるのだろうか。

 ちっちぇ男達だな。

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