第514話 三連合体

 〈リーツア〉さん達は、人混みの薄い場所を目掛け、特攻を敢行(かんこう)していった。

 駆け落ち夫妻の母親は、かなり上品なご夫人だと思っていたが、そうでもないらしい。

 〈リーツア〉さんに負けないパワーで、先頭集団を形成しているぞ。


 おばさんの波をかき分けて、グイグイと進んでいる。

 ギラギラと鈍(にぶ)い笑いを、顔に張り付けてだ。


 パワフルだとは思うけど、おばさんの波に同化しているとも思う。

 あぁ、今、農産物を奪い合う渦(うず)に巻き込まれて、見えなくなってしまったよ。


 僕と〈アコ〉と〈クルス〉は、取り残された。

 どうしようと思っていたら、即売場の奥の方から「〈タロ〉様」って声が聞こえてきた。

 どう考えても〈サトミ〉だ。


 呼ばれたなら、ごちゃごちゃ言ってないで、行くしかない。

 僕と〈アコ〉と〈クルス〉は、無言で頷き合って、声が聞こえた方へ向かって行くことにした。


 「〈タロ〉様が手を動かして、女性を押し退(の)けるのはどうかと思います。ですので、私が道を切り開きますわ」


 〈アコ〉は痴漢の冤罪(えんざい)を、気にしてくれているようだ。

 おばちゃんであっても、触(ふ)れたら悲鳴をあげると言うことか。

 確かに、即売場の中に男は見えないな。


 「後ろは私にお任せください。〈タロ〉様が押し潰されないように支えます」


 〈クルス〉はそう言うけど、華奢(きゃしゃ)な〈クルス〉に頼っていいのだろうか。

 でも、本人の意思は固そうだ。

 それなら、ここは任せるしかない。


 〈アコ〉が先頭に立ち、僕を挟んで〈クルス〉が押す態勢だ。

 三人は固く団子状になって、人波を切り裂(さ)いて少しずつ進む。

 僕は二人にギュッと挟まれて、サンドイッチ状態になっている。

 普段なら、ニヤニヤして喜んでいると思う。


 でも今は、周りのおばさんの圧がすごくて、とても二人のおっぱいを感じている余裕がない。


 「〈タロ〉様、私を少し持ち上げてください」


 〈アコ〉は、一体何をしようとしているんだ。


 「えっ、持ち上げるの」


 「そうですわ」


 僕は〈アコ〉を強く抱きしめて、言われたとおり持ち上げた。

 メロンおっぱいも、上に持ち上げているが、今は構(かま)っていられない。


 「私は〈タロ〉様にしがみ付いて、頭を出しますね」


 そう言うと〈クルス〉は、腕と足を僕に絡(から)めてきた。

 亀の子のようになっているぞ。

 〈クルス〉は、一体何をしようとしているんだ。


 「頭を出すって、どういうこと」


 「〈サトミ〉ちゃんのいる方向の、指示を出すのです。〈アコ〉ちゃん、もう少し右に進んでください」


 「〈クルス〉ちゃん、了解したわ」


 〈アコ〉は、両手と両足を使って、おばさんの塊(かたまり)をかき分けているようだ。

 手は分かるけど、足はどうなんだろう。

 器用とは思うけど、足を使っても良いのだろうか。

 少し疑問だと思う。


 〈クルス〉は時々、僕にしがみ付いて進行方向を見定めている。

 人混みだから見えないとは思うけど、足も絡めているから、かなりハレンチなカッコウだ。

 ちょっと吃驚してしまう。


 僕の役割は、〈アコ〉の切り開いた隙間(すきま)を埋めるべく、着実な歩みを止めないことだ。 

 一歩ずつ一歩ずつ前へ進もう。

 明るい未来と〈サトミ〉が、待っているはずだ。


 僕達は三連合体で強化され、未曾有(みぞう)のパワーを生み出していると思う。

 他の婚約者や恋人達が、経験したことがない得体の知れない力だ。


 得体が知れないのは、僕も「はぁ、なんだこれ」と思っているからさ。


 この三連合体は、個々の力を信じられないほど、強化出来るんだ。

 〈アコ〉は足でも、邪魔者を排除することが可能になったし、〈クルス〉は恥ずかしげもなく、亀の子になれる能力が備(そな)わった。


 〈アコ〉と〈クルス〉は、どうしてこうなったのだろう。

 僕のコレをアレしたので、仲がより深まったのか。

 それとも、遠慮がなくなったのか。

 たぶん、そうじゃない。


 〈アコ〉と〈クルス〉も、周りにいるおばさん連中と同じ女性だ。

 同類が狂喜乱舞(きょきらんぶ)している様(さま)を見て、テンションが爆上がりしたんだろう。

 本能が負けちゃいけないと、囁(ささや)いたのだろう。

 要はこの〈緑農祭〉を、目一杯楽しんでいるのだと思う。


 やっと一列に並んでいる、売り子達が見えてきた。

 即売場の端に、ずらっと十数人が並んでいる。

 〈サトミ〉に見せて貰った民族衣装的な、コスチュームを全員が着ているぞ。

 十数人が着用していると壮観だな。


 それにやっぱり、胸が危うくてスカートがかなり短い。

 学び舎(や)のくせに、学苑長はどうしたことだ。

 おじいさんなのに、まだ枯れていないのか。


 〈サトミ〉は、右から三番目だ。

 笑顔で接客しているのが、とても偉いな。

 こんなに忙しいと、僕なら不機嫌な顔になっていると思う。


 「あはぁ、〈タロ〉様。来てくれて嬉しいな。〈アコ〉ちゃんも〈クルス〉ちゃんも、ようこそ。〈緑農祭〉へいらっしゃい」


 「ふぅ、〈サトミ〉、お客が多くて大変そうだな。疲れてはいないか」


 〈サトミ〉の胸元を見ると、下にちゃんと白いシャツを着てくるようだ。

 よしよし、言いつけを守っているな。


 「へへっ、こんなにお客さんが来てくれて、〈サトミ〉は張り切っているんだよ。休憩もあるから、〈タロ〉様、心配しないでね」

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