第509話 売り子の衣装

 〈南国果物店〉の裏の館で、シコシコと執務に励(はげ)んでいる。


 仕事というものは、溜まることしか出来ないのか。

 一度くらい自己完結してみろよ。


 うーん、言ってることの筋道(すじみち)が、まるで立っていないな。

 僕の筋が、細いせいなのか。


 バカなことを考えて、現実逃避(げんじつとうひ)をしていたら、〈サトミ〉が部屋にやってきた。


 「〈タロ〉様、ちょっと良いですか。お願いがあるの」


 「うん、良いよ。〈サトミ〉のためなら、一肌(ひとはだ)でも二肌(ふたはだ)でも脱ぐさ」


 もちろん、〈サトミ〉を一枚、二枚と脱がすのもありだ。


 「わぁ、ありがとう、〈タロ〉様。学舎の農業祭へ、来て欲しいんだ」


 おぉ、いかにも農業の学舎らしいイベントだな。

 秋は収穫の季節だもんな。


 「もちろん良いよ。農業祭か。楽しみだ」


 「やったー、嬉しい」


 〈サトミ〉は、笑顔になって僕に抱き着いてきた。

 もちろん僕も、〈サトミ〉を胸へ迎い入れる。

 〈サトミ〉の小さな身体を、僕の腕の中にスッポリと収(おさ)めたんだ。

 〈サトミ〉の、弾力にとんだおっぱいを感じるぞ。

 触っているお尻も、プリプリだよ。


 「農業祭は、いつあるんだ」


 僕はお尻を触りながら、聞いてみた。

 〈サトミ〉は少しお尻を動かして、居心地(いごこち)が悪るそうにしている。

 でも、嫌って言わないから、このまま触っていよう。


 「次の休養日にあるの。お祭りみたいな感じらしいよ」


 「農業祭だもんな。〈サトミ〉は何をするんだ」


 「〈サトミ〉はねぇ。売り子をするんだ。〈タロ〉様は、一杯買ってくれるよね」


 「任しておけよ。持てないくらい、一杯買ってあげるぞ」


 「あはぁは、期待しているよ。そうだ、〈タロ〉様。売り子の衣装が、すごく可愛いんだ。見たい」


 〈サトミ〉は、上目づかいで僕を見てくる。

 クリクリと動く目が可愛いな。


 これは、僕に見せたいんだろう。

 他の人より早くて見せてくれるのは、光栄なことだと思う。


 「うん、うん。見たいな」


 「へへっ、そうなんだ。それじゃ着替えてくるね」


 〈サトミ〉は、とても嬉しそうに部屋を出ていった。

 僕の反応が想定どおりだったから、とても気分が良いのだろう。


 僕も〈サトミ〉の笑顔が見れたので、とても気分が良いぞ。

 ニマニマと顔が、いやらしくほころんでいるのが、自分でも良く分かる。


 「〈タロ〉様、お待たせしました。どうかな」


 〈サトミ〉の売り子の衣装は、民族調のエプロンドレスらしい。


 上着は、白のフワァとしたブラウスだ。

 それに、鮮やかな縦縞(たてじま)の、末広がりになっているスカートを履いている。

 ちょこんと付けている、黄色のエプロンがとてもキュートだと思う。


 ただ、見過(みす)ごせない部分が、二箇所もある。


 ブラウスの襟(えり)ぐりが、深か過ぎるんだ。

 ベストがウエストを締め付けているのは良いが、おっぱいを全く覆(おお)っていないぞ。

 逆におっぱいを、持ち上げるように強調してやがる。


 スカートもいけない。

 短過ぎると思う。

 大きな動きをしたら、下着が見えてしまいそうだ。


 この衣装は、エッチなヤツと、可愛いが好きな人を、同時に引き付けることを意図しているんだろう。

 商売としては分からなくはないが、〈サトミ〉が着るのはどうかと思う。


 「うぅ、〈タロ〉様。〈サトミ〉の衣装が、気に入らないの」


 僕は苦い顔をして考えていたんだろう。

 〈サトミ〉が、泣きそうな顔になっている。


 「良く似合って、可愛いと思うよ。ただな」


 「ふぅん、ただな、ってどういうこと」


 〈サトミ〉は、自分のかっこうが、危(あや)ういことを分かっていないな。


 「〈サトミ〉、お客さんにお辞儀(じぎ)をするだろう。やって見せてくれよ」


 「えっ、それはするけど。今、すれば良いの」


 〈サトミ〉は、?の顔をしながら、四十度くらいのお辞儀をした。

 言わんこっちゃない。

 半おっぱいに、なっているぞ。

 上乳が見えている。


 いくら農産物を売るためとは言え、こんなのは到底(とうてい)許せない。


 後ろに回ったら、案の定(あんのじょう)、エプロンとお揃(そろ)いの黄色のショーツが見えているじゃないか。

 半ケツ状態だ。うーん、半ケツではないな。

 黄色のショーツが、半分見えているってことだ。


 虎視眈々(こしたんたん)と狙っている、ド助平達のかっこうの餌食(えじき)じゃないか。

 お祭りには、そういう奴らが大勢いるんだよ。

 どさくさに紛(まぎ)れて、性的欲求を満たそうとする最低の奴らだ。


 僕にはなぜか、手に取るように分かるんだよ。


 「〈サトミ〉、これはダメだよ。胸とお尻が、見えてしまっているぞ」


 「えぇー、そんな。見えないように気をつけるから、〈タロ〉様、許してよ」


 〈サトミ〉は、困った顔をして僕に訴えかけてくる。

 学舎の友達も、同じかっこうをするんだろう。

 〈サトミ〉だけが着ないと、仲間外れになる可能性もあるな。


 「その服を着ても良いけど。上にはシャツを着て、スカートの中に短パンを履(は)くんだ」


 「はぁ、まあ、それで良いなら、そうするよ」


 〈サトミ〉は、僕の言うことが少し意外だったようだ。

 衣装そのものに、ダメ出しをされていると思っていたのだろう。


 〈サトミ〉の危機意識は、かなり欠如(けつじょ)していると言わざるを得ないな。

 実行して分からせてやる。


 「〈サトミ〉、もう一度、お辞儀をしてくれ」


 「うん、分かった」

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