第495話 〈チュゲット〉

 〈クルス〉は、生地が薄い、水色のワンピースを着ている。

 家の中で、着る服なんだろう。

 無防備に出している腕と脚が、細い割には、肉感的に見える。

 適度に丸みが、ついている身体だ。


 それに、湯上りの黒髪が、艶やかに濡れて、かなり色っぽいぞ。


 「〈タロ〉様、夜食に、買ってきた〈チュゲット〉を食べませんか」


 〈チュゲット〉か。

 この名前をつけたヤツは、並外(なみはず)れて、センスがないんだろう。


 「そのお菓子の名前は、〈チュゲット〉って言うんだ」


 「そうなのです。別名は、恋人達の棒と言うのですよ。《赤鳩》で、皆が言っていました」


 「へぇー、恋人達の棒なのか」


 〈チュゲット〉といい、かなり意味深(いみしん)な名称だな。

 〈達〉を取ったら、とてもいやらしいことになるな。


 「えぇ、恥ずかしいのですが、少し憧(あこが)れているのです」


 〈クルス〉が、手に〈チュゲット〉を持ったまま、もじもじとしている。

 〈クルス〉の、こんな仕草(しぐさ)も珍しいな。


 「何に憧れているの」


 意を決したのか。

 〈クルス〉は、〈チュゲット〉を口に咥(くわ)えて、目を閉じてしまう。


 どう言うことだ。

 あっ、そう言うことか。


 僕は、〈クルス〉の咥えている〈チュゲット〉を、逆の方からモグモグと食べていく。

 当然、〈クルス〉の唇に突き当たって、それもモグモグすることになる。


 僕は〈クルス〉の頭を、両手で抱え、〈クルス〉の口の中の〈チュゲット〉まで、食べてしまった。

 〈クルス〉の唾液で、フニャフニャになっているぞ。


 「んんう、あぅ、私の口の中まで、食べるのですね。次は、〈タロ〉様が咥えてください」


 僕が、〈チュゲット〉を口に咥えると、〈クルス〉が逆から食べてくる。

 〈クルス〉は、口を少し突き出して、顔が真っ赤だ。

 モコモコと、〈チュゲット〉を食べる様子が、とても可愛らしいぞ。


 ただ、やっていることは、かなりいやらしいことだ。

 僕の棒が、食べられているように、感じてしまう。


 〈恋人の棒〉だからな。

 ここにいる恋人は、一組だ。〈達〉ではない。


 唇同士がひっついたら、〈クルス〉は、僕の口の中へ舌を入れてきた。

 僕の口の中の〈チュゲット〉を、舐めとるらしい。


 僕は、侵入した〈クルス〉の舌を、そのままにはしない。

 ツンツンと舌で、突いてやる。

 〈クルス〉は、「んんん」と喘(あえ)いで、舌を引っ込めてしまった。


 「〈タロ〉様、私が食べているのですよ。大人しく、食べられてください」


 「分かったよ」


 それから僕と〈クルス〉は、買ってきた〈チュゲット〉を、〈恋人達の棒〉の食べ方で、全て食べつくした。

 十本は、食べたと思う。


 〈クルス〉も、そうだろうと思うけど、味は良く分からなかった。

 甘いのだけど、お菓子の甘さだけじゃない、ような気もしたんだ。


 食べ終わった後の〈クルス〉は、トロンとした目になって、僕へ体重を預けてくる。

 当然僕も、興奮しているわけで、〈クルス〉をしっかりと抱きしめた。

 〈恋人達の棒〉は、噂になるだけあって、恋人を強く繋げる棒なんだな。


 〈クルス〉も、すっかり、その気になっていると思う。


 僕が、ワンピースの肩ひもをずらして、服を引き下げても、もう抵抗はしない。

 おっぱいと白いショーツが、露わになっても、隠そうとはしなかった。

 僕が、生のおっぱいに触れても、「あっ」と小さな声で、呟(つぶや)いただけだ。

 ショーツに手を入れて、お尻を揉んでも、「いやっ」と小さな声で、僅かに抵抗しただけだった。


 このまま、ベッドに押し倒そうと思う。


 もう、我慢の限界だから、しょうがないんだよ。

 今の〈クルス〉の様子だと、大した抵抗はしないだろう。

 ウヒィヒィ。


 キスをしながら、ショーツの前の方に手を入れて、〈クルス〉が「あぁ、そこはだめー」と声を出した時だった。


 「ドン、ドン、ドン、ドン」


 と五月蠅く、扉を叩く音がした。


 〈クルス〉は、「ひぃ」と小さく叫んで、急いでワンピースを着ようとしている。

 僕は絶望的な顔になって、ただただ立ち尽くすばかりだ。


 あぁ、今日は、いけそうだったのに。

 誰だ。

 死んでしまえ。


 喪失感が半端なくて、あんなに熱く滾(たぎ)っていた下半身が、急に冷凍庫だよ。

 フリーズして、泣きそうだ。


 「ドン、ドン、ドン、ドン」


 と、まだ誰かが、扉を叩いている。


 「〈タロ〉様、何かあったのかも知れません。お話を、聞いた方が良いです」


 うぅ、そうかも知れないな。緊急事態という可能性もある。


 扉を開けると、〈ソラィウ〉が、勢いよく部屋に突入してきた。

 何があったんだ。


 「ご領主様、どうしたら良いんでしょう。〈ベート〉さんと結婚するのが。正しいことなんでしょうか。とても、心配になってきたんです」


 〈ソラィウ〉は、思い詰めた様な、真剣な表情で訴えてくる。

 本当に、悩んではいるのだろう。


 でもな。緊急事態でも何でも、ないじゃないか。

 せっかく盛り上がっていたのに、許せないぞ。


 「はぁ、僕に相談するなよ」


 「でも、不安なんです」


 「知らないな。自分で解決しろよ」


 「そんな」


 「〈ソラィウ〉さん、〈ベート〉さんは、とても喜んでいましたよ。一人の女性を、幸せに出来るのです。それは、正しいことに違いありません。違いますか」

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