第490話 政治パーティー

 すると、どうやって見つけたのか、知り合いが話しかけてきた。

 《ベン島》から船で送ってあげた、〈ラサィハク〉子爵の家族だ。


 許嫁達を「可愛らしい、ご夫人ですね」と、お世辞(せじ)を言ってくる。

 許嫁達は、「まだ婚約者です」と頬を染めて、満更(まんざら)でもない様子だ。


 僕も、〈ラサィハク〉子爵の奥さんに、「上品な方だと」お世辞(せじ)を返しておいた。

 狐っぽい女性だったから、「美しい」とは、言い難かったんだよ。


 旦那は、狸だから、お似合いだとは思う。

 仲良く、化かし合いをしている感じが、長年連れ添った夫婦らしい。

 化かし合いって言うのは、僕の印象だ。


 狐奥さんは、許嫁達と機嫌良く話していたから、〈アコ〉か〈クルス〉が、上手く話を合わせてくれたんだろう。

 厚揚げの話でも、したのだと思う。

 子爵のお嬢さんも、三人で囲んで質問攻めにしていた。

 初対面になのに、良く話すことがあるな。

 狐と狸の違いでも、聞いてたのかな。


 その後、僕も仕方なく、挨拶に向かった。

 〈アコ〉が、行く必要があると五月蠅かったんだ。

 相手は、王国軍司令官の〈バクィラナ〉公爵と、「王都旅団長」の〈セミセ〉公爵だ。

 直属の上司みたいなもんだからな。


 〈バクィラナ〉公爵は、周りに集まってきている、領地貴族を紹介してくれた。

 僕は、ペコペコと頭を下げて、適当に挨拶を交わすだけだ。

 気の利いた話は、とても出来ない。

 だって、相手のことを、何も知らないからな。


 許嫁達も、奥様方に、色々聞かれていたようだ。

 大変だなと思う。

 でも、許嫁達も負けてない。

 領地貴族のお嬢さん方に、三人で色々聞いていたようだ。

 これから付き合いもあるから、大変良いことだと思うな。


 〈セミセ〉公爵の今日のパートナーは、この前と違って、正妻さんだ。

 少しきつそうな顔をしている。

 そのためじゃないと思うけど、今日の〈セミセ〉公爵は、言葉が少なかった。

 〈アコ〉と奥様が、何やら話しているのが、すごく気になるな。


 領地貴族だけじゃなくて、宮廷貴族も挨拶に来てくれた。

 まあ、学舎関係なんだけどな。


 チァモキ男爵と、ムキムキマンの〈チモフィセ〉先輩だ。

 チァモキ男爵は、入舎式の代表スピーチを、譲った子の親だと思う。


 それに、〈アル〉と〈フラン〉の親御さん達も来てくれた。

 両家とも男爵で、子供の就職と結婚が、もう心配らしい。

 二十歳前なのに、この世界は寿命の関係か、結婚適齢期が早いようだ。

 あぁ、〈アル〉の家は、領地貴族だっけ。


 こうなると、宮廷貴族とあまり縁がないな。

 こう思ったのが間違いだった。後の祭りと言うんだろうな。

 この後、〈アコ〉に一杯、宮廷貴族への挨拶に連れて行かれた。

 〈アコ〉の母親の指令だったみたいだ。


 あまり多すぎて、挨拶した宮廷貴族の、顔さえ憶えてないや。

 でも、許嫁達が憶えているだろう。

 宮廷貴族の年頃の娘さんと、熱心に話していたからな。


 それにしても、挨拶ばかりで、これは舞踏会なのか。

 王位継承争いのために、開かれた政治パーティーなんだろう。

 思っていたのと違うな。


 疲れたし、お腹も空いたので、また隅に戻ろう。


 許嫁達も、同じ思いのようで、「それが良いです」と被(かぶ)せ気味に返事をしてきた。

 顔を見ると、何かと戦った後みたいに疲れている。

 僕と一緒で、人に疲れたんだろうな。


 僕達は、また話をしながら、飲み物と軽食を摘まむことにした。

 許嫁達は、新調したドレスのことには触れらえず、髪飾りのことばかり褒められたのが、気に障(さわ)ったらしい。


 何も言われないよりは、全然ましじゃないか。

 贅沢(ぜいたく)は、敵だと思う。


 だけど僕は、思い切りドレスを褒めておいた。

 ついでに、中身も綺麗だと、ご機嫌取(きげんと)りも忘れない。

 これが僕の、拙(つたな)い処世術(しょせいじゅつ)だ。


 許嫁達は、「早く言って欲しかった」と不満も言ったけど、すごく嬉しそうにしている。

 身内贔屓(みうちびいき)もあるが、僕の許嫁達が一番綺麗だと思う。


 ドレスを着ると、赤、青、黄色の大輪の花が、咲いたような華やかさもある。

 どうにか二人切きりになって、キスとかしたいな。


 許嫁達のドレスは、少し派手だと思っていた。

 だけど、他のお嬢様方は、輪をかけてド派手だ。

 既婚者になると、少しは地味になるけど、やり過ぎだと思う。

 馬鹿馬鹿しいほど派手なので、許嫁達はすごくまともに見える。


 だから、本心から似合っている、と言えたと思うな。

 許嫁達も、満足そうに笑ってた。やっぱり、褒めるって大切なんだ。


 隅の方で、のんびりとしていたら、楽団が音楽を奏で始めた。

 ようやく、舞踏会らしくなってきたな。


 司会の人が、踊りを始めることを伝えている。

 「輪舞旋楽」が三回と、「跳舞旋楽」が一回らしい。


 「会場を見渡して、今曲を決めました」と、司会の人が言ったら、笑いが起こっている。

 この会場には、お年寄りが多い、と言っているわけだ。


 笑っているってことは、自分は年寄りではない、と思っているんだろう。

 人はどうして、自分はまだ若いと思うのだろう。


 自分の顔が、見えないせいだと思う。

 鏡を見ながらでは、歩くことも出来ない。

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