第8章 下半期は、困ったもんだ

第483話 夏休みの宿題

 王都に帰ってきて、夏休みの宿題を、全く忘れていたことに気づいた。

 〈サシィトルハ〉王子と、〈ロローナテ〉嬢の、婚約披露の舞踏会だ。


 〈深遠の面影号〉に乗った途端(とたん)、頭からすっかり抜け落ちていた。


 何も考えていない。

 どうしよう。


 余裕があった回答期限が、間近に迫っている。

 せめて、許嫁達と相談しておくんだったな。

 時間は、いくらでもあったのに、バカとしか言えない。


 自分の間抜けさが、嫌になるよ。

 本当に、困ったもんだ。


 悶々(もんもん)と一人で、部屋で悩んでいると、解決方法が飛び込んできた。


 何て僕は、ついているんだろう。

 神様から、愛されているに違いない。


 解決方法は、新たな婚約披露の舞踏会への招待状だ。

 〈サシィトルハ〉王子に、対抗するためだろう。

 〈タィマンルハ〉王子の方も、婚約をすることにしたらしい。


 これで、万事解決(ばんじかいけつ)だ。


 両方へ出席したら、一方の陣営に加担することにはならない。

 後継者争いに、巻き込まれないで済むぞ。


 それに、〈サトミ〉を、二回舞踏会へ連れて行けるんだ。


 僕は嬉しくなって、〈サトミ〉の部屋に突撃した。

 ノックなんか、している場合じゃない。

 この喜びを、早く共有しなくっちゃ。


 扉をガバッと開けると、〈サトミ〉は、お風呂上がりだった。

 真っ裸で、僕を茫然(ぼうぜん)と見詰めている。

 部屋の中では、裸族だったのか。


 お風呂上がりだから、身体が乾くまでの、間かも知れないな。


 せっかくなので、じっくりと見せて貰おう。

 短めで濃い茶色だな。

 染めていないのだから、当たり前に、髪の毛と一緒に決まっている。


 〈サトミ〉は、ようやく状況を理解したのだろう。

 それとも、衝撃から回復したのだろう。


 「いゃー」と叫んで、裸を隠すために、しゃがみ込んでしまった。

 もう、見えないな。


 悲鳴をあげたのは、僕に見られたくなかったのか。

 まあ、それはそうだよな。

 積極的に見てと言われたら、僕も困ってしまう。


 「〈サトミ〉、ごめん。わざとじゃないんだ」


 「ふぅん、じっと見たよね」


 〈サトミ〉が、下の方から、非難するように、ジト目で睨んでくる。

 ただ言いたい。

 じっと見ているのを、じっと見ていたのかと。


 「ははっ、そんなことは、ないよ。それに、〈サトミ〉も僕のを、お風呂で見ただろう」


 「それは、そうだけど。〈サトミ〉は、特別な感じで見せたかったの。こんな、いきなりじゃイヤなんだ」


 困ったことに、〈サトミ〉は、目尻に涙を溜めているみたいだ。

 僕は、ちょっと見ただけだ。

 何にも悪くないと思う。


 でも、泣いている〈サトミ〉を放置出来ないな。

 僕は、裸でしゃがんでいる〈サトミ〉を、優しく抱きしめた。


 横抱きにしたら、右手の方に、プックリとしたお尻が見える。

 まん丸で、ツルンとしている。

 ピンク色に染まっているのは、お風呂上りのためか、羞恥(しゅうち)のためか。

 どっちかだろう。


 後ろから、ペロンと触りたいな。

 でも、涙目だから、ためらってしまう。


 腕の間から見えている、おっぱいも、揉みにはいかなかった。


 この場面で、揉みにいくのは、超リスクだと感じたからだ。

 そこまで、バカでも、救いようがない、助平でもないんだよ。

 金魚すくいのポイでも、何とかすくえるはずだ。


 〈サトミ〉は、ショックから回復して、裸でいるのに気がついたのだろう。

 顔を真っ赤にして、僕に後ろを向けと言い出した。

 着替えるつもりなんだろうが、今更(いまさら)だと思う。

 ついさっき、全裸を見たんだからな。


 でも、何も言うまい。

 それが、〈サトミ〉の希望なら、そうしよう。


 僕が後ろを向いてる間に、〈サトミ〉は着替えて、お茶を入れてくれるようだ。

 今、お茶なのか。

 たぶん、何かした方が、精神的に休まるんだろう。


 ふと、机を見ると、赤くて小さなラディッシュが転がっている。

 これは、何だろう。

 見たところ、生のようだ。

 まさか生のまま、齧(かじ)らないよな。


 「〈サトミ〉、この野菜はどうしたの」


 「これは、夏休みの宿題なんだ。十八日ダイコンの、観察記録をつけていたんだよ」


 良し。ここは、褒めちぎろう。


 「そう言ってたな。〈サトミ〉は、偉いと思う。コツコツと、勉強を頑張っているんだ。自慢の許嫁だよ。早くお嫁に来ないかな」


 「ふぅん、褒め過ぎちゃいやだ、〈タロ〉様。少しだけ待ってよ。でも、〈サトミ〉は、もう半分くらい〈タロ〉様の、お嫁さんだよ」


 そう言って、ちょこちょこと、〈サトミ〉は僕の前にやってきた。

 僕は、〈サトミ〉を抱えて、いつものように椅子へ座った。


 もう、〈サトミ〉は泣いてはいない。嬉しそうに笑っている。

 真っ裸を見られたショックからは、完全に立ち直ったらしい。


 僕のは何回も見ているし、上半身は前に見られているから、それ程のショックじゃなかったのだろう。

 本人が言うように、半分はもう、嫁だからな。


 僕は〈サトミ〉にキスをしながら、お尻に手を伸ばそうとした。


 「あっ、お湯が沸いたみたい。〈タロ〉様、ちょっと待っててね」


 お尻は、僕の手を掠(かす)めて行ってしまった。

 僕と〈サトミ〉は、温かいお茶とお菓子を食べて、夏休みの思い出を話した。


 ふーん、何か忘れているような。


 「〈タロ〉様は、夏休みの宿題はなかったの」 

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