第473話 巨大隕石

 そのため、早朝から僕は身体を酷使して、ヘロヘロになってしまった。


 おまけに、〈サヤ〉が、しつこく絡んでくる。

 皆のスキルが、第二段階に成長したことが、かなり不満らしい。

 どうして、自分も《黒帝蜘蛛》の討伐に、連れて行かなかったと、すごく五月蠅いんだ。


 そんなことは、〈ハパ〉先生に言って欲しい。

 でも、〈ハパ〉先生には言わないんだ。

 〈ハパ〉先生は、心も強過ぎるから、文句を言ったところで、不満は何も解消しない。


 〈ハパ〉先生は、討伐に参加するメンバーを、どういう基準で選考したかを、理路整然と説明されるだけだ。

 それも、信念を持って誠実に話されるから、とても始末が悪い。

 〈ハパ〉先生を人として超えていないと、相手にもならない。

 おっしゃるとおりです、と頷いて言うだけになる。


 むろん、〈サヤ〉が〈ハパ〉先生を、超えているはずがない。


 それに、〈ハヅ〉が煽(あお)るようなことを、するのがいけない。

 スキルの《強手》が、第二段階に成長したので、馬鹿みたいな力を出せるようになったんだ。

 その力で、〈サヤ〉を押し込んで、軽々とあしらいやがる。

 ガハハハッ、と笑ってとても楽しそうなのが、かなり腹立たしい。

 どこかに、魔獣がいないかな。


 〈サヤ〉は、血が出るほど唇を噛んで、悔しそうにしている。

 若い女性なんだから、噛むのは男の唇にしろよ。


 その悔しさを、〈ハヅ〉にぶつけて、文句を言ったら良いんだが。

 〈サヤ〉も〈ハヅ〉が、討伐メンバーの選考に、一ミリも関与していないのを知っているからな。 

 文句を言っても、間抜けな顔をして、吃驚されるだけのオチしかない。


 でもな、僕も関与してないんだ。全部、〈ハパ〉先生の策略なんだよ。


 その〈ハパ〉先生は、やはり常軌(じょうき)を逸(いっ)している。


 ご自身のスキル〈遠鼻〉を、武道に応用出来ないかを、探っておられるらしい。

 いい加減にしろよ。


 「〈タロ〉様、私は興奮しているのですよ。武道では、役に立たないと考えていた〈遠鼻〉も、第二段階になれば、立派に活用出来る気がしています。武道とは、凡人(ぼんじん)にとって、想像すら及(およ)ばない、底知れぬ奥があるのですな」


 はぁ、あんたが、凡人なわけがない。

 遠くの匂いを嗅げることを、武道に活用しようとするなんて、どう考えても異常だよ。

 凡人じゃなくて、違人(いじん)と言わせて頂きたい。

 人偏じゃなくて、しんにょうだよ。


 お願いですから、万が一活用出来ても、僕で試さないでくださいね。




 怖い活用を想像して部屋で震えていると、突然、中年猫が現われてきやがった。

 僕の目の前、約一mほど離れた空中に、くたびれた顔で浮いてやがる。


 「また、お前か。でも、礼を言わせて貰おう。〈サトミ〉を守ってくれて、感謝するよ」


 「ふん、あれは、君の油断が招いたことだョ。猿に近いので、期待出来ないが、猛烈な反省をしてくれたまえ」


 あぁ、猿だと。

 違うぞ。僕は死ぬまで、したりしないぞ。

 ほんの数回だ。


 だから、僕は猿じゃない、立派な人間だ。

 いって良いことと、悪いことがあるぞ。

 悪いと言う人もいるけど、どんなことでも、程度が問題だと思うな。


 ただ、〈サトミ〉を守り切れなかったことの、誹(そし)りは甘んじて受けよう。


 「はぁー、今回は反論しないよ。ただただ、反省するだけだ」


 「おぉ、気持ち悪いョ。素直過ぎて、天変地異(てんぺんちい)が、起こりそうだョ。巨大隕石(きょだいいんせき)が、落ちてくるかもョ」


 「ひゃー、それも警告か。どこへ、避難したら良いんだ。お前の守護で、弾き飛ばせるのか」


 「ひゃひゃ、まだ当分、落ちて来やしないョ。今のは、君の態度が変わり過ぎたから、その不快さを素直に表現してあげただけだョ」


 「当分」「不快」「素直」、見逃(みのが)せないワードが、散見しているんじゃないのか。


 でも、もう構わないでおこう。

 あの時の〈サトミ〉のことに関しては、僕が悪いと思う。

 だから、もう同じ轍(てつ)は、決して踏(ふ)まない。


 けれど、不利な話題からは離れよう。

 中年猫に、言いたいことを言われ続けるのは、心の負担が多すぎる。

 コイツは、罵(ののし)るのが相応(ふさわ)しいヤツなんだ。


 「遠い未来の巨大隕石の外に、何か用があるのか」


 「そう怒るなョ。偉大な生き物であるところの、「ジュジュシュ」様が、今度は、予言してあげるんだ。畏(かしこ)まって聞けョ」


 「あぁー、予言って。どうせ、良く理由が分からない。どうしようもなく曖昧な、くそな予言なんだろう。聞く意味がないから、とっと消えて無くなってくれ」


 「はぁ、欲望のことだけ考えている、やっぱり猿なんだな。ある意味、羨(うらや)ましいョ。「天智猫」の守護の力を、軽(かろ)んじ過ぎだ。脅威(きょうい)は、高き場所から低くきへ流れるんだョ。それが天命なんだョ」


 「はぁ、やっぱり、くそだな。格言(かくげん)を聞いても、何の役にも立たないぞ。具体はないのか」


 「ふん、予言は聞かせたョ。後は君の問題だから、どうにかしろョ。このまま続ければ、今なら、まだ間に合うぞ」


 しかめっ面(つら)のまま、中年猫はパッと消えやがった。


 なんだか、僕が悪いみたいな感じにするなよ。

 すごくイライラするぞ。


 中年猫の言った「続ければ」は、何を続けるなんだろう。


 脅威と言えば、魔獣か。

 確かに、三体も魔獣を討伐した人は、僕しかいないらしい。

 でも、討伐を続けるのは勘弁して欲しいな。


 許嫁達も、絶対反対するし、僕ももうしたくない。

 これ以上、討伐する選択肢はないな。

 〈ハパ〉先生が、スキルを活用してやれば良い。


 それに、許嫁達を怒らせて、おっぱいとお尻が、遠のくは避けたい。

 おっぱいとお尻を揉んで、ハッピーになりたんだ。満たされたいんだよ。


 僕は決して猿じゃないけど、猿にも猿なりの事情があると思う。

 身体と心を蝕(むしば)む、ストレスは命を縮める、すなわち脅威だ。

 その脅威を回避出来るのなら、欲望を満たすことも有りだと思うな。


 人間と違って猿は、生きることに貪欲で、情けないことでも、躊躇(ちゅうちょ)がないんだと思う。


 やはり程度の問題だと思う。

 在り来たりにはなるけど、なんでも、やり過ぎはいけない。

 良い加減が最高だと思う。


 許嫁達は、どこまでエッチなことを、許容(きょよう)してくれるんだろう。

 そこは、プロセスとシュチュエーションが、重要だと言うと思う。

 要は、エッチな雰囲気にすれば良いんだ。

 このまま、流されても良いと思える、空気感を作れば良いんだ。


 どうすれば、そう持って行けるのだろう。

 僕の悩みは深まるばかりだ。


 きっと、巨大隕石が穿(うが)った、穴ぼこより深いぞ。

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