第474話 秘書が派遣

 鍛錬で疲れた身体に鞭(むち)打って、執務をイヤイヤこなしている。


 すると、誰かが部屋に入ってくる気配がしてきた。

 また、執事の〈コラィウ〉が、書類を増やしに来たと、暗い気持ちが過(よぎ)ってしまう。

 でも、全然違ってた。


 許嫁達が、スーツ姿で颯爽(さっそう)と現れたんだ。

 タイトなスカートと、白い簡素なブラウスを着て、ヒールをカッカッと響かせながら部屋に入ってくる。

 部屋の中が、劇的に華やかになって、甘い匂いが充満してきたぞ。


 「三人とも、どうしたんだ」


 「ふふ、〈タロ〉様に、秘書が派遣されたのです。執務を手伝って、差し上げますわ」


 「うふ、〈タロ〉様が、書類と格闘していると聞いて、援助しにきたのです」


 「へへっ、〈サトミ〉もお手伝いするよ。〈タロ〉様、何でも、して欲しいことを言ってよね」


 「おぉ、そうなのか。それは助かるよ」


 「うふ、お任せください。迅速(じんそく)に種類を片づけて、夏休みを楽しみましょう」


 「あはぁ、〈タロ〉様、もう大丈夫だよ。〈サトミ〉達が来たんだから、大船に乗ったつもりでいてね」


 「ふふ、頑張りましょう。〈タロ〉様が、執務を早く終わらせないと、最後の夏休みが、終わってしまいますわ」


 「えぇー、最後なの」


 「そうですわ。三年生になれば、夏休み前で卒舎ですよ。知らなかったのですか」


 「ふぁー、知らなかった」


 僕はショックのあまり、グルグル目を回してしまった。

 どうしたら、いいんだ。

 夏ならではの、楽しい思い出が、何一つこなせていないぞ。


 「きゃー、〈タロ〉様、大丈夫ですか。しっかりしてください」


 「ひゃー、〈タロ〉様の目が、白目になっているよ。どうしよう」


 「はぁー、最後の夏休みと聞いて、衝撃を受けたのですね。今なら、まだ間に合いますわ」


 「はっ、何とか持ち直したよ。それじゃ急いで、執務を片づけて、夏休みを満喫(まんきつ)する必要があるな」


 「はい。私も精一杯、補助しますわ」


 「はい。〈サトミ〉も頑張るぞー」


 「はい。出来るだけ、ご支援しますね」


 〈アコ〉は、山積の書類を、種類別に区分けしてくれている。

 〈クルス〉は、優秀で任せられるから、簡単な案件は代わりに処理して貰った。

 〈サトミ〉は、処理が終わった書類を綴(つづ)って、臣下へ伝達する係だ。

 執事の〈コラィウ〉も、仕事が減ったと喜んでいる。


 ただ、書類が溜まり過ぎていたので、四人がかりでも、直ぐには終わりそうにない。

 もっと深刻な問題がある。それは、三人のお尻が、僕を誘惑することだ。


 座っていると見えなくて良いのだが、立った時がいけない。

 タイトスカートに包まれた、丸いお尻を触りたくなるんだ。


 そして、簡素なブラウスもいけない。オフィスラブと勘違いしてしまう。

 白いブラウスを、柔らかそうなおっぱいが、膨(ふく)らませているんだよ。

 想像も、あそこも膨らむのを、誰が止められると言うのか。


 極めつけは、スカートのスリットだ。

 後ろのスリットから、覗(のぞ)く裏ももも、もみたくなる。

 動きやすくするために、あるんだろうが、触りやすくするためだと、考え違いをしてしまった。

 もう、再考は出来ないし、したくない。


 〈アコ〉のお尻とおっぱいが、偉大過ぎるのだ。

 〈クルス〉のお尻とおっぱいが、清楚なんだけど、いやらしいんだ。

 〈サトミ〉のお尻とおっぱいが、可愛いく弾んでいるんだ。


 二人切りなら、もう触っているんだけどな。

 許嫁達は、二人切りじゃないと嫌がるし、僕も正直恥ずかしい。

 ニタニタしたスケベ面を晒(さら)せば、さすがに、引かれてしまうだろう。


 だから、二人切りになるため、メモを渡すことにした。

 内容は次のとおりだ。


 【トイレに行く振りをして、隣の部屋で、待ってて欲しい。】


 はぁはぁ、メモの返事が待ち遠しいぞ。椅子の上で、正座して待っていよう。


 〈アコ〉の返事は次のとおりだ。


 【却下ですわ。手伝っているのに、何を考えているのですか。】


 えぇー、そんな。

 スケベなことだよ。そうに決まっているだろう。


 〈アコ〉の様子を窺(うかが)うと、キッと僕を睨(にら)んでいる。

 偉大過ぎる、お尻とおっぱいが、怒っているぞ。


 〈クルス〉は、大丈夫だよな。

 〈クルス〉の返事は次のとおりだ。


 【ご要望には、お応え出来かねます。邪念を交(まじ)えず、執務に邁進(まいしん)しましょう。】


 〈クルス〉様子を窺(うかが)うと、冷たい眼差しで僕を見ている。

 清楚でいやらしい、お尻とおっぱいは、冷え切っているぞ。


 でも、心配はない。何でも言うことを聞いてくれる、〈サトミ〉がいるさ。

 〈サトミ〉の返事は次のとおりだ。


 【〈タロ〉様、逃げたくなるのは分かるけど、皆で頑張ろうよ。】


 〈サトミ〉の様子を窺(うかが)うと、可哀そうな目で僕を見ている。

 可愛く弾んでいる、お尻とおっぱいは、憐(あわ)れみを浮かべているぞ。

 同情じゃなくて、欲情が欲しかったんだ。


 あぁー、何てことなんだ。許嫁達は、僕と二人切りに、なりたくないのか。

 僕は、絶望の淵(ふち)に立たされて、今や奈落(ならく)の底へ、落とされようとしている。

 もう、自暴自棄になって、三人を襲ってしまえ。


 僕の狂気を察したのか、三人は両手でおっぱいとお尻を、急いで防御してしまった。

 そして、ジト目で僕を睨(にら)んでくる。

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