第466話 【許嫁女子会(反省)】

 【許嫁女子会(反省)】


 「今日の私は、反省を、話したいと思いますわ」


 「〈アコ〉ちゃんが、反省なの」


 「えぇ、〈サトミ〉ちゃん、そうなの。〈ハパ〉先生に説得されて、《黒帝蜘蛛》の討伐へ、〈タロ〉様を送り出してしまったことよ」


 「それは、〈サトミ〉も思ったんだ。なんで、反対しなかったのかな」


 「私も、〈ハヅ〉さんが血塗(ちまみ)れなのを見て、我に返りました」


 「やっぱり、〈クルス〉ちゃんも、そうなの。私も〈ハヅ〉さんと恐ろしい大蜘蛛を見て、何てことをしてしまったんだと、激しく後悔したのですわ」


 「〈サトミ〉達は、どうして、危ないから行っちゃ嫌だと、言わなかったのかな」


 「それは、〈ハパ〉先生の、匠(たくみ)な二元論で、誘導されたのだと思います」


 「〈クルス〉ちゃん、それはどういうことなの」


 「うーん、先ほど言ったことは、〈タロ〉様を危険な目に遭わせた、〈ハパ〉先生に少し怒って言っています」


 「はぁ、〈クルス〉ちゃん、〈サトミ〉には良く分からないよ」


 「〈サトミ〉ちゃん、ごめんなさい。私も、少し混乱しているのですよ。誤解を恐れず言えば、私達は〈ハパ〉先生の覚悟に、圧倒されたのだと思います。先生の考えでは、危険はなかったのです。ただ、それは薄氷を踏むような、ギリギリのものだったのです」


 「そうでした。自信満々に、言っていらしたわね。〈ハパ〉先生と〈リク〉さんと〈ハヅ〉さんの三人で、〈タロ〉様の安全には、少しの隙もないと言われていましたわ」


 「それに、〈サトミ〉が質問したら、三十人の兵士も、〈タロ〉様を守ると言ってたよ」


 「そうでしたね。その後、〈ハパ〉先生は、仰いました。安全が確保出来ていて、狩猟を始め森の活用が、大幅に増大するなら、《黒帝蜘蛛》の討伐は善でしかないと」


 「あぁ、〈クルス〉ちゃん、そうだわ。討伐に反対する私達が、悪って感じになっていったんだわ」


 「〈サトミ〉も覚えているよ。皆さんは、〈タロ〉様が《ラング》のために行うことを、握りつぶす悪ではなくて、全力で助ける善の伴侶(はんりょ)だと私は確信していますよ。違いますか、って言われたんだ」


 「そう言われたら、善の伴侶です、と言ってしまいましたわね」


 「私も言いました。〈タロ〉様に、反対する悪には、なりたくありませんもの。だけど、大蜘蛛と〈ハヅ〉さんを見た時、騙(だま)されたと思ったのです」


 「〈サトミ〉も、分かったよ。〈タロ〉様を守ってばかりじゃ、あの大蜘蛛は絶対倒せないよ」


 「それどころか、〈タロ〉様も相当汚れていましたわ。〈タロ〉様も、大蜘蛛と戦ったんだと思うわ」


 「私もそう思いました。結構危険なことに、なっていたのではないかと」


 「はぁ、〈ハパ〉先生を、〈サトミ〉は尊敬しているけど。これからは信用出来ないね」


 「そうだと思います。〈ハパ〉先生の危険という概念(がいねん)は、私達とは大きな乖離(かいり)があると思います」


 「要は、〈ハパ〉先生は危険ということね」


 「この話は既に終わったことなので、これからはより以上に、〈タロ〉様の行動に気を付けることにしましょう」


 「〈クルス〉ちゃん、私もそう思うわ。若い女性と〈ハパ〉先生には、要注意ね」


 「あははっ、女の人と〈ハパ〉先生が、一緒なんだ」


 「〈サトミ〉ちゃん、少し違うわ。〈ハパ〉先生は、私達と同じくらい誠実で真剣だから、とてもやっかいよ」


 「はぁ、〈サトミ〉は、心配だよ」


 「ふぅ、〈タロ〉様は、色んなことで、不安にさせてくれますね」


 「ふふ、本当に仕方がない人ですわ」


 「そうだ。〈アコ〉ちゃんに、聞きたいことが、〈サトミ〉はあるんだ」


 「私に聞きたいの。〈サトミ〉ちゃん、何かしら」


 「後宮を、先に使わせて良かったの」


 「うーん、それは。本音を言えば、淋しいわね」


 「〈アコ〉ちゃん、淋しいのですか」


 「〈クルス〉ちゃん、そうなの。〈タロ〉様と新居で暮らすのは、とても楽しみだと思っていたわ。そのうち、新居は半分なくなったから、淋しい気持ちがあるのよ」


 「〈アコ〉ちゃん、半分って、どういうことなの」


 「後宮は、まだ内装が出来ていないから。それが完成してから住んだら、最初と言えなくもないわ。それに、〈タロ〉様と、ちょっとだけ使ったんだ」


 「へぇー、〈タロ〉様と何をしたの」


 「ふふ、〈サトミ〉ちゃん、あまり聞かないでよ。ちょっと恥ずかしいわ。一通り部屋に、入っただけだわ」


 「うふふ、部屋に入っただけで済んだのですか」


 「〈クルス〉ちゃんも、聞くんだ。でも、これは〈タロ〉様と私の秘密なの。二人にも、大切な思い出があるでしょう」


 「あはぁ、〈サトミ〉にもあるよ。心に仕舞ってあるの」


 「私にもあります。思い出すと、いつも胸の奥が熱くなってしまいます」


 「へぇ、〈クルス〉ちゃん、そうなの。ちょっとだけ、教えてよ」


 「はっ、言えないですよ。そう言う、〈アコ〉ちゃんも、言えないでしょう」


 「うーん、そうね。少しだけなら、良いわ。二人も、ちょっとだけ話してよ。すごく興味がありましわ」


 「〈サトミ〉も、聞きたいな」


 「私も興味津津(きょうみしんしん)です。最初は、〈アコ〉ちゃんからで、お願いします」


 「えっ、私からなの。それじゃ、〈タロ〉様が…… 」



― それからも、三人は思い出の話を、時には赤くなりながら、時には涙ぐみながら、時が経つのを忘れて話し続けた。笑いを誘うような出来事や、三人が怒るような話題も混じっていた。朝日が眩しく光りを照らしてから、ようやく三人は眠りについたようだ。 ―

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