第450話 愛情を注ぐ対象

 「くっ、そんなことは、私は知らない。子供には、愛情が必要なんだ。もっと構(かま)って、あげなくちゃいけないんだ」


 うーん、この人は、視野が狭くなっているんだろう。

 自分に見えているものが、全てなのかも知れない。

 それと、子供の扱いに対して、何か執着している感じに思えるな。


 「なるほど。〈サーレサ〉さんの、言うことも分かるよ。住居が狭いことは、もう直ぐ解決するはずだ。造りかけだけど、僕の正妻の後宮に、住んで貰うことになったよ。許嫁は、この子達と一緒に誘拐されたから、特別な仲間意識を持っているんだ」


 「ふん、押し付けがましいよ。それに、愛情を注(そそぐ)のは、どうするんだい」


 「十分とは言えないけど、俺がもっと頑張るさ。それに、〈サーレサ〉さんも、やってくれているじゃないか」


 何だ。〈マサィレ〉の話では、この初老の女性も、やることはやっているのか。


 「けっ、二人じゃ人数が、足りないんだよ」


 「うわーん、〈サーレ〉おばちゃん、怒らないでよ」

 「えーん、良い子にするから、ぶったりしないで」

 「あーん、許してください。許してください」


 自分達が、怒られていると思ったのだろう。子供達が泣き出してしまった。

 虐待されたことを、思い出した子もいるようだ。


 確かに、傷つけられたこの子達のケアは必要だな。

 このままじゃ、笑顔が見られないかも知れない。


 「あっ、ごめんよ。おばちゃんは、怒ったりしていないからね。皆良い子だから、ぶったりするはずがないよ」


 初老の女性と〈マサィレ〉は、しゃがんで子供達を抱きしめた。

 農長の奥さんも、頭を撫ぜているし、許嫁達も「大丈夫だよ」と声をかけている。


 僕も一人の少女の目の前にしゃがんだけど、少女は少し引きつったように目を見開いてしまった。


 大きな男は、たぶん怖いのだろう。

 僕も、子供に慣れていないから、どうしたら良いのか分からない。

 無言の知らないおっさんが、目の前にいたら恐怖でしかないな。

 直ぐ横にいた〈サトミ〉が、これはマズイと思ってくれたのだろう。

 僕の前の子も、一緒に抱きしめてくれた。

 ほっとしたよ。〈サトミ〉、様様だ。


 あの初老の女性のことを、農長の元の家を出る時に、奥さんが話してくれた。


 〈サーレサ〉さんと言う人は、自分の子供を幼い時に失くして、少しおかしくなってしまったようだ。

 僕が見かけた広場は、子供と最後に遊んだ場所で、そこで一日中過ごしていたそうだ。

 日常生活が崩壊したため、亭主に追い出されて、親戚の家で厄介になっているらしい。

 その親戚が、農長だということだ。


 それがどうしたことか、誘拐された子供達を見た途端、率先して面倒を看始めたらしい。

 もう広場には行かずに、一日中、誘拐された子供達と過ごしているんだ。

 死んだ子供と重なったのだと思う。愛情を注ぐ対象を、再び見つけたんだと思う。


 僕に絡んだのは、自分の子供が蔑(ないがし)ろにされていると、感じた結果なんだろう。

 一番大切な者が、軽視されていると腹が立ったのだと思う。


 亭主に追い出された恨みを、僕にぶつけたのかも知れないな。

 とんだとばっちりを食ったよ。


 「〈タロ〉様、災難でしたね。よく怒られなかったです。すごく偉いですわ」


 「あの女性の、言うことも一理ありますが。〈アコ〉ちゃんの後宮を提供するのは、破格(はかく)の待遇ですよ。もっと有難く思うべきです」


 「〈サトミ〉は、ずっとイライラしてたよ。〈タロ〉様に、あんなこと言うなんて、言い過ぎだと思うな」


 許嫁達が、こんな風に思ってくれたのが、分かって嬉しくなるな。

 僕の考えを支持してくれて、僕の気持ちに寄り添ってくれるんだ。

 やっぱり僕の許嫁達は、素晴らしい女性だよ。


 僕のあそこを持ってくれて、おっぱいに、すりすりと添わせてくれるだろう。


 うーん、女性と言えば、〈華咲服店〉の〈ベート〉は、どこにいるのだろう。

 まあ、いいか。


 次に執事の元の家に、向かうことにした。

 ここには、二組の母子家庭が暮らしている。


 普通に暮らしていたが、亭主が病死したため、困窮(こんきゅう)したらしい。

 頼れる親戚も知人もいなかったのだろう。


 僕達が訪問すると、涙を流して、お礼を言ってくれた。

 さっき文句を言われたのと、真逆の反応だ。


 これが当たり前だと思う。

 僕は、批判ばっかりされている、児童相談所の職員じゃないからな。

 この人達を援助したのは、打算(ださん)もあるけど、殆(ほとん)どは成り行きと同情心だ。


 生きていく希望を与えられたからか、二人の母親は、僕に頭を下げまくっている。

 許嫁達の古着を貰って、子供達は大騒ぎのようすだ。

 やっぱり女の子は、服が好きなんだろう。


 ただ、母親がいるだけで、さっきの子供達とは、受ける感じがまるで違うな。

 片親だけであっても、親がいるとこれだけ違うんだ。

 苦しい暮らしから解放されて、今は穏やかな表情をしている。

 ここの子供達は、お金さえ何とかすれば、問題ない生活が送れそうだ。


 次は兵長の元の家だ。〈サトミ〉が、育った家でもあるな。

 ここには、一組の母子家庭と、姉弟が二組暮らしている。

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