第448話 濡らしっこ

 当然、そこも空っぽだ。ベッドも何もない。

 抱えている〈アコ〉をどうすべきか。すごく悩むな。


 「いけない。〈タロ〉様、順番を間違えました。着替える前に、お風呂へ入るのを忘れていましたわ」


 「もう、良いんじゃないかな」


 「良くありません。お風呂は、大切なものですわ」


 しょうがないな。

 僕は〈アコ〉を抱えたまま、お風呂に入った。

 湯船は、かなり大きい。これなら、〈アコ〉と二人で入っても余裕だな。

 結婚後は、毎日一緒に入って、おっぱいを堪能(たんのう)すると決めた。


 「〈タロ〉様、早く服を脱いでください」


 〈アコ〉は、ネグリジェを脱いで、赤い薔薇のショーツ一枚だ。


 「〈アコ〉、お風呂に入るのに、下着は脱がないの」


 「ふぅ、結婚した後は、当然脱ぎますわ。でも今はまだ、仮初の新妻です。仮では、最後までお見せすることは出来ないのです」


 えっ、お風呂に入るんじゃないのか。

 でも良く考えたら、今は、お湯も沸いてないから無理だな。

 そう言うことで僕達は、空の湯船に入って、入浴の真似事をした。


 手の平を水で濡らして、互いの胸を洗いっこしたんだ。

 これじゃ、おままごとだよ。

 と言うか、洗ってはいないな。濡らしっこだ。


 〈アコ〉のおっぱいが、張りがあって肌理(きめ)が細かいためだろう、丸く水を弾(はじ)いている。


 コロコロと転がり落ちる、その水玉を、僕は指先で弾いて遊ぶ。

 おっぱいの表面をこするように、水玉を破裂させるのは、異様に興奮させられる。

 下半身の奥から、ゾクゾクしてしまう。


 〈アコ〉も、ゾクゾクしているのだろう。

 自分の腕で口を塞(ふさ)いでいるが、くぐもった声が漏れて聞こえている。


 水玉を追いかけて、薔薇の蕾を弾いたら、さすがに怒られてしまった。


 「はぁん、もう、〈タロ〉様は。やり過ぎですわ。そんなところを爪で弾くなんて、乱暴過ぎます。そこを弾くなんて、結婚してからでもダメですよ」


 「えぇ、優しく弾いただろう。とても軽くしたはずだよ」


 「んんう、いやらし過ぎるからダメなんです」


 〈アコ〉は、先っちょだけを両手で隠して、湯船から出てしまった。

 大きいから、全部は隠せないんだ。


 そして、真っ赤な顔をしながら、タオルでおっぱいを拭いている。

 僕の胸も拭いてくれているから、怒ってはいないようだ。


 僕が、パジャマを着ようとしたら、手を掴まれた。


 「んん、だめ。私が着せてあげますわ。その代わり、私も着せてくださいね」


 おっぱいが丸見えのまま、可愛くおねだりをされるは、インパクトがあり過ぎる。

 血が逆流か直流かして、失神してしまうぞ。


 〈アコ〉は、僕にパジャマを着せてくれたから、次は〈アコ〉のネグリジェだ。

 頭の上から被せたら、予想通り、おっぱいに引っ掛ってしまった。

 こんだけ、大きいんだから当たり前だ。


 僕は、引っ掛かりを直すため、〈アコ〉のおっぱいへ手を伸ばした。

 そして、おっぱいを揉んでしまう。

 こんだけ、大きいんだから当たり前だ。無視するなんてあり得ない。


 「んんう、私の胸を気に入って頂いているのは、嬉しいのですが。まだ最後の寝室が残っていますわ」


 寝室か。最後の部屋なんだ。言わば、フィナーレを飾る部屋なんだな。

 それは行かないわけには、いかないぞ。


 僕はいそいそと、〈アコ〉をまた、お姫様抱っこに抱えた。

 〈アコ〉は、また「きゃー」と言って、嬉しそうに笑っている。

 僕の首に手も回して、おっぱいを押し付けてきた。

 あざとい声と、やり方だけど、それが何とも嬉しい。


 「ここが最後の部屋ですわ。ここで〈タロ〉様と、愛を確かめたいのです」


 〈アコ〉が、真剣な目で僕を見詰めてきた。


 「愛を確かめる」って、やることじゃないらしい。この体勢では無理だ。

 立ったままでは、童貞には、ハードルが高過ぎる。絶対にひっかけてしまう。


 やる以外の、確かめはなんだろう。


 僕は勇気を、振り絞る必要があるな。恥ずかしくて、もう顔が熱いや。


 「〈タロスィト〉は、〈アコーセン〉を、愛しています」


 汗が、身体中を流れ落ちていく。


 「〈アコーセン〉は、〈タロスィト〉様を、愛し抜きます」


 〈アコ〉は、「やっとです」と言いながら、大泣きしてしまった。

 「わんわん」泣きながら、僕にしがみ付いてくる。


 月光が、二人を照らす位置に移動して、〈アコ〉の顔を見詰めた。

 泣き顔の〈アコ〉は、命かけて守ると誓うほど、愛しい存在だ。

 月の光に輝く涙の跡は、今までの〈アコ〉の、気持ちの軌跡なんだろう。


 流れ出した涙は、僕の胸に落ちてくる。

 それから先は、これからの二人次第なんだろう。


 泣き止んだ〈アコ〉の唇に、僕は優しくキスをした。

 〈アコ〉は、僕の首に手を回して、もっと強く唇を押し付けてきた。


 「〈タロ〉様、泣いたりして、ごめんなさい。すごく感動したのです。思っていた以上に満足出来ましたので、仮初の新妻は、これでいなくなりますわ。本当の新妻になった時は、このまま寝台に連れて行ってくださいね」


 そう言うと、〈アコ〉はサッサと服を着替えてしまった。

 今度は後ろ向きで、素早い動作だ。微塵も、僕に見せる気はないらしい。


 「えっ、終わりなの」


 「言いましたよね。仮初の新妻は、もういないのですわ。〈タロ〉様も、サッサと着替えてください。もう夜も遅いですよ」


 えっ、えっ、膨れ上がった、僕の期待とあそこは、どうすんの。

 

 僕は満足してないよ。

 僕を誘ってたのは、「愛している」と言わせるため、だけだったのか。

 〈アコ〉さん、こんなの、あそこの生殺しだよ。もんもんとして眠れないぞ。


 眠れぬ夜に月灯りが、僕のあそこを照らしているのは、月の女神の憐れみだろう。

 今宵(こよい)は、貴方を想って、セレナーデ(小夜曲)を奏(かな)でよう。

 月の光の中で、僕のあそこを、テデナーデして欲しい。

 あぁー。

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