第431話 若い女性の移住者

 僕は一つ返事で、この申し出を受けた。

 前から雇おうと思っていたんだが、本人達が言ってこないので、こっちからは言わなかったんだ。

 まあ、これは〈アィラン〉君のせいだな。

 〈アーラン〉ちゃんだけなら、会った時に直ぐ保護していたと思う。


 それと、従業員が同時に二人、子供を産むのでその補完のためでもある。

 〈南国果物店〉の裏の館の部屋も空いているし、何とも都合の良い話だ。


 そして、貧民街の子供達なんだが。十一人が、《ラング領》に移住することになった。


 王都旅団から、何とか出来ないかと相談があったんだ。

 《ラング領》が、移住者を受け入れていることを、知っていたんだろう。

 このまま貧民街へ返しても、まともな人生は送れないと言われた。

 僕に言うなよ、とは思ったが、若い女性の移住者は、有難いことでもある。


 将来的には、結婚して子供を産んでくれるからな。

 僅(わず)かかも知れないが、町の治安維持にも繋がるし、人口増も期待出来る。


 そう言うことで、十一人のうち母親がいる子と年嵩(としかさ)の兄妹がいる子がいたので、総勢二十一人の移住となった。


 一人は父親もいたのだが、アルコール依存症で暴力も振るうため、王都へ置いてきぼりにされるようだ。

 その子の母親が清々しい顔で、嬉しそうに言っていたらしい。

 僕も、何かへ過度に依存しないよう気をつけよう。

 清々しく置いてきぼりにされるのは、情けなくて悲し過ぎる。


 おっぱいへの依存は、ギリギリ大丈夫だと、両手で推(お)し測(はか)っております。


 移住者は、直ぐに旅立つことになったので、引率は秘書役の〈ソラィウ〉に任せてしまえ。

 領地に着いたら、叔父である執事の〈コラィウ〉に、泣きつけば何とかするだろう。

 優秀な部下を持った僕は、幸せだとさせて頂こう。




 休養日がやっと来たのに、破いたスカートの代わりを買うはめになった。

 おまけに、おまけの〈アーラン〉ちゃんも、一緒について来ている。

 イチャイチャする場面が、遠のく予感しかしない。


 〈アーラン〉ちゃんが、まともな服を持っていないので、買ってあげることになったんだ。

  許嫁達は、〈アーラン〉ちゃんを、とても可愛がっている。


 一緒に誘拐されて、シンパシーを強く感じているのだろう。

 それに、〈アーラン〉ちゃんは、愛らしい顔をしているし、性格も健気だしな。


 特に〈サトミ〉と〈アコ〉が、妹が出来たと喜んでいるみたいだ。

 〈サトミ〉は末っ子だし、〈アコ〉も一人っ子みたいなもんだからな。


 「〈アー〉ちゃん、一杯服を〈タロ〉様が買ってくれるよ。良かったね」


 〈サトミ〉が、勝手なことを言っている。一杯とは言ってないぞ。


 「ご領主様、ありがとうございます。でも、お兄ちゃんは持っていないので、少しで良いです」


 「〈アー〉ちゃん、何を遠慮しているのかしら。〈タロ〉様は、儲けているから心配は無用ですわ。それに〈アラン〉君は、古着を何着か渡されているわ」


 〈アコ〉も勝手なこと言うよ。それに、お兄ちゃんは古着で、妹は誂(あつら)えた服なんだ。

 格差が著しいな。


 「〈タロ〉様、〈ベート〉さんのお店が、お休みをしていますので、今日はどこへ買い物に行くのですか」


 〈クルス〉が言ったとおり、〈ベート〉の〈華咲服店〉は、長期休業になっている。

 その理由は、「はぁー」と溜息が出る呆れたものだ。


 〈ソラィウ〉に頼まれて、移住者の引率を手伝うことになったんだ。

 女性ばかりだから、引率者にも女性がいないと、都合が悪いとの判断だ。

 それはそうだと思うけど、どうして〈ベート〉なんだろう。


 「〈クルス〉、どうして〈ソラィウ〉は、〈ベート〉に頼んだのだろう」


 「〈タロ〉様、それは。気心が知れているのと、能力を信頼しているからだと思います」


 「ふーん、そんなこと〈ソラィウ〉が、いつ分かったんだろう」


 「〈タロ〉様は、知らないのですか、〈ソラィウ〉さんからは、いつも〈ベート〉さんの匂いがしています」


 「えっー、匂い。〈クルス〉は、〈ソラィウ〉の匂いを嗅いでいるの」


 「むっ、違いますよ。嗅いだりしていません。〈ベート〉さんは、沢山香水をつけられているので、分かるだけです」


 ほぉ、〈ベート〉は香水を沢山つけて、何の匂いを消しているんだろう。

 アレかな。


 「はぁ、あの匂いに、〈タロ〉様は、気づいていなかったのですか。少し鈍いと思いますわ」


 「いつも、プンプンしてたよ。最初は、香水をつけてるって、思ったぐらいの匂いだよ」


 「えっ、そうなのか、全然知らなかった。あの二人は、そういう関係なんだな。相当年は、離れていると思うけどな」


 「そうですよ、〈タロ〉様。香水の匂いが、移るほどの近さだと言うことですわ。それと愛に、年の差は、関係ありませんのよ」


 うーん、僕は年の差は、関係ある派だな。あまり離れていると、生活に差が出てくると思う。

 例えて言えば、五十歳と六十歳になった時には、差が出ると思うけどな。

 でも、まだ十代の僕が、言うことじゃないか。その年にならないと、分からないとは思う。

 いづれにしても、本人達次第ではあるな。二人が良いと言えば、それが正解だ。

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