第423話 罰

 「すみません。私の軽率な行動が、いけなかったのです。どんな罰(ばつ)でも受け入れますわ」


 「ごめんなさい。〈アコ〉ちゃんだけの、せいではありません。私にも罰を与えてください」


 「〈サトミ〉も謝ります。心配をかけた、悪い〈サトミ〉を罰してください」


 「うーん、罰と言われてもな。謝ってくれたから、それで良いよ」


 「でも。謝るだけでは、罰が軽過ぎますわ」


 「そうだよ、〈タロ〉様。〈サトミ〉は、悪いことをしたんだよ」


 「〈タロ〉様、どうか相応しい罰を考えてください」


 はぁー、どうして僕の方が要求されるんだ。僕が罰を与える方だろう。

 なんか変だな。


 「それじゃ聞くけど、どんな罰が良いんだ」


 「それは、私の考えることじゃありませんわ。〈タロ〉様が、考えて欲しいのです」


 「〈タロ〉様が、考えてくれた罰に意味があるんだよ。〈サトミ〉はそう思うんだ」


 「そうですよ。私達は、〈タロ〉様に許して欲しいのです。私達が考えた罰では、完全に許しては貰えないと思います」


 はぁー、何なんだろう。どうして、こんなプレッシャーをかけられるんだ。

 僕が変な罰を言ったら、「えぇー」って否定をするに決まっている。

 罰を与えてくれって、言っているけど、僕を試しているんじゃないか。


 でも、この状況では何か考えねばならないな。何かヒントが欲しい。


 「今まで、どんな罰を与えられたことがあるんだ」


 「えっ、今までですか。私は母から、ほっぺを抓(つね)られたことがありますわ」


 〈アコ〉の母親は、嫁ぎ先で、相当ストレスがあったと思う。

 子供を抓るのは、褒められたことじゃないけど、少しくらいは許容範囲だろう。

 〈アコ〉も、捻じ曲がって育ってはいないと思う。


 「罰なのかどうか微妙ですが。私は、物置に閉じ込められたことがあります」


 物置に閉じ込めるのは、結構な罰だろう。それを罰だと思っていないのか。

 〈クルス〉は、どんな生活をしてたんだ。


 「〈サトミ〉は、ないんだ。意地悪はされたけど、お父さんやおばあちゃんから、罰を受けたことはないよ。〈タロ〉様もないでしょう」


 〈サトミ〉は、一番厳しいと思う母親がいないからな。

 それに末っ子だから、甘やかされていたはずだ。

 僕にも母親がいないし、一人っ子なので、大事にされていたと考えたのだろう。

 間違いではないけど、僕と〈サトミ〉とでは少し違っている。


 「僕か。僕は一度、お尻を叩かれたことがあるよ」


 どうしてか分からないけど、事実らしい。

 この身体に、刻み込まれるほどインパクトが強いことだけ、脳細胞の中から、なくならないのかも知れないな。


 「〈タロ〉様は、どんな悪いことをしたの」


 「うーん、怖かった記憶はあるんだけど、後は思い出せないな」


 「罰でお尻を叩くのは、《ラング伯爵》家の伝統なのでしょうか」


 「伝統かどうか分からないけど、他のところを叩くよりは、まだマシだとは思うよ」


 虐待の一種だとは思う。

 ただ、あまりにも悪いことや、危険なことをした場合には、抑止効果(よくしこうか)があるような気もする。

 物置に閉じ込めることと、恐怖という意味では、そんなに変わらないようにも思う。

 暗い所や狭い所が、死ぬほど苦手な子供もいるからな。


 たぶん、怒りに任せた行為じゃなくて、愛情がある行為であるかが重要じゃないのかな。

 言葉による説教であっても、それが怒りの発散であって、愛情が何もないのであれば、それは虐待であると思う。


 まあ、親も不完全な人なんだから、愛情だけで怒っているはずがない。

 それは、もう親じゃなくて聖人様だよ。この世に存在しているわけがない。

 愛情だけで怒っていると言うヤツには、疑問符(ぎもんふ)がつくと思うな。


 「〈タロ〉様、《ラング伯爵》家の伝統にしましょう。抓られるよりは良いと思いますわ。ただ、お尻を叩くのは、ちゃんと説明をしてからではないと、してはいけないと思いますわ」


 「はぁー、そんな先の話は、子供が生まれてからにしようよ」


 「〈タロ〉様、〈アコ〉ちゃんの言っていることは、今の話ですよ。私達に説明をしてから、お尻を叩いてください」


 「そうだよ。〈サトミ〉のお尻を叩いて、罰を与えて欲しいんだ」


 「えぇー、どこをどうしたら、そんな話になるんだよ」


 「伝統は、大切にしなければなりませんわ。《ラング伯爵》家の未来は、私達が造っていくのです」


 「〈サトミ〉達が、二番目になって、伝統を造っていくんだね」


 「それは素晴らしいことだと思います。私達が叩かれることで、受け継がれていくのですね」


 未来とお尻の関係は何なんだ。お尻を叩かれるのが、素晴らしいことなのか。

 三人が、決意を込めたような顔になっているのは、どういうわけだろう。

 僕は、この三人に付いて行くことが、出来るのだろうか。また暴走しているんじゃないのか。


 マジで僕は、許嫁達三人のお尻を、ペシペシ叩くのだろうか。

 それは、いけないことのような気がするぞ。

 僕は、三人に罰を与えられるほどの、できた人間じゃないと思う。

 純粋に、罰を与えられるはずがない。エッチな方面へ、行ってしまうに決まっている。

 自分自身だから、火を見るより、ハッキリと確信出来る。

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