第419話 青白い肌の男達

 〈ガリ〉も、馬車を動かそうとしている、男達の一人に突進していく。

 しかし、腹に容赦(ようしゃ)ない蹴りを食らって、二、三回、道にバウンドして動かなくなってしまった。


 〈ガリ〉をやりやがったな。殺すぞ。

 僕はカッと熱くなって、幌から飛び降りて、「お前ら、許さない」と叫んだ。


 そのまま、〈ガリ〉を蹴った男の頭へ、勢いをつけて包丁を振り下ろしてやった。

 男が合わせた剣で、包丁は「キィーン」と、甲高い悲鳴のような音をあげる。

 この衝撃に耐え切れなかったのか包丁は、真ん中でポッキリと折れてしまった。

 糞ったれが、包丁に無理をさせ過ぎたんだ。


 その後の男の斬撃を、僕は鉄鍋で防ぐしかない。

 鉄鍋はベコベコになりながらも、良く耐えてくれている。

 ただ、これでは防戦一方で、活路を開けそうもない。

 先頭の馬車は、ゆっくりと動き出そうとしているのに。急がなくてはならないぞ。


 馬車に縋(すが)りつこうと、一歩前に踏み出した瞬間、男に腕を切られてしまった。

 咄嗟(とっさ)に腕を引いたから、骨にまで影響はない。

 しかし、鉄鍋はもう持てない。

 道に「カラン」「カラン」と乾いた音を鳴らしながら、転がっていってしまった。


 動き出す馬車に気をとられて、相対する男から目を離してしまったんだ。

 こうなるのは当然の結果だ。自分の未熟さに、ただただ腹が立つ。


 僕は血が流れる腕を押さえて、立ち竦(すく)んでしまった。

 何も武器がないのでは、どうしようもない。

 〈ガリ〉も、足を投げ出したまま、ピクリとも動いてはくれない。


 でも思う。

 〈ガリ〉に導かれて、グルグルに運んで貰ったのに、肝心の僕が役立たずで、どうするんだ。

 例え徒手空拳(としゅくうけん)でも、許嫁達を救い出すのを諦めるもんか。


 「《ラング伯爵》様、これを使ってください」


 〈ラオ〉が、大声で叫びながら、短剣を放り投げてくれた。


 「よっしゃー」


 僕はそれを受け取って、正面の男に攻撃をしかけた。

 男は大きく振りかぶって、剣を乱暴に振るってくる。

 細かい技も何もない、単調で力任せの剣筋だ。何だコイツは、兵士じゃない。素人に近いぞ。

 僕は、素早く懐に潜り込んで、胸に突き刺してやった。

 男は胸から血を噴き出しながら、ゆっくりと前屈みになって倒れていく。


 この男達は異常だけど、胸を刺されたら普通に死んでしまうんだな。

 それに動きが悪くて、剣の技量はあまり高くない。一瞬の判断がワンテンポ遅いと思う。

 誰かに操られている感じが、改めて強くなる。


 「〈ラオ〉、ありがとう。助かったよ」


 「何とか間に合って良かったです。こいつ等は、噂になっている、女をさらう悪党なんでしょう。さすがは英雄様だ。俺達も助太刀しますよ」


 〈ラオ〉の言葉で、野次馬達が動き出したようだ。

 男達に石を投げる人や、長い棒を持って牽制してくれる人が出始めた。


 それに、際どい服を着た女性達が、ワラワラと店から湧き出して、通りに椅子を並べ始めているのも見える。

 椅子で作ったバリケードで、馬車を進めなくするつもりなんだろう。

 バリケードを作る動きで、短いドレスの裾(すそ)や、深いスリットから、カラフルな下着が見えている。


 これは、スキルを使うのに都合が良いぞ。

 野次馬の目が、チラチラ見える下着に集中して、僕を見ていない。

 僕は、瞬間移動のスキルを目立たないように使って、先頭の馬車に迫っていく。

 先頭の馬車の馭者の横に、瞬間移動して、そいつの喉を横から突き刺した。


 「おぉ、今の《ラング伯爵》の動きを見たか」


 「早過ぎて見えなかったよ。本当に英雄なんだな」


 下着が好きじゃないヤツもいるんだな。


 馭者の次は、周りの男達だ。まだ、十人近くいる。

 ただ〈ラオ〉達、歓楽街の住人が、手にナイフやドスを持って、周りを囲み出した。

 青白い肌の男達を牽制してくれているので、膠着(こうちゃく)状態になっている。


 しかし、僕の腕から流れる血は、止まってはいない。

 早く決着をつけないと、血が流れ過ぎて動けなくなるだろう。


 「ハァハァ、ご領主様、遅参(ちさん)いたしましたが、これより賊の排除にかかります」


 大汗をかいた〈リク〉が、荒い息を吐いて、ギラギラと光る剣を上段に構えている。

 はははっ、頼れる男が来てくれたぞ。これで形勢は一気に傾いた。

 自然と笑い声が出てしまうよ。


 「よう〈リク〉、良くここが分かったな。来てくれて助かったよ」


 「〈ガリ〉の声に導かれました。馬が途中でへばってしまい、申し訳ありません」


 「いや。十分間に合ったよ。後は任せた」


 そこから、〈リク〉の蹂躙(じゅうりん)が始まった。

 瞬く間に青白い肌の男達は制圧されていく。


 周りの野次馬達は、「あれがもう一人の英雄の〈リィクラ〉卿だ。鬼のように強いな」と〈リク〉を呆れたように見ている。


 少し寂しくはあるが、注目されていないのは、スキルを使うのに好都合だ。

 僕はスキルを使って、先頭の馬車に乗り込んだ。でも、予想に反して男達は一人もいなかった。

 こんな形勢になれば、普通の賊なら、女性達を人質にして逆転を狙うと思う。

 でも、この青白い肌の男達は、違った考えを持っているらしい。

 高潔と言うわけじゃなくて、プログラムをされていないかのように感じる。


 まあ、有難いことではある。余計なことを気にしないで、捜すことだけに集中が出来るぞ

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