第415話 【許嫁女子会(《人魚の里》)】

【許嫁女子会(《人魚の里》)】


 「今回のお泊り会は、緊急動議がありますの。許し難(がた)いことなのですわ」


 〈アコ〉が、憤懣(ふんまん)やるかたない、って感じで息巻(いきま)いている。


 「あのことですね」


 〈クルス〉は、「ふむふむ」と頷(うなず)いている。


 「〈カリナ〉さんが、〈リク〉さんを問い詰めたら、吐いたらしいです」


 〈サトミ〉の話し声は、極秘情報を漏らすようなヒソヒソと囁(ささや)く声だ。


 「私も聞きましたわ。〈タロ〉様は、《人魚の里》へ頻繁に通っているようです」


 「《人魚の里》って、具体的にはどういう所なのです」


 〈クルス〉の問いかけに、〈サトミ〉がまたヒソヒソと答えている。


 「〈リーツア〉さんによると、王都で一番大きな歓楽街で、女の人が男性に、いやらしいことをする所らしいです」


 「そんな。〈タロ〉様が、そこへ通っているのですか」


 〈クルス〉は、信じられないって感じで驚いている。


 「私も信じられないのですが、事実のようです。大げさに言えば、〈タロ〉様が、私達を裏切ったと言えるでしょう」


 「〈アコ〉ちゃん、本当なの。〈タロ〉様が、〈サトミ〉達を裏切ったの」


 「正確に言えば、裏切ったとまでは言えませんわ。《人魚の里》にいる〈タロ〉様の相手の人は、玄人(くろうと)の人だと思います。恋愛とは違うのでしょう」


 「えぇー、〈タロ〉様は、その人といやらしいことをしたのですか」


 〈クルス〉が、悲鳴のような声を出した。


 「うーん、それもまだ分かりませんわ。でも、《人魚の里》へ行ったことは確かです」


 「はぁ、そうなのですか。その《人魚の里》へ行く目的は、いやらしいことに決まっているということですね」


 〈クルス〉は、目に見えて落ち込んだ感じになっている。


 「〈サトミ〉は、まだ〈タロ〉様を信じたいんだ」


 「私も実はそうなのですわ。〈タロ〉様は私達を、大切に思ってくれていると思っていました。でも心配なのです」


 「〈アコ〉ちゃんの心配は、痛いほど分かります。〈タロ〉様を失えば、私達は凄(すさ)まじい悲しみを抱(いだ)くと思います」


 「嫌だ。〈サトミ〉は、〈タロ〉様と離れたくないよ」


 「あっ、〈サトミ〉ちゃん、ごめんなさい。最悪の想像を言ってしまいました。良く分かってないのに、言い過ぎでした」


 「〈クルス〉ちゃん、大丈夫よ、最悪の事態にはならないと思うわ。〈タロ〉様と、その人は遊びであって、普通だと結婚なんかしませんわ」


 「〈アコ〉ちゃん、普通じゃなくて特別なら、〈タロ〉様は、その人と結構しちゃうの」


 〈サトミ〉が、心配そうに聞いている。


 「そういう可能性も、ゼロではありませんわ。過去にそうした、貴族もいるそうです」


 「〈サトミ〉は、そんなの嫌だよ」


 「私もそのようなことは、全く我慢出来ません。それに、私の胸やお尻を触っておいて、歓楽街の女性といやらしいことをしているなんて、許せないです」


 「〈クルス〉ちゃん、そのとおりよ。私達を、バカにしているとしか思えません。恥ずかしいのを我慢して、触らせてあげたのに、他でも触っていたんですからね」


 「〈サトミ〉も、〈タロ〉様が喜ぶと思って、触らせてあげたんだよ」


 〈サトミ〉は、もう涙ぐみ始めている。

 三人で話してうちに、感情が増幅されてしまったのだろう。


 「泣かないで〈サトミ〉ちゃん、まだ間に合うはずです。〈タロ〉様に、歓楽街の女性と別れて貰えば良いのです」


 〈アコ〉が、拳を握りしめて強い言葉を吐いている。

 でも、目尻にはもう涙が溜まりかけているようだ。


 「そうですね。行動を起こしましょう。悲しむだけでは、何も変わりません。強い気持ちと誠意があれば、困難を乗り越えられるはずです」


 〈クルス〉も、唇をギュッと噛みしめて、潤(うる)んだ瞳に火を灯(とも)している。


 「三人で〈タロ〉様に、別れて、とお願いするの」


 「〈サトミ〉ちゃん、最終的にはそうしますが、まずは歓楽街の女性を確認する必要がありますわ」


 「〈アコ〉ちゃん、それはどうしてですか」


 「〈クルス〉ちゃん、相手のことを全く分からないのでは、戦略の立てようがありませんわ」


 「戦略って、どんなこと」


 「〈サトミ〉ちゃん、敵を知らなければ、対策が生まれないってことですわ。敵を知れば、何か良い案が浮かぶはずです」


 「なるほど。それでは、《人魚の里》に突撃するのですね」


 「おぉ、突撃するの。勇ましいな」


 「えぇ、私達は〈タロ〉様を守る勇士です。誰にも後(おく)れをとったりしないのですわ」


 「それで、〈アコ〉ちゃん。いつ突撃するの」


 「それは夜ですね。昼間の歓楽街は誰もいないらしいです」


 「でも、夜はお店を見つけるのが、暗過ぎて難しいのではないですか」


 「うーん、そうですね。それじゃ、夕方にしましょう」


 「分かりました、夕方ですね」


 「〈サトミ〉は、《人魚の里》のお店を聞きているよ。《新ムタン商会》って言うんだよ」


 「ふむ、何だか普通の名前ですね。きっと誤魔化すための名前なのでしょう」


 「うふふ、〈アコ〉ちゃんは、冴(さ)えていますね。それに、三人で話すと、力が沸き起こってきます」


 「ふふふ、この三人で協力すれば。必ず〈タロ〉様の目を覚まさせることが出来ますわ」


 「うん。〈サトミ〉もそう思うよ。〈タロ〉様の汚れた心を掃除するんだ。おー」


 「〈タロ〉様の浮ついた心を踏みつけたいです。おー」


 「〈タロ〉様の淫ら(みだら)な心を粉砕(ふんさい)するわ。おー」 

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