第413話 お茶

 「はぁん、怖がっていますよ。身を硬くしています」


 今日の〈クルス〉は、すごくエッチなことを言うな。どうしたんだろう。

 どうとられるか、分かってないのかも知れないな。

 でも、やることは一緒だ。胸を揉みながら、先ちょをもっと舐めよう。


 「あん、〈タロ〉様、もうお茶はなくなりました」


 〈クルス〉は、もう笑ってはいない。厳しい顔付きで、僕から離れていった。

 まだ、右しか舐めてないのに。お茶は、初めから関係ないだろう。

 〈クルス〉は、部屋着とスリップを素早く降ろして、何時もの雰囲気に戻っている。

 もう誘惑は終わったんだろう。


 「〈タロ〉様、お茶は美味しかったですか」


 「うん。お菓子も甘かったよ」


 「はぁっ、お菓子って何ですか。私の胸は、お菓子ではありません。いやらしいですね」


 「うん。でも誘惑したのは〈クルス〉だよ」


 「えっ、私は、いやらしくなんかありませんよ。うーん、誘惑したのですから、そう思われるのでしょう。でも、ハッキリ言われますと動揺しますね」


 「動揺するのか」


 「〈タロ〉様が、いけないのですよ、私を変えてしまわれました。私は真面目だけが取り柄(え)でしたのに、自分で衝撃を受けています」


 「今の〈クルス〉も僕は好きだよ」


 「んん、いやらしいからですか」


 「違うよ。〈クルス〉が変ったのは、僕に心を開いてくれている証拠だろう」


 「はい。私は〈タロ〉様に、もう心を預けてしまいました。今さら返品は効きませんよ。死ぬまで味わってくださいね」


 また〈クルス〉は、エッチなことを言ったな。

 どうとられるか、分かってないとは、もう思えないな。


 「味わうって」


 「私の全てをです」


 「今」


 「はっ、違います。そういう意味じゃないです。動揺しなくなるまでは、もう少しかかりますね」


 「その動揺は、いつなくなるの」


 「どうでしょう。〈タロ〉様が、もっと私を包んでくれたら、なくなると思います」


 「こうするの」


 僕は、〈クルス〉を抱きしめた。


 「そうです。〈タロ〉様の温かさを感じて、いつも胸が熱くなるのです。胸の外からではなく、内側から私を感じさせるのですよ」


 「ちょっと、いやらしい言い方だな」


 「うふふ、私は〈タロ〉様に変えられた、哀れな女なのですよ」


 「哀れって、どういう意味だよ」


 「〈タロ〉様に抱きしめて貰わないと、生きていけなくなったのです。ただ、抱きしめて貰っているので、哀れじゃないですね。とても幸せですよ、〈タロ〉様」


 僕は〈クルス〉にキスをした。長く〈クルス〉の唇を丹念に味わう。

 味はどうだったんだろう。そんなに甘くはないと思う。


 〈クルス〉は、僕に絶対的な愛情を求めているのかも知れない。

 何があっても崩れない信頼を築き上げたいのかも知れない。

 ただ、この世に絶対はないと思う。


 〈マサィレ〉と奥さんの愛は、戦争という大きな暴力によって、引き千切(ちぎ)られてしまった。

 奥さんは、子供への愛を優先したが、〈マサィレ〉への愛は無くなったのだろうか。

 全くなくなったとは思えない。


 でもこのことを、僕が、どうのこうの言う権利も、気にする必要もない。

 それは、〈マサィレ〉と奥さんが、奥歯で噛みしめるもんだろう。


 今の僕は、目の前にいる〈クルス〉との、絆を深めることを優先するべきだろう。

 それが例え、絶対じゃなくて相対であったとしてもだ。


 僕が〈クルス〉を変えてしまった、責任もあると思う。

 おっぱいとお尻を触るのを、当たり前のようにしている。

 僕の望むように〈クルス〉が変わったのだから。


 おっぱいの次は、お尻だ。左は今度にとっておこう。


 変った〈クルス〉なら、何も言わずに触らせてくれるだろう。

 僕は赤いショーツの中へ、手を滑らせた。

 〈クルス〉のお尻はスベスベだ。絹の様な肌と言うのか。


 音で表したら、シュルシュルとして、プニュって、感じだ。

 待てよ。スルスルとして、プリリンか。

 語彙力の壊滅的な貧困のため、表現が段々遠のく気がするな。


 「んんん、〈タロ〉様、今度はお尻ですか」


 「ダメなの」


 「もう良いや、っていう気持ちと、このままでは、と言う気持ちがせめぎ合っています。これも、私を包んでいることでは、ありますからね」


 「お尻を包むように触ったら良いの」


 「はあー、違いますよ。〈タロ〉様、時間が迫っています。直ぐに夕食を食べましょう」


 〈クルス〉は、ムッとした顔になって、僕の手をお尻から振り払った。

 僕の触り方が、下手だったんだろう。力が入り過ぎていたのか。難しいものだと思う。

 特訓が必要だな。


 〈クルス〉はお茶も、口移しでは飲ませてくれなかった。普通に水筒を回し飲みしただけだ。

 間接キスではあるけれど、もう僕達は、それがどうしたと言う関係になってしまっている。

 一年前から成長したと言えるのか。仲が深まったのだろうか。単に慣れただけかも知れないな。


 「美味(うま)い。〈クルス〉のお弁当は、毎回、本当に美味しいな。僕の胃袋は、〈クルス〉にきゅっと握られてしまってるよ」


 「うふふ、きゅっとですか。ぎゅっと握れるように頑張りますね」


 「おっ、きゅっと、ぎゅっと、の違いは何なの」


 「ぎゅっとは、固くて、もう外せないってことだと思います」


 「そうなのか」


 「〈タロ〉様、嬉しいですか」


 嬉しいって、どういう意味なんだろう。どういう気持ちの発言なんだ。


 「おぉ、そうだな」


 「うふふ、良かった。外せないように頑張りますね」


 僕は〈クルス〉に、内臓を握られて、もう外して貰えないのか。

 〈クルス〉に、一生涯に渡って餌付けされるのか。

 僕は、それで良いと思った。

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