第409話 立たせてください

 それじゃ、痛いのはお尻か。


 僕は、優しくお尻を撫(な)で回した始めた。

 痛いと言ってたから、サワサワと触らなくていけない。


 「ううん、くすぐったいですわ。〈タロ〉様、どうして、そこを触っているの」


 「痛いと言ってた、お尻を撫でているんだ」


 「はぁ、お尻を痛いとは言ってませんわ」


 「えぇー、そしたらどこが痛いの」


 「もおー、痛くなくなりましたわ。立たせてください」


 そんな。「立たせてください」って、言われても。既(すで)に、立っているんだよ。

 〈アコ〉が、首を曲げて僕を睨んでいるようなので、胴体の下に手を差し入れた。


 「えっ、〈タロ〉様、私をどうするんですか」


 「もちろん、立たせるんだよ」


 僕は〈アコ〉を抱えるように、両手を使って持ち上げた。

 でも、これは悪手だった。お姫様抱っこのようにはならない。

 何だか間抜けな格好だ。それと、直ぐに身体がずれて、〈アコ〉の足が着いてしまった。


 「ありがとう、〈タロ〉様」


 「立たせる」という当初の目的は達成したけど、〈アコ〉が何とも消化不良の顔になっている。

 もっとスマートに、立たせて欲しかったんだろう。僕の力不足だと思う。

 もっと、エッチのセンスを学ばなくてはいけない。


 〈アコ〉は、制服から部屋着に着替え始めた。

 大きなおっぱいが、上下にボウンボウンと弾んでいる。


 僕は、赤く腫(は)れたお尻に抗(あらが)えない雄猿のように、揺れるおっぱいへ誘引されてしまう。

 〈アコ〉を、ガシッと両手で固定して、その唇を奪った。

 唇が、お尻の代わりに赤く腫れて見えたんだ。


 「あっ、〈タロ〉様、そんなに興奮しないで。私は逃げたりしませんわ」


 「そうだと思うけど、少し前に悲しい別れを見たんだ」


 「ふーん、悲しい別れですか」


 「そうなんだよ」


 「それを、詳しく聞きたいですわ。だから、一旦落ち着いてくださいね」


 着替え終わった〈アコ〉は、僕の横に座って、口移しでお茶を飲ませてくれた。


 「お茶を飲んだら、落ち着いたでしょう」


 口移しだから、あまり落ち着かないと思うよ。

 現に僕は、〈アコ〉の腰を結構な力で引き寄せているぞ。

 自分も僕の胸に顔を預けているじゃないか。

 これが〈アコ〉の言う落ち着いた状態なのか。興奮が徐々に蓄積していくと思う。


 「そうかな」


 「こうしているのが、一番落ち着くのです。それより、悲しい別れの話をしてください」


 〈アコ〉は、キラキラと期待を込めた目で、僕を見てくる。

 悲しい別れの話に、強烈な興味を持ったらしい。


 僕は、《インラ》国から戦争奴隷を連れ帰り、《新ムタン商会》へ依頼して、〈マサィレ〉と奥さんの別離を見守った、一連の流れを話した。


 もちろん、〈チァモシエ〉嬢と、二十年前はピチピチの女将さんの唾液のことは、省(はぶ)いている。

 船長にキスされた話は迷うところだ。もう、〈サトミ〉は知っているからな。


 「〈タロ〉様、大変でしたね。船長さんを忘れられるように、私の唇を使ってください」


 僕は、また〈アコ〉にキスをした。うーん、さっきもしたけどな。

 まあ、いっか。

 それに、「船長さんを忘れられるように」って、元カレのように言うなよ。寒気がするぞ。


 でも、〈アコ〉が積極的になって、僕の唇を舐めてくれたので、寒気が引いて下半身を中心にかなり熱くなってきた。

 部屋着の中へ手を突っ込んで、おっぱいを触ることにしよう。


 「胸は、ちょっと待ってください。〈マサィレ〉さんと奥さんの話を、もっと詳しく聞きたいのです」


 〈アコ〉の待ったが、かかってしまった。辛いな。

 仕方がないので、さっきより詳しく話して聞かせた。


 「うぅ、本当に悲しい別れですわ。胸が締め付けられます」


 〈アコ〉は、両手を握りしめて、涙を流している。確かに辛い別れだと思う。


 「そうだよな。〈マサィレ〉の顔を見てられなかったよ」


 握りしめた〈アコ〉の手を包んであげた。

 すると〈アコ〉は、握っていた手を解いて、僕に指に自分の指を絡ませてくる。


 「私は、奥さんのことが心配ですわ。私なら、耐えられないと思います」


 そう言うと手を絡ませたまま、〈アコ〉が僕の上に乗るように、抱きついてきた。

 しがみ付く様に、僕の身体へ必死に手を回している。


 「〈アコ〉、泣かないでよ。僕は〈アコ〉と別れたりしないよ」


 「うぅ、でも、〈タロ〉様の子供が病気になったら、私はどうしたら良いのでしょう」


 「心配いらないよ。その時は僕も一緒に看病するさ」


 「本当に」


 「当たり前だろう。僕と〈アコ〉の子供なんだから」


 「うわーん、〈タロ〉様」


 〈アコ〉が泣き止むまで、僕はずっと背中をさすっていた。

 こんなに泣いている、〈アコ〉のおっぱいを、触るわけにはいかないな。

 今日は〈アコ〉のムチムチボディを、身体で受け止めるだけで我慢しよう。

 〈マサィレ〉に比べれば、天国みたいなものだ。温かくて、柔らかくて、良い匂いもする。


 「えへっ、〈タロ〉様。想像したら、信じられないほど、悲しくなっちゃいました。もう大丈夫ですわ」


 〈アコ〉は、バツが悪そうに照れ笑いをしている。

 本人が言うように、もう、大丈夫そうだ。

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