第408話 骨の髄まで、阿呆

 執務をこなそうと、夕方に〈南国果物店〉を通り抜けようとした。


 ふと見ると〈ソラィウ〉が、汗を流して穴を埋めている。

 ふー、犬の掘った穴を秘書が埋めるのか。

 〈ソラィウ〉は、少し太って戻ってきたから、良い運動にはなるな。


 ただ、気にしないで良いのに、〈リク〉が穴埋めを手伝い出した。

 そうなると、僕も手伝わざる得ない感じになる。

 〈サトミ〉のせいでもあるからな、フォローしとくか。

 僕は、伯爵様で領主だけど、かなり気が弱いんだよ。


 「ははっ、ご領主様と汗を流すのは、鍛錬以外でも楽しいものですね」


 〈リク〉が、良く分からないことを話している。〈ソラィウ〉も、苦笑いしているぞ。

 どうして穴を埋めるのが、楽しいんだ。〈ガリ〉じゃないけど、掘るなら少しは分かる。

 あれ、僕も少し変かも知れない。


 「ほほほっ、下郎に似つかわしい作業をしておるな」


 「あっ、グルグル」


 「朕に、何という口のきき方をする。無礼者めが」


 「こんな人が多い所へ来て、大丈夫なのか」


 「ふん、鳥頭(とりあたま)の下郎が。認識阻害の魔法を、使用しているに決まっておろう」


 「ほお、そうでござんすか。で、何の用でござんすか」


 「ほほほっ、変な口をききよって。骨の髄(ずい)まで、阿呆(あほう)よな。未通の乙女に朕の毛を、梳(と)かす栄誉を与えに来てやったんだ」


 ちんのけ、って卑猥(ひわい)だ。


 「〈サトミ〉なら、まだ学舎から帰ってないよ」


 「ほぉ、それは誠に残念無念(ざんねんむねん)。しかし、せっかく来てやったのだから、有用な話を聞かせて進ぜよう。朕は、抜かずの二発、を達成出来たと報告しておこう。うほほほっ」


 「けっ、自慢か」


 「うほほほっ、自惚(うぬぼ)れてはおらぬよ。単なる事実を伝えたまでよ。それでは、用は済んだので、帰参(きさん)いたすとしようか。息災(そくさい)で過ごされよ。うほほほっ」


 グルグルは、僕が瞼(まぶた)を閉じた一瞬に、どこかに消えてしまった。


 大腸の真ん中から、ふつふつと怒りが込み上げてくる気がする。

 マグマのように熱くて、暴れ回っている感じだ。

 くそー、わざわざ、僕に自慢をしに来やがったんだ。


 童貞をバカにしやがって。何て、心が腐った生き物だ。

 長い年月を生きているくせに、大人気が無さ過ぎる。


 きぃー、悔しい。

 〈アコ〉〈クルス〉〈サトミ〉、僕を男にしてくれよ。




 休養日に、〈アコ〉を《白鶴》で待っていると、僕の横を女の娘が走り抜けて行く。

 僕の目の前に来た時、その女の娘が、突如(とつじょ)すっ転(ころ)んだ。


 短いスカートを、大胆不敵にめくり上げて、ピンクのショーツを見せつけている。

 当然、僕はそのピンク色を、ガン見状態だ。

 淡いピンクに包まれた、乙女の柔いお尻が長時間見放題になっている。


 どうしたんだ。身体を強打して、身動きが出来ないのか。

 もっと見たいのは、やまやまだけど、もうさすがに助けよう。


 「ちょっと、あなた。いい加減に起きなさい。バレバレだわ」


 〈アコ〉が、僕のピンクの視線を遮(さえぎ)って、女の娘にキツイ言葉を投げかけている。


 「ふん、何よ。許嫁は、まだ途中なんだから、諦めないわよ」


 ピンクショーツの女の娘は、スカートの汚れを払いながら、何事もなかったように立ち上がり去ってしまった。

 このラッキー助平は、仕組まれていたものなのか。

 何と心躍る演目なんだろう。あのコケる芸は一級品だな。ぜひとも、もう一度見せて欲しい。


 「〈タロ〉様、熱心に見られていましたわ。あの女の娘が、気に入りましたの」


 〈アコ〉の機嫌が、とても悪いようだ。ピンクショーツを見ていたのが、バレたのか。

 ガン見してたから、そりゃバレるよな。


 女の娘の顔は見ていない。見たのは、ピンクショーツと太ももの裏だけだ。

 だから、女の娘を気に入ったと、聞かれてもな。


 ただ、ピンクショーツを気に入ったかと問われれば、かなりの窮地(きゅうち)に追い込まれる。 

 めくれ上がった下着は、大好物なんだ。聞かれなくて良かった。


 「えっ、気に入るはずがない。〈アコ〉が、いるのにあり得ないよ」


 当然だ。やっと生おっぱいまで、積み上げたのに。次の展開を待ち望んでいるんだよ。分かる。


 「ふふ、そうなら、まあ、良いですわ。早く屋根裏部屋に行きましょう」


 〈アコ〉の機嫌が、直って良かった。今日も一杯イチャイチャするぞ。


 〈アコ〉が、屋根裏部屋に上がる階段の最後の最後で、急に気躓(けつまず)いたぞ。

 どう見てもわざとだ。だって、ゆっくり倒れていって、手でスカートをめくっていたもの。


 ただ、さっきのラッキー助平より、この方が何倍も嬉しい。

 そして、何倍もドキドキするぞ。どうしてだろう。


 僕はそれを確かめるため、じっと〈アコ〉のお尻を観察した。

 研究の第一歩は、観察することにあるのだと、高らかに宣言しよう。


 〈アコ〉のお尻は、薄い黄色の布に包まれて、プルンプルンと揺れている。

 パーンと張ったお肉が盛り上がって、真ん中に深い溝も作り出している。


 「〈タロ〉様、痛い」


 〈アコ〉から、救援要請が発せられたようだ。

 あんなにゆっくりと倒れたのに、どこか痛いのか。不思議なことがあるもんだ。

 そうだ。僕の視線が痛いほどだ、と言うことなんだろう。

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