第400話 黄色いおばちゃん
無秩序な看板が猥雑さを引き出して、赤や青の灯りが艶っぽさを醸(かも)し出している。
路地のあちこちに、惜しげもなく肌を晒した女性が、お尻をくねらせながら歩いているのが見える。
あの店の前にいる女性は、真っ赤なドレスの胸元から、豊満な胸を見せつけているな。
顔も少し似ているから、〈ヨヨ先生〉の下位互換っていう感じだ。
ブルンブルンとした身体付きだよ。
この〈ヨヨ先生〉に似た女性の胸元を、ガン見している、おっさんが何人もいるぞ。
ここでも〈ヨヨ先生〉は、見られているんだな。そっくりさんだけど。
「若領主、どうでぇ。ピチピチした人魚が、一杯いるだろう」
「うーん、そうだな」
このおっさんは、バカなのか。許嫁達を知っているくせに、ピチピチって、なんだ。
今見えている大部分は、かなりの年上だぞ。おっさんの基準で言うなよ。
本当のピチピチは、僕の許嫁達だ。
「なんだ。昼間の赤灯みてぇな、生返事だな。《人魚の里》のべっぴんさんが、こんなに大勢いらっしゃるんだぁ。しゃきっとしろや」
あぁー、偉そうに。僕は許嫁達がいるから、目が肥えているんだ。
モテない、てめえと一緒にするな。おっぱいも、お尻にも不自由してないんだよ。
僕達は、《人魚の里》の煌(きら)びやかで、いかがわしい一角を通り過ぎようとしている。
ここの近くって言ってたはずだ。まだ、着かないのか。
《人魚の里》を一歩出ると、賑(にぎや)かさと熱気が半減する。
歓楽街ではあるのだが、淋しい感じを受ける。
店も、女性も、くすんでいるように見えるし、数も多くない。
《人魚の里》の裏通りっていう印象だ。
《人魚の里》が一流なら、ここは、三流の歓楽街だと思う。
「伯爵様、ここが商会の本部です」
〈アィラン〉君の指さした先は、ミニで黄色のドレスを着用された、女性のおっぱいだ。
少しお年を召された感じだが、気合で肌を大胆に露出されている。
慣れていないのを、人の良さそうな笑顔で乗り切ろうしているのが、かなり切ない。
低いステータスを、最大限まで引き出し、頑張っておられると思う。
おっぱいも少し垂れ気味だけど、ファイトだ。
「ヒィヒィヒィ。兄ちゃんは、おもしれぇヤツだな。黄色い人魚のパイオツに、本部があるって言うのか。そいつは、ぜひとも拝ませてもらおう」
「ふん、違いますよ。あの店の三階にあるんです」
それは、そうだろう。でも、〈アィラン〉君。君の指の先は、確実におっぱいだったよ。
年頃だから、無意識におっぱいへ、引き寄せられたんだろう。
僕には、良く分かる。そうあるべきだ。何も問題ない。自然なことだと言い切ろう。
「〈アィラン〉君、共に目指そう」
「えぇ、何を目指すのですか」
何って、おっぱいに決まっているだろう。
僕は許嫁達を揉むから、〈アィラン〉君は、あの黄色いおばちゃんに頼んでみろよ。
「言わなくても、分かり合えるんだ」
「全然、分かりませんよ」
〈アィラン〉君が困惑している横で、黄色いおばちゃんと、元戦争奴隷の人が、見詰め合っていた。
しばらく見詰め合った後、涙を流して抱き合っている。
一体なにが、起こったのだろう。
「あぁー、《ラング伯爵》様。〈ソウ〉の嫁さんが、見つかったんです」
えぇー、黄色いおばちゃんが、奥さんだったの。いきなりだな。
〈マサィレ〉達は、何かに優勝したような大騒ぎだ。
〈ソウ〉って言う人の背中を、バンバン叩いている。
吃驚するほど早く見つかったから、テンションが爆上げ中なんだろう。
自分の家族が見つかる期待も、大きく膨らんでいるんだと思う。
でも、奥さんが、あんな際どい服で接客してたんだ。複雑な思いはないのかな。
僕が悩むことではないか。
僕達が騒いでいると、店の奥から、いかついお兄さんが出てきた。
大柄でスキンヘッドの、ギョロ目のお兄さんだ。店の用心棒なんだろう。
素手なら、〈リク〉と良い勝負になると思うな。
抱き合っている黄色いおばちゃんを方へ、怖い顔をして、ドスドスと歩いていく。
ギロリと周囲にも、目配(めくば)せを忘れない。僕も思い切り睨(にら)まれた。
〈アィラン〉君を見つけると、方向を変えて、こっちへ向かってきた。
あー、こっちには来て欲しくないな。いち早く、船長は〈リク〉の後ろに隠れてやがる。
狡くてすばしっこい、おっさんだ。緑亀の生態に近いぞ。僕も隠れよう。
「おぅ、〈アラン〉か。こちらは例のお客人か」
「そうです。〈アン〉兄さん、こちらが伯爵様です」
「おぉ、良くおいでくださった。さあさあ、アジトに案内します」
本部じゃなくて、アジトなのか。非合法の香りが、プーンとしてきました。怖いんですけど。
僕達一行は、店の裏手にあるギシギシ鳴る階段を昇って、三階に向かった。
船長は、素知らぬ顔で一階の店に入ろうとしたが、〈リク〉に襟首を掴まれて強制連行されている。
自分だけ、おっぱいを触ろうなんて、許されるはずがない。
てめえは、ギョロ目の〈アン〉兄ちゃんの、禿げ頭でも触ってろ。
《アン》兄ちゃんを怒らせて、同じように禿げ頭にされたら、思い切り笑ってやるぜ。
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