第390話 網タイツ

 授業が終わった後、皆は、「勝った」「二十勝十九敗」だとか、口々に言っていたので、普通に授業をするより良かったのだろう。

 先生も、明らかにホッとした顔をしていた。先生も大変なんだな。




 〈ヨヨ〉先生の今日の装いは、真っ赤なブラウスに、黒一色の上下のスーツスタイルだ。

 短めの上着に、短めのスカートを着用されている。もちろん、上着の前はフルオープンだ。

 赤く盛り上がった胸部を、これでもかと見せつけおられる。

 出し惜しみは、先生の辞書にはないのだろう。サービス精神の柔らかな塊だ。


 ただ、特筆すべき点はまだある。


 ハイヒールを履かれた、おみ足は、何と蜘蛛の巣で覆われているんだ。

 むろん、本物ではない。都会派の先生が、藪こぎなんてされるわけがない。

 細い足首から、もっちりとした太ももの際まで、網タイツで覆われているってことだ。


 菱形にはみ出している、先生の太もものお肉が、ねっとりしてエロ過ぎるぞ。

 このまま焼いたら、網目のついた美味しいお肉になると思う。

 白い脂肪が、すごく甘いはずだ。


 生徒達は、〈ヨヨ〉先生の胸を見るか、太ももを見るかで、錯乱状態になっている。

 首を上下に休みなく振るさまは、下等な生き物のようだ。

 動作が機械的過ぎて、哺乳類というより、昆虫の動きに見える。

 今日の「楽奏科」の授業は、〈ヨヨ〉先生に吸い寄せられた、虫達の音楽会なんだろう。


 「先生は、打ち震えております。蜘蛛の大っきな魔物に、先生も襲われました。皆さんとご一緒ですね。でも、先生は夢の中です。大っきな魔物は、先生に信じられないことをしました。危険なことなの。でも、先生はそれを跳ね除けたのです。それも、皆さんとご一緒ですね。皆さんは、素晴らしいとしか、言いようがありません。わたくし、もろに感動の涙です。それを記念して、本日このような靴下を履いておりますの。おほほほ」


 〈ヨヨ〉先生は、夢の中で魔物に、どんな信じられないことをされたんだろう。

 それを聞きたいよ。たぶん、エロいことなんだと思う。

 蜘蛛の魔獣と先生の絡みか。興味深い取り合わせだ。

 網タイツをビリビリに破かれた以外は、全く、展開が読めないな。


 「〈ヨヨ〉先生は、僕達のために、泣かれたのですか」


 おー、この質問は微妙に違う気がする。

 先生は僕達が、危機を克服したことに対して、涙したんじゃないのかな。


 「あはぁー、そうですね。先生は泣きましたよ。皆さんに、問答無用で泣かされたのです。それは暴力的な感動ですわ。抗うことなど出来ませんでしたの。先生は、皆さんには弱いのですよ。もう、先生を泣かさないでくださいね」


 先生の答えは、少し変な感じもするけど、僕達を愛してくれているんだと思う。

 露出サービスも、コスプレも、僕達のためにしてくれているのかも知れないな。

 決して、先生の趣味だけではないんだろう。


 「〈ヨヨ〉先生を泣かすようなことは、僕はもうしません」


 一人の生徒が、先生を見詰めながら、決意表明をしている。顔は真っ赤だ。


 でも待てよ。おかしい気がする。

 今回は、単に巻き込まれただけだろう。自分の意思は、どこにも介在してなかったのでは。

 自分では、どうすることも出来なかったんじゃないか。

 コイツは、何でも良いから、カッコつけたかったんだろう。


 ただ、他の生徒は「ちっ」って舌打ちをして、苦い顔になっているぞ。

 発言を気を付けないと、孤立の一歩手前だ。


 〈ヨヨ〉先生の魔性に、絡み取られつつあるんだろう。怖いな。

 その魔性は、生徒全員に言ったのに、自分一人に言われたと、勘違いさせるところだと思う。

 その原因は、一見どこを見てるか分からないが、こっちを見てると思わせる、先生の切れ長の目にある。

 特殊技能なのか、特別なスキルなのか、謎多き女性だ。もちろん、エロ多き女性でもある。


 「はい。ありがとうございます。皆さん、頼みましたよ。ここからは、授業に集中しましょう。今日は、しつこいくらいに同じ所を演奏します。丁寧に繰り返してみましょう」


 〈ヨヨ〉先生は、生徒の間を歩きながら、「もっと丁寧にして」「そこは何度も」と掠(かす)れたような声をかけている。

 どうして掠れているのかは、誰も質問しなかった。原因を聞くのが、怖かったんだろう。


 いよいよ僕の横を通るぞ。僕にも声をかけて貰えるのかな。


 「ぅふん、また英雄になったのですね。〈タロ〉君は、先生の夢の中にも登場しました。夢の中の〈タロ〉君は、とても勇敢で熱かったのですよ。俺様なところにも、キュンとしましたわ。先生は泣きましたの。ワンワンとです。〈タロ〉君は、そこんところを、分かってくれているのかな」


 何と答えれば良いのだろう。先生の夢の中での行動に、僕は関与してはいない。

 それは先生の問題じゃないのか、先生は何を言いたいのだろう。

 僕にどんな答えを、期待しているのだろう。


 僕のか細い経験では、とてもじゃないが、先生のご期待には沿えないだろう。

 せめて、先生のフニャフニャのおっぱいと、もっちりな太ももを経験させてから、聞いて欲しい。

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