第377話 顔が近い
「きゃ、〈タロ〉様。こんなの恥ずかしいよ」
「でも、〈サトミ〉。ここに座る方が安定するし、疲れないと思うよ」
「んん、でもね。〈タロ〉様のお顔が近いんだ。それに、〈サトミ〉の胸と足を触っているよね」
「でもな。顔が近いと、キスが何時でも出来るんだよ」
僕は〈サトミ〉に、「チュッ」とキスをした。
「んんんん、そんなこと言われても。〈サトミ〉はね。ドキドキが止まらないんだ。顔も熱いから、そんなに見詰めないでよ」
〈サトミ〉の顔は、確かに真っ赤になっている。
それを見せたくないのか、僕の胸に顔を隠すように押し付けている。
〈サトミ〉は、なんて可愛いんだろう。
「〈サトミ〉、学舎にはもう慣れたかい」
「うん。えっとね。少し慣れたかな。新入生は、色んなところを見学しているとこなんだ。同じ新入生で、良く話す子が、もういるんだよ。〈ココ〉ちゃんと〈ナホ〉ちゃん、っていうんだ」
「そうか。それは素晴らしいことだな。安心したよ。それと学舎の制服はどうしてるの」
「制服は支給されたよ。つなぎの作業服なんだ。一杯ポケットが、ついていて、動きやすいんだよ」
「そうなんだ。制服は支給か。それじゃ、鞄を買ってあげようか」
「鞄も支給されたんだ。丈夫な生地で背負える、優(すぐ)れものなんだ。両手が自由に動かせて、作業がしやすいんだよ」
制服も、鞄も支給されるのか。実習が中心なので、それ用の機能が必要なんだな。
ひょっとすると、これが不人気の原因の一つかも知れないな。
「そうなんだ。何か買って欲しいものはないのか」
「〈タロ〉様、ありがとう。うーん、でもね。今は思いつかないな。また考えとくね」
〈サトミ〉は、物を欲しがらないな。慎ましいところも、甘やかせあげたくなる要因だ。
こうして夜に逢えると、休養日は〈アコ〉と〈クルス〉を優先させたけど、少し変える必要がある。
どこかで、〈サトミ〉に一杯物を買ってあげたいな。
「そうか。分かったよ。考えておいてくれよ」
「はい。分かりました」
「それと、僕のことなんだけど、魔獣の討伐で遠くへ行くんだ。だから、〈サトミ〉とも、しばらく逢えないんだ。帰ってきたら買い物いこう」
「えー、魔獣なの。危ないから、〈タロ〉様、行っちゃダメだよ」
「ははっ、《大泥ウサギ》って言う危なくないヤツなんだ。だから心配はいらないよ」
「ほへっ、魔獣なのに、ウサギなの」
「そうらしい。ウサギだから、安全らしいんだ」
「そうなんだ。でも、ちょっと心配だよ。そうだ、〈タロ〉様、〈サトミ〉のお守りはまだ持っているの」
「もちろん、持っているさ。この引き出しに、入れているんだよ」
僕は引き出しから、〈サトミ〉のお守りを取り出して、〈サトミ〉に渡した。
「あはぁ、〈サトミ〉のお守りだ。ちゃんと持っててくれたんだ」
「大事なものだからな」
「へへっ、そうなんだ。嬉しいな。そうだ。このお守りを、ちょっと〈サトミ〉に貸しておいてね。〈サトミ〉の念を強化したいの」
念が込められているのか。ちょっと怖い気もするな。
「ほぉ、強化するのか。どうやってするんだい」
「うーん、それは秘密なの。言えないよ」
〈サトミ〉も秘密なのか。大したことじゃないと思うけど、言えないと言われると気になるな。
「ずっと言えないの」
「その話は、もう終わりだよ。それより、〈タロ〉様と逢えないんだね。淋しいな」
「そう言うなよ。元気で帰って来るって約束するよ」
「うん。絶対だよ。元気で帰って来ないと、〈サトミ〉は許さないよ。カンカンに怒るからね」
「ははっ、それは怖いね」
「むっ、〈タロ〉様。笑い事じゃない。〈サトミ〉は真剣なんだよ」
「ごめん」
「ううん。〈タロ〉様は、謝らなくて良いんだよ。〈サトミ〉のところへ、帰ってきてくれたら、何にもいらない」
〈サトミ〉が、僕を上目遣いで見てくる。
普通の娘なら、あざといと思うけど、〈サトミ〉は違う。
〈サトミ〉は純粋で、そんな駆け引きが出来る娘じゃない。
僕のことを、ただ心配してくれているんだと思う。
僕は、〈サトミ〉の唇に優しくキスをした。今は優しいキスが、合っているはずだ。
〈サトミ〉は、僕の首に手を回して、唇を自分から押し付けてくる。
そして、僕と〈サトミ〉は、互いの唇を味わうようなキスをした。
〈サトミ〉の唇は、乳牛と触れ合ったのだろう、少しミルクの香りがしたと思う。
僕の唇は、どうなんだろう。無味乾燥じゃなければ、良いけど。
結構カサカサしていると思う。
「〈タロ〉様、〈サトミ〉を放してください。もう、お休みしましょう。胸とお尻は、もう揉まないでよ。帰ってからなら、少しは良いけど」
あっ、良い雰囲気なのに、おっぱいとお尻を無自覚に揉んでいたのか。
自然過ぎて、殆ど意識してなかった。こんなことを、サラッと出来る自分を褒めてあげたい。
スケベな能力が、また一段とあがったのかも知れない。僕もようやく段持ちか。
いやいや、段持ちなら〈サトミ〉は、「揉まないで」とは言わないだろう。
トロンとした顔で、「もっと」と言うはずだ。せいぜい、「ありがとう」で三級だろう。
はぁー、自分で自分をぶってやりたい。
「んんう、〈タロ〉様、止めてって言ったのに、困るよ。〈サトミ〉は明日も学舎があるから、もう寝たいんだ。〈タロ〉様も同じでしょう」
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