第365話 内助の功

 それから、何時間も経って、真夜中近くに〈サトミ〉がやってきた。


 「〈タロ〉様、寝てますか」


 「ううん。〈サトミ〉、入っておいでよ」


 「お邪魔しますね」


 「どうだい、〈サトミ〉。考えは纏(まと)まったの」


 「うーん、〈サトミ〉は迷っているの。〈アコ〉ちゃんと〈クルス〉ちゃんが、《若草立女館》に受かるよう頑張ってくれたのに。今変えたら、裏切るような気がするの」


 「それは違うよ。〈アコ〉と〈クルス〉は、〈サトミ〉が学舎に入れるように頑張ったんだ。それが、《王国緑農学苑》に変っても怒ったりはしないよ。むしろ喜ぶんじゃないかな」


 「どうして喜ぶの」


 「《若草立女館》は前に僕が勧めて、今は《王国緑農学苑》を勧めている。〈サトミ〉は、僕の勧めた学舎から、どちらか片方を選ぶことになるんだ。二つだけだが、自分で選んだ方が、納得出来るんじゃないかな。〈アコ〉と〈クルス〉は、〈サトミ〉が自分で、選択したことを良かったと思うはずだ」


 ふと考えると、僕は〈サトミ〉を、いつも振り回している気がする。

 〈サトミ〉は、僕のすることに素直に従って、いつも大変な目にあっているようにも見える。

 ふっ、気がするだけで、そんなことはないよな。


 「〈タロ〉様は、どっちが良いの」


 「それは、〈サトミ〉が決めなくっちゃ。後で後悔すると思うぞ」


 「うぅ、〈タロ〉様に決めて欲しいな」


 「ダメだよ。でも、話は聴くよ。誰かに話せば、考えが整理出来ると思う」


 「整理なの」


 「そうさ。〈サトミ〉は、王都の中の学舎と、壁の外にある学舎のどちらに行きたい」


 「うーん、〈サトミ〉は良く分かんないよ。どっちでも良いよ」


 「次は。そうだ。椅子に座ってする勉強と、身体を動かしてする勉強のどっちが好きなんだ」


 「それは、身体を動かす方が良いな。じっとしていると眠くなるの」


 「それじゃ、〈サトミ〉は、就職がしやすい学舎と、難しい学舎のどちらに行きたい」


 「むっ、〈タロ〉様。〈サトミ〉は怒るよ。どうして、〈サトミ〉に就職しろって言うの。〈サトミ〉を、お嫁さんにしてくれないの」


 「わぁ、違うって。〈サトミ〉、ごめん。そんなつもりじゃないんだ。〈サトミ〉は卒舎したら、僕のお嫁さんだよ。就職は関係ないよ」


 僕はどうして、こんなバカなことを聞いてしまったんだろう。迂闊(うかつ)だった。

 何とか誤魔化すために、〈サトミ〉を抱きしめておこう。


 「うー、〈タロ〉様、〈サトミ〉を抱きしめても、誤魔化せませんよ」


 「うーん、そう言うなよ。あれ、あれだよ。そうだ。〈サトミ〉が僕の妻になったら、どんな内助の功をしてくれるのかということだよ」


 「〈タロ〉様、最後の方の言葉が、分かりにくくて怪しい感じです。それに、就職と内助の功は、違うと思うな」


 「いや。似てるんじゃないのか。僕はそう思ったんだよ」


 「似てないと思うな。でも、内助の功は〈サトミ〉も考えているんだ。今までどおり、〈青雲〉と〈ベンバ〉のお世話は〈サトミ〉がするし、騎兵隊を作ったらその馬達も、ドンと〈サトミ〉に任せてよ」


 「そうか。ありがとう。〈サトミ〉に任せれば百人力だな」


 「へっ、〈サトミ〉は、そんなに力持ちじゃないよ」


 「いや。〈サトミ〉には、百人以上の価値があるってことだよ」


 「百人以上の価値って、どういうこと」


 「うーん、〈サトミ〉は百人の美女を合わせたより、美人ってことだよ」


 「あはっ、〈タロ〉様。変なの。そんな褒め方があるの」


 「うーん、これは〈サトミ〉だけへの褒め言葉なんだ。驚いたか」


 「あははっ、驚き過ぎて笑っちゃった。ふふっ、それじゃ〈タロ〉様、百人分くださいな」


 〈サトミ〉は、目を閉じて僕を待っている。百人分って、百回だよな。

 〈サトミ〉の顔が、僕の唾液でベトベトになっちゃうよ。良いのだろうか。

 仕方がない。工夫して、唾液がつかないように、キスの雨を降らそう。


 「んん、〈タロ〉様、止めてよ。くすぐったいよ」


 「〈サトミ〉、我慢しろよ。まだ、三十回もいってないよ」


 「きゃっ、〈タロ〉様、エッチだよ。〈サトミ〉のスカートの中に、手を入れないでよ」


 「たぶん、わざとじゃないんだ。まだ、五十五回ぐらいなんだ」


 「んんう、〈タロ〉様、〈サトミ〉のお尻を、ムニュムニュしないでよ。ずっとしてるよ」


 「ちょっと待って、〈サトミ〉。お尻を掴んでないと態勢が悪くなるんだよ。後、二十七回あるんだ」


 「ひゃー、〈サトミ〉のお尻が、グニュグニュになっちゃうよ。〈タロ〉様、もう終わってよ。お願い」


 「ふぅー、〈サトミ〉。百回出来たよ。ちょっと疲れたな」


 「もう、もう、〈タロ〉様のバカ。〈サトミ〉の顔がベチョベチョだよ。お尻も揉まれ過ぎて、変になっちゃったよ。どうすんの」


 「そう言うなよ。終わったから、学舎の話を再開しようか」


 「はぁ、〈タロ〉様。もうその話は良いよ」


 「どうして」


 「〈サトミ〉は、《王国緑農学苑》に決めたんだ」


 「ほぅ、理由は何なの」


 「〈サトミ〉は、自分の出来ることをするんだ」


 「そうなの。どっちでも出来ると思うけどな」


 「もう決めたから良いの。〈タロ〉様、お休みなさい」


 〈サトミ〉は、部屋に入って来た時と違って、明るい顔で出ていった。

 百回のキスが、効果を発揮したのだろう。

 これは、〈サトミ〉の機嫌が悪い時の必殺技になるな。 

 「顔面百連発口吸」と名付けよう。

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