第364話 覚悟

  「〈サトミ〉ちゃん、急な話だから、今ここで答えを出さなくても良いのよ。大事なことだから、ゆっくり考えようね」


今日の勉強は中止になって、〈サトミ〉は夕食後、部屋に籠って考えている。


 「〈タロ〉様、〈サトミ〉ちゃんのことだけど。正直に言いますと《王国緑農学苑》は、良い選択だと思います。〈タロ〉様は、〈サトミ〉ちゃんのことを、しっかりと考えられていたのですね」


 「うーん、しっかりと、と言われるとくすぐったいな。たまたま、牧場へ行っただけだからな」


 「でも、〈サトミ〉ちゃんのことを、いつも考えていたから、思いついたのですよ」


 「そうかな」


 「そうですよ。ただ、〈サトミ〉ちゃんを、襲うと言ったらしいですね」


 「えっ、そんなことを言ったから」


 「はぁ、〈タロ〉様。〈サトミ〉ちゃんは、年下ですし、今は試験前です。そんなことをして、どうするのですか」


 「うっ、しないよ。〈テラーア〉に、襲わない理由で言っただけだよ」


 「そうだとしても、何もないところから、そのような考えは出て来ないはずです」


 「ま、まあ、何も考えてないとは言えない。でも、考えるのと、するのは全然違うよ」


 「もちろん、それはそうです。ただ、〈タロ〉様が我慢出来ないのなら、〈サトミ〉ちゃんではなく、先に私へぶつけてください」


 「えぇ」


 「卒舎するまで、赤ちゃんが出来る行為は、我慢して欲しいのですが。それ以外の行為は、もう覚悟しています」


 えぇー、〈クルス〉が、意外な告白をしてきたぞ。

 ただ、エッチな内容なのに、僕を真直ぐに見据(みす)えている。

 目が真剣で、甘い感じは皆無だ。


 自分が決断した覚悟を、僕に宣言したのだろう。

 ただ、言われた僕は、どう答えれば良いのだろう。

 〈クルス〉は、自分の感情を押し殺して覚悟をしているのに、僕はそれに付け込んで、エッチなことをするのか。


 それはちょっと情けないんじゃないのか。ちょっとじゃないな。とんでもなく、情けない。

 〈クルス〉が、僕とエッチなことをしたいと、思わせるのが本当だと思う。

 そういうムードを作り出すのが、モテるっていうことなんだろう。

 それが事実なら、僕は一生モテないな。


 ただ、〈クルス〉は、エッチなことまで生真面目なんだな。何だか溜息が出るよ。疲れてしまう。

 これじゃ、イチャイチャの要素が全くない。事務的過ぎるよ。

 濡れてなくて、乾燥している感じだ。パサパサだよ。


 「うーん、確かに僕は、〈クルス〉を触りたいよ。でも、なんて言うのかな。変な言い方だけど、〈クルス〉に過度の負担を求めたくはないんだ」


 「〈タロ〉様は、私に負担させることを、しておられるのですか」


 「うーん、負担って言うか。僕も分かってないけど、〈クルス〉が恥ずかしくて、あまりして欲しくないことなんだと思う」


 「〈タロ〉様は、私が恥ずかしがっているのを、喜んでいるのですか」


 「そうでもないんだ。〈クルス〉の身体を見たいし、触りたいんだ。この衝動は抑えられないんだよ」


 僕にも、良く分からないけど。男女の身体の違いに対する純粋な好奇心。

 自分のものにしたい独占欲。そして、一番は子孫を残そうとする本能的なものだと思う。

 行為で得られる快感は、本能に組み込まれたものだと考えられるが、大変大きな要素には違いない。

 僕は知らないけど。


 〈クルス〉を愛しいと思う気持ちは、これらの底の部分に存在するのか。

 それとも、これらの上澄みの部分なのか。僕には良く分からない。

 ほんとのところは、誰にも分からないのだろう。


 「ふぅ、今のは、〈タロ〉様の正直な気持ちだと思います。それが聞けて私は嬉しいですよ。〈タロ〉様、私が言った覚悟は、誤解を与えたと思います。覚悟と言うより、後悔しない、悩んだりしないと言うことです」


 ますます分からないな。悩まないのか。どういうことだろう。


 「そうのか。でも、僕は〈クルス〉が欲しいんだ。それも強くなんだ」


 「あぁ、〈タロ〉様。私はそう言われて、嬉しい気持ちになるのです。色々矛盾していると自分でも思いますが、私が乱れるのは〈タロ〉様のせいのですよ」


 「〈クルス〉が乱れるの。僕のせいなの」


 「そうです。〈タロ〉様は、私の心をいつもかき乱します。辛い時もあるのですよ」


 「僕が辛くしているの」


 「いいえ。少しの辛さの代わりに、〈タロ〉様は、私に大きな幸せを与えてくれています」


 〈クルス〉が、僕をずっと見てくるので、〈クルス〉を抱きしめてキスをした。

 当たり前だけど、おっぱいも触った。ゆっくりと呼吸に合わせて、揉み続ける。

 こういう時は、こうするもんだと思った。男女の仲は、理屈じゃないと思う。


 お互いの温もりの交換が、大切なんだと思う。その後は、お互いに快感を交換することだ。

 それが親密さを増して行くんだと思う。ようは慣れだ。


 〈クルス〉のおっぱいをいつも揉んでいたら、そのうち慣れるだろう。

 もう結構慣れている気もするな。今は、あんまり嫌がっていないもん。

 次はもっと先に進んでみよう。


 「んんう、〈タロ〉様。そのぐらいで。〈サトミ〉ちゃんが、話に来ると思いますよ」


 そうだ。〈クルス〉の言うとおりだ。

 真剣に悩んでいる〈サトミ〉に、この光景を見せるわけにはいかない。見せるのは、酷過ぎる。

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