第363話 二年間なの

 「〈タロ〉様、〈サトミ〉のことを襲うってなんですか」


 〈サトミ〉は、呆れた顔で僕を睨んでいる。

 何でも言うことを聞いてくれる〈サトミ〉でも、さすがに襲われてはくれないらしい。

 そりゃそうだ。


 「ごめんなさい」


 「〈タロ〉様は、〈テラーア〉さんにしたことも含めて、猛反省してください」


 「全面的に僕が悪いです。どうもすみませんでした。超反省しています」


 そこに、タイミング良いのか。悪いのか〈クルス〉が帰ってきた。

 たぶん、悪いんだろうな。


 一連の話を聞いた〈クルス〉は、キッと僕を睨みつけた。


 「〈タロ〉様、呆れました。暴走したのですね」


 「申し訳ありません」


 「ふぅ、〈テラーア〉さんに、聞きたかったことは何なのですか。一緒に聞いてあげます。〈テラーア〉さんは、〈タロ〉様と二人切では、いたくないでしょう」


 「よろしく、お願いします」


 僕は〈テラーア〉に、《緑農学苑》のことを尋たずねた。

 〈テラーア〉は、〈クルス〉の方を向いて質問に答えている。

 僕が質問しているのに、どういうわけなんだろう。不思議だな。

 何とも言えない空気が漂っているぞ。少し息が苦しい気がする。空気清浄機が欲しいな。


 「ほぅ、〈タロ〉様。〈サトミ〉ちゃんには、《緑農学苑》が合っていると思ったのですね」


 「そうだよ。あそこは馬がいるんだ」


 「はぁー、良いと思った理由は、馬だけですか」


 「ご領主様。ただあの学校は、貴族の方がいく学舎じゃないですよ。少し裕福な農民の子供が行くところです。貴族に近い人もいますが、騎士爵か男爵の側室の子供が殆ほとんどです」


 「そうか。〈サトミ〉も、側室だから良いじゃないかな」


 「うーん、側室になられる方は、いないと思います」


 そりゃそうか。側室が農業をするわけないよな。


 「〈テラーア〉さん、入舎試験はどうなのですか」


 「そうですね。難しくはありません。王都の外にありますし、農業はあまり人気がないんです。ハッキリ言うと、定員が埋まってないようです」


 「そうか、人気がないのか。人間は食べなくては飢えてしまう。農業は、大事なことなんだけどな」


 「ご領主様、私もそう思います。ただ、学舎で勉強しなくても、実践で覚えれば良いと言う考えが根強いのです」


 「そうなんだ。分からなくはないな」


 「はぁ、ご領主様。そんなことを言わないでくださいよ」


 わぁ、余計なことを言ってしまった。何でも同調していれば、良いってことじゃないんだな。


 「ごめん」


 僕は謝ってばかりだな。伯爵で領主の威厳が、遥か彼方に飛んでいってるよ。


 「はっ、ご領主様を謝らせてしまって、大変すみません。卒舎したのに、農業関係の就職が叶わなかったので、つい言葉が過ぎました」


 「就職は厳しいの」


 「はい。女性は厳しいのですよ。腕力と体力が、ないと言われるのです」


 「そうか。悔しかっただろう」


 「はい。前はそうでしたが、今は違います。このお店に雇って頂いて、習った知識が生かせています。私の二年間は、無駄にはならなかったのです」


 「えっ、二年間なの」


 「そうです。《緑農学苑》は、農業単科なので二年で卒舎になります」


 おぉ、二年間か。これは良いんじゃないか。望外の展開じゃないか。


 「〈タロ〉様、話を聞いたところ、《緑農学苑》でも良いと私も思います。後は、〈サトミ〉ちゃんの意思ですね」


 「〈テラーア〉、ありがとう。参考になったよ」


 「いえいえ。大したことではありません。もし、《緑農学苑》を受験されるのであれば、最近の入舎試験問題を後輩に聞いてきますよ」


 「おぉ、それは良いな。そんなことが出来るんだ。日当を払うからよろしく頼むよ」


 「任せてください」


 震えていた〈テラーア〉は、最後は笑顔で部屋を出ていった。

 日当が効いたのだろう。




 僕と〈クルス〉と〈サトミ〉で三者面談を行った。

〈サトミ〉は居心地が悪いのか、落ち着かない様子だ。

 三者面談は、自分の評価を知らされるから嫌なものだ。〈サトミ〉の気持ちは良く分かる。


 「〈サトミ〉、率直に聞くよ。〈ドリー〉の母校と、この前いった牧場のある学舎のどっちへ行きたい」


 「へっ、〈タロ〉様。何のこと」


 「はぁ、今の言い方では分からないよね。〈サトミ〉ちゃん、良く聞いて。〈タロ〉様は、《若草立女館》と《王国緑農学苑》のどちらに入舎したいのか、聞いているの」


 「はぁ、《王国緑農学苑》って、初めて聞くよ」


 「《王国緑農学苑》は、農業の学校で二年制です。王都の外に大きな牧場や農場を持っています。〈サトミ〉ちゃんが、〈タロ〉様と行ったあの牧場よ」


 「うーん、〈タロ〉様。〈サトミ〉は、《若草立女館》を受けるつもりでいたのに、どうして今、《王国緑農学苑》なんですか」


 「それはだな。〈サトミ〉が、馬に触れた顔を見たからさ。生き生きとしてたよ。それに《若草立女館》では、〈サトミ〉があまり興味のないことを、三年間も勉強するんだと思ったんだ」


 「〈サトミ〉の興味のないこと」


 「そうさ。〈サトミ〉は、馬とか動物が好きで、本は好きじゃないだろう」


 「…… 」

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