第361話 再発見

 「〈タロ〉様、馬はニ頭じゃないんですね」


 「王都の中は、人混みが凄いから、安全を優先させたんだよ」


 決して、〈サトミ〉のプルッとした身体に、密着したいだけじゃないんだ。

 意外に、ちゃんと筋が通った理由もあるんだよ。


 〈サトミ〉は、小っちゃいから、〈アコ〉ようには当たらない。

 ただ、少しはお尻も当たるし、良い匂いも嗅げる。僕の精神も、リフレッシュだ。


 遠出する場所は、《緑農学苑》の野外公園しか思いつかない。

 王都のことを、まだまだ良く分かってないんだな。


 でも、緑も多いし、景色もまあまあだから、〈サトミ〉も気にいるだろう。

 もちろん、ベンチで休憩もする。たぶん、〈サトミ〉も喜んでくれるだろう。


 《緑農学苑》の外周を回ると、この前の小径に通ることになる。

 「あっ、あーん、あっふん」と言う艶めかしい声が、聞こえないか耳を凝らしてしまう。

 でも、何も聞こえない。聞こえるのは、澄んだ小鳥の声だけだ。

 木の影のベンチには、落ち葉が降り積もっているのが見える。

 良く考えなくても、今は冬だから、外でしてるはずないじゃん。馬鹿野郎が。


 「〈サトミ〉、疲れてない。休憩する」


 「ううん。〈サトミ〉は、このぐらいで疲れたりしないよ」


 そうか。〈サトミ〉は、この距離の十倍ぐらいを平気で駆けるんだよな。

 疲かれる、わけないじゃん。間抜けめ。


 「〈タロ〉様、ここから王都が良く見えるよ。壁が高いね。《ラング》の倍はあるよ。すごいな」


 「そうだな。すごいな。王都だけのことはあるだろう」


 「うん。皆が一生懸命、力を合わせて造ったんだと思う。そう思うと尊いし、とっても綺麗に見えてくるね」


 〈サトミ〉の感性は、本当に素直で優しいな。

 〈サトミ〉の考えに触れると、僕も優しい気持ちになれる気がする。


 「でもな。〈サトミ〉の方がもっと綺麗だよ」


 「ひゃぁ、〈タロ〉様。急にそんなこと言わないでよ」


 「そう言うなよ。今、〈サトミ〉を近くで見たら、そう思ったんだ」


 「あはぁ、〈タロ〉様、大好き」


 〈サトミ〉は、振り返って僕を見詰めてきた。僕も〈サトミ〉を見詰めた。

 〈サトミ〉は、少しはにかんだまま、目を静かに閉じた。


 僕は、優しくその目にキスをして、優しくおっぱいを触り始める。

 たぶん〈サトミ〉は、キスだけで、おっぱいは考えていないと思う。

 でも、おっぱいは尊いんだ。揉まずにはいられない。


 僕は、おっぱいを揉みながら、目からずらして〈サトミ〉の唇にキスをする。

 〈サトミ〉の小さな唇を、食べる様に吸い付いた。小振りで食べやすくて、美味しいぞ。


 「んんう、〈タロ〉様。もうダメだよ。ここじゃイヤなの」


 〈サトミ〉は、真っ赤になって僕の手を握ってきた。おっぱいから、手を剥がそうとしている。

 いけない。今日は、〈サトミ〉のリフレッシュが目的だ。

 残念だけど、学舎の試験が控えているので、この位で止めよう。

 〈サトミ〉の心を過度に乱すのは、避けねばならない。常識だよ。


 「分かった、〈サトミ〉。もうしないよ」


 「良かった」


 「次は、付属農場の売店に行ってみようか」


 「うん。分かった」


 僕達は、馬を走らせて、付属農場の売店へ行った。


 「ごめん、〈サトミ〉。冬だから、閉まっているみたいだ」


 何と言うことだ。僕のデートプランは、ダメな子の立てたヤツだ。ダメダメだ。

 〈サトミ〉に、搾りたての牛乳を飲ませるつもりが、脆(もろ)くも崩(くず)れ去っている。

 〈サトミ〉は、僕のことを「あーぁ」って、思っているんだろうな。


 「ううん。〈タロ〉様、気にしないで。それより、あっちに牧場があるよ。行っても良い」


 「うん。良いよ」

 

 売店が締まっていたのに、僕が何かを言えるはずがない。


 付属農場の牧場には、馬が数頭飼われているようだ。

 牛や豚もいるのだろが、ここからは見えない。


 〈サトミ〉は、牧場の柵に寄りかかり、馬をニコニコと見ている。

 その顔は、楽しいと言うより、伸び伸びとしている風に見えた。


 「おーい」


 〈サトミ〉が呼びかけると、馬が三頭、こちらにトコトコと走ってくる。

 へー、呼んだらくるんだ。


 〈サトミ〉は、「良い子だね」と言いながら、馬の首を撫ぜて笑った。

 馬を撫ぜる〈サトミ〉は、いつもより大人びていると思う。

 顔つきが、慈愛に満ちている気がする。


 助けられている少女じゃない。世話をする側の女性の顔だ。

 知っているようで、知らなかった〈サトミ〉の一面を、再発見した気がする。


 僕といる時の〈サトミ〉は、どっちなんだろう。

 おっぱいとお尻を揉むのに必死で、良く見てないや。


 付属農場の厩舎から、お年寄りが出てきた。《緑農学苑》の職員さんだろう。


 「ほっほっ、お嬢ちゃんは、馬が好きなんじゃな」


 「許可も取らずに申し訳ありません」


 「勝手に、ごめんなさい」


 「ほっほっ、良いんじゃよ。馬も喜んでおるしのう。柵の中はダメじゃが、外からなら、少しは構わんぞ」


 「ありがとうございます」


 「おじいちゃん、ありがとう。〈サトミ〉は馬のお世話を、ずっとしてたんだよ」


 「そうじゃろう。そうじゃろう。馬もそう言っておるようじゃな」

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