第357話 超越者

 「はぁー、そう言うけど、グルグルは、ここにずっといるつもりなのか」


 「そうではない。おまえの非礼を、指摘してやったまでだ。朕も、ここを出ていこうと思っておるわ」


 「そうか。それなら良い」


 「うっほん、おまえは不作法な下郎だが、一寸世話になったな。そのことは礼を言っておこう。未通の乙女には、盛大に謝意を伝えておけ」


 コイツ、どこまでも偉そうに言うな。根性も角と一緒で、グルグルにねじ曲がっているんだろう。


 「〈サトミ〉には、礼を言ってたと伝えてやるよ」


 「頼むぞ。あの未通の乙女は、清らかなで真直ぐな目をしておる。付き纏(まと)っておる雄は粗悪なれど、幸多かれと願わらずえない」


 きぃー、粗悪の雄って僕のことか。何を言ってやがる、自分のことだろう。


 「ふん、グルグルこそ。あの彼女を何とかしたらどうだ。逃げてばかりじゃ、情けないだろう」


 「うぅ、下郎に何が分かる。あやつは、朕を愚弄(ぐろう)しよる」


 「まあ、そうだとは思う。でも、どんな関係かは知らないけど。肛門まで舐めるのは、愛情が深い可能性もあるんじゃないか。普通じゃないぞ」


 普通じゃないのは確かだ。そういう性癖なんだろう。きっと変態同士なんだろう。

 違うか。変態と早漏だから、上手くいかないんだろう。これも違うか。

 早漏は正常とも上手くいかないか。僕は大丈夫だよな。心配になるな。


 「あやつの愛情が深いとは、とても思えんな」


 「早漏を直す方法はないのか」


 「はっ、急に何を言い出す。そんな便利なものはない。それは個性だ」


 もしもの時に聞いたけど、全く役に立たないな。不安がさらに、増してしまったぞ。

 それに個性か。自分のことを、良いように表現しているだけの感じだ。

 他に打開策はないのか。不安でしょうがないぞ。


 「回復力で勝負出来ないのか」


 僕は回復力が、少しあると思っている。自家発電でのパフォーマンスからの自信だ。


 「ふむ、回復力とはどういう意味だ」


 「抜かずの〇発と言うヤツだよ」


 船長が、俺は「抜かずの三発」をやれると自慢していたが、絶対嘘だ。

 目が水蛇のように、ニョロニョロと彷徨(さまよ)っていたからな。案外小心者だよ。


 「ふー、それは無理だ。そんな超越者なようなことは不可能だ」


 超越者って。大げさ過ぎるんじゃないか。

 若いうちは、「抜かずの二発」は出来るって、我が領の兵士達も豪語していたぞ。

 グルグルは、本当にダメなヤツなんだな。


 「だが、世間では出来る人がいるっていう話だ。それが出来れば、早漏の問題が、解決する気もするんだがな」


 グルグルに聞いても、まるで意味がなかった。コイツが出来るなら、もうやっているわな。

 出し惜しみするような、もんではないからな。まあ、出し惜しみが出来たら、早漏じゃないか。


 「むむむっ、そうなのか。世間ではそうなのか」


 「僕も良く分からないけど、そうらしいよ」


 その後、グルグルは黙り込んでしまった。じっと何かを考えているようだ。

 何を考えているのか分からないが、ろくなことじゃないだろう。


 グルグルを構っててもしょうがない。王都へ帰る荷物でもまとめよう。




 「深遠の面影号」の甲板で、〈サトミ〉が見送りの人に手を振っている。

 その顔はとても嬉しそうで、両手を目一杯振り回していた。見えなくなってもだ。

 よほど王都へ行けるのが嬉しいんだろう。

 よし、甘いお菓子も、可愛い服も、一杯買って甘やかしてあげよう。


 〈アコ〉と〈クルス〉も、今回は笑っている。

 いつもは泣いているけど、〈サトミ〉はここにいるから、悲しくないんだろう。

 良い友達だな。羨ましいな。


 「〈タロ〉様、見送りの人が、見えなくなっちゃったね。少し淋しいな」


 「そうだな。船の旅立ちは、不思議と寂しくなるな」


 「〈タロ〉様も淋しいの」


 「うん。でも、今回は〈サトミ〉が一緒だから、それほどじゃないよ」


 「そうなの。〈サトミ〉と一緒なら、淋しくないの」


 「そうだよ。〈サトミ〉はどうなの」


 「うん。〈サトミ〉も一緒だよ。〈タロ〉様といれば全然淋しくないよ」


 良い雰囲気になったので、〈サトミ〉にキスをしようと思った。

 けれど、直ぐ横に〈アコ〉と〈クルス〉もいる。するなら、三人ともだが。

 これは、ハードルが高いな。段取りが必要だと思う。

 いきなりは出来ないから、少しは〈アコ〉と〈クルス〉とも会話が必要だ。


 「〈アコ〉、〈クルス〉、ちょっと良いかい」


 「〈サトミ〉ちゃん、試験まで日がないから、お勉強をするわよ」


 「もう少しの辛抱だから、頑張ろうね」


 「えぇ、もう勉強するの。はぁー、分かりました」


 あれー、無視されちゃったよ。


 〈サトミ〉は、〈アコ〉と〈クルス〉に両脇を抱えられて、トボトボと歩いて行ってしまった。

 ドナドナしているぞ。〈サトミ〉は、どこかに売られちゃうのか。

 カムバック、〈サトミ〉。戻っておくれよ。


 うーん、僕はどうしよう。仕方がない、僕も〈サトミ〉の勉強を手伝おう。


 「おーい、勉強の調子はどうだい」


 「あっ、〈タロ〉様も来てくれたの」


 「〈タロ〉様、何をしにきたのです。手伝いの必要はありませんわ」


 「〈タロ〉様、〈サトミ〉ちゃんの気が散りますので、ご遠慮してください」


 「すみません。お邪魔しました」

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