第355話 満たされる

 〈アコ〉は、自分のことを美人じゃないと言う。僕は〈アコ〉のことを美人だと思っている。

 自己評価と、美人の基準が違っているんだろう。

 僕の美人の基準が広くって、〈アコ〉が狭いのかも知れない。


 ただ、「王国一」は、大げさに言っている。リップサービスっていうヤツだ。


 例えば、〈アコ〉の友達の〈ロローナテ〉は、多くの人が〈アコ〉より美人だと言うだろう。

 〈アコ〉は、美人ではなく、どちらかと言うと可愛い顔に分類されると思う。

 それに、もう一人の友達の〈ラミターシ〉は、文句ななく〈アコ〉より美人だ。

 十人聞いたら、十人ともそう答えると思う。僕もそう思う。

 ただ、〈ラミターシ〉と〈アコ〉を選べるとしても、僕は〈アコ〉を選ぶだろう。

 どうしてだろう。


 さっき僕は〈アコ〉に、身内だからと答えた。それは間違ってはいない。

 長い時間を一緒に過ごしたし、お披露目も済ませたんだ。恋人のような関係にも、なったと思う。

 それを今さら、捨てるような気はおきない。〈アコ〉が、悲しむことをしようとは思わない。

 泣いている〈アコ〉を見たら、僕は自分が絶対許せないだろう。いくら美人が手に入ってもだ。


 そもそも、〈アコ〉も充分美人なんだからな。おっぱいも大きいし。

 これは〈ラミターシ〉に圧勝している。


 また、僕と〈アコ〉は黙って歩き出した。


 〈アコ〉は、何を考えているのだろう。僕に何を期待しているんだろう。

 僕は、〈アコ〉の部屋の前でも、まだ考えていた。


 「〈タロ〉様、お店に連れて行って頂き、ありがとうございました」


 「いや。大したことじゃないよ」


 「〈タロ〉様、部屋に入って、もう少しお話をしても良いですか」


 「もちろん、良いよ。僕も話をしたかったんだ」


 「ふふ、嬉しいですわ」


 僕達は部屋に入って、お互いの正面に立った。

 〈アコ〉はしばらく黙っていたが、思い切ったように話かけてきた。


 「私は、あの場で何も出来なかったことを、ずっと考えていました。でも、結論はまだ出ていません。ただ、今、どうするのかは決まっていますわ」


 「そうなのか」


 「〈タロ〉様、お二人の前で、私を美人と言って頂き、ありがとうございました。とても嬉しくて涙が出そうなんです。お店で言われた時から、ずっと抱きしめて欲しかったの」


 僕は黙って、〈アコ〉を抱きしめた。


 「ふふ、どうしてでしょう。先ほどまで、悩んでいたことがどうでも良くなりましたわ。〈タロ〉様に抱きしめられると、とても安心出来ます。私が正しいことを、しているからだと思います」


 「前もそう言ってたな。これが、正しいことなの」


 「そうですわ。とても正しいことなのです。〈タロ〉様は、違うお気持ちなのですか」


 「そうだな。正しいっていうより、満たされるかな」


 「私で、満たされるのですか。私は〈タロ〉様に、何を与えているのでしょう」


 「色んなものを、与えてくれているんだと思うよ」


 〈アコ〉が僕を見詰めてくる。その瞳には、僕が写っていると思う。

 何を与えてくれるようと、しているのだろう。今は、差し出された唇を貰おう。


 僕は〈アコ〉の唇を、夢中になって愛撫した。〈アコ〉も、応えてくれる。

 目をつぶって、唇を押し付けてくる。

 僕は、唇も舌も激しく吸った。〈アコ〉は、嫌がったりしない。

 ピチャピチャと、二人の出す音が鳴っている。


 長く考えても、分からなかった答えを、求めていたんだと思う。

 今、絡み合う二人が、一つの回答だと思った。


 「〈アコ〉が好きだ」


 僕が本当に、〈アコ〉を好きかは僕も良く分からない。だから、身内なんて言ったのだろう。

 でも〈アコ〉が、この言葉を待っているのは分かった。


 「私も〈タロ〉様が、好きです。もっと強く抱いてください」


 僕は〈アコ〉を強く抱きしめながら、おっぱいやお尻に手を伸ばした。

 興奮しているので、少し乱暴な揉み方になったと思う。

 でも、〈アコ〉は僕の自由にさせてくれている。

 時おり、「はぁ」「んうう」と小さく呻きながら。


 僕は、〈アコ〉を抱きしめたまま、ベッドに倒れ込んだ。

 〈アコ〉の全てを与えて貰おうと思ったんだ。僕は、〈アコ〉の上着のボタンを外し始める。


 「〈タロ〉様、止めて。こんなのダメですわ」


 「止まらないんだよ」


 〈アコ〉の上着をはぎ取ると、スリップの下のおっぱいがブルンと揺れた。

 〈アコ〉は、おっぱいを守るように、両手をクロスしている。


 「あぁ、〈タロ〉様、誘うようなことを言った私も悪いのですが。これ以上は止めてください。私が今流されてしまうと、〈クルス〉ちゃんや〈サトミ〉ちゃんにも、同じことをするのでしょう」


 「うーん、それはどうかな」


 「〈タロ〉様は、私達三人の許嫁へ、公平に接する方ですわ。だから、いずれは差をつけないようにすると思います。〈クルス〉ちゃんは、優秀なので卒舎させてあげたいのです。〈サトミ〉ちゃんは、入舎試験もまだなのですよ」


 「そうなんだけど。ダメかな」


 「〈タロ〉様、考えてください。赤ちゃんが、出来るのですよ」


 そうか。この世界には避妊具がないからな。便利な薬も魔法もない。

 避妊は勘が頼りなんだろう。

 〈アコ〉自身なら、少しぐらい分かるだろうが、僕には全く分からない。

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