第348話 特異点

 新しい農場といっても、それほど町から離れてはいないからな。馬でいけば、直ぐの距離だ。

 ゴワゴワにならなく、良かったと思う。


 ただ、厩舎に戻っても、〈アコ〉との言い争いは止まらなかった。


 「〈アコ〉、僕が支えてあげるから、心配しないで降りてよ」


 「ふぅ、それが心配ですわ。また、破れたところに、指を入れるおつもりでしょう」


 「わざとはしないよ。でも、破れ目が大き過ぎて、下着の部分で支えるしかないんだ」


 「はぁあ、私のお尻が大き過ぎると、おっしゃりたいのですか」


 はい、そうです。実際大きいよ。まさか、自分で分かってないのか。


 「そうじゃないけど、そんなに気にするなよ。今さらじゃないか」


 「んん、そうですけど。〈タロ〉様の好きにさせたら、何をされるか分かりませんわ」


 「うっほん、下郎どもよ。ここに朕がいることを忘れおって、けしからんぞ。乳繰り合うのは今直ぐ止めろ」


 そうか。グルグルが、いたんだった。厩舎に隠れているのを、すっかり忘れていた。

 ただ、乳じゃないよ。尻繰りだよ。


 「あっ、「天跳駒」様、御休息のお邪魔をしまして、誠にすみません。直ぐに退出いたしますわ」


 こんな失礼なグルグルに、丁寧な言葉を使わなくても良いのに。


 「ふむ。やはり未通の乙女は、しおらしくて好感が持てる。もう一人の未通の乙女も、毎日のように朕の毛を梳きよる。分をわきまえておると言えるな。それに比べて、童貞の雄はどうにもならんな」


 強制起立で、一方的に搾しぼられたくせに、良く言うよ。

 あんな醜態をさらすのなら、童貞のままの方が、まだましだ。


 「けっ、グルグルに言われる覚えはないぞ。それに童貞をバカにするな」


 「ほら、たちまち下品をさらけ出しよった。〈ジュジュシュ〉に聞いたら、特異点と言っていたが、これでは先が思いやられるわ」


 「はぁ、特異点ってなんだよ。人を異常みたいに言うな」


 「もう良い。下がれ。話にもならん」


 きぃー、腹立つな。


 「〈アコ〉、早く行こう。こんなヤツと、いてもしょうがない」


 「はぁ、〈タロ〉様、「天跳駒」様と何を話されたのですか。怒っていらっしゃいますね」


 「酷いんだよ。僕を特異点、異常者と言ったんだよ」


 「そうなのですか」


 あー、〈アコ〉の表情が、必ずしも僕に共感してないぞ。

 僕のことを、異常者と思っているんじゃないだろうな。


 「〈アコ〉」


 「はっ、〈タロ〉様は、決して異常者ではありませんわ。それは私が一番良く知っています」


 〈アコ〉は、力強く否定してくれた。でも、必要以上に力が入り過ぎている気がするぞ。

 嘘を言っているわけじゃないけど、何か違和感を感じるな。


 「「天跳駒」様のお邪魔になるので、さあ、〈タロ〉様、もう行きましょう」


 〈アコ〉は、僕の腕に腕を絡ませ、少し強引に僕を引っ張っていく。

 僕を見る目が、慈愛に満ちた目になっている気がする。どうしてだろう。

 おっぱいが、柔らかいから、まあ良いか。




 〈サトミ〉の学舎のことで、〈クルス〉を呼び出した。

 〈サトミ〉が、試験を受ける学舎を決めるためだ。もう決める時期が迫っている。


 「〈クルス〉、どう思う。〈サトミ〉は、どこの学舎が良いんだろう」


 「〈タロ〉様、ここに〈サトミ〉ちゃんはいないので、本当のことを言いますね」


 「それで頼むよ。この場で、気を使っても何も意味がないからな」


 「それではいきます。まず、《赤鳩》は学力的に無理です」


 「そうか。そうだろうな。王国中の秀才が、集まってくる所だからな」


 「はい。そう思います。それに、《赤鳩》以外の有名学舎も厳しいと思います。有名学舎のことを、良く分かっているわけではないのですが、そう判断します。〈サトミ〉ちゃんなりに、勉強は頑張っているのですが、成果はそれほど出てはいません」


 「そうか。〈サトミ〉から受ける印象で、そんな気はしてたんだ。〈サトミ〉は勉強が苦手なんだな」


 「はい。〈サトミ〉ちゃんの頭が、それほど悪いとは思いません。ただ、根本的な問題があります。学問に全く興味を持っていません。強制されているだけで、勉強する意味を自覚していないようです。自主性がないのでは、良い成果があがるはずがありません」


 「そうか。〈サトミ〉は素直だから、自分は納得していないのに、非効率な勉強をただ続けていたんだろうな。僕が無理強いしたせいだと思う。悪いことをしたな」


 「ふぅ、〈タロ〉様。〈サトミ〉ちゃんは、それでも勉強に食らいついてきました。今、学舎に行かなくても良いと言うのは、止めてあげて欲しいのです。今までの辛い努力が、何にもなりません。無です。仮に、学舎の試験に落ちても、その過程と結果は残ります。何もないより、何倍も意味があると私は思います」


 「ふー、〈クルス〉の言うとおりだな」


 「ご理解頂き、ありがとうございます。それで、受かる可能性がある学舎は、《春息吹女子園》か《若草立女館》だと考えました。《春息吹女子園》は、高級官僚か大商人の子女がいく学舎です。《若草立女館》は、裕福な家庭の子女のための学舎だと思います」


 「うちは貴族だけど、《春息吹女子園》は〈サトミ〉には合わないんじゃないかな。あそこは、お嬢様お嬢様しているぞ」

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