第345話 ほんまにええ娘や

 「んんう、そうですけど。あまりこすらないように、して欲しいのですわ」


 「分かった。そうするよ」


 「それと、お尻に当てているのは、どうしてですか」


 「何が」


 「何がって。当たっているんです。気になるんです」


 「あれのこと」


 「言えませんわ」


 「しょうがないよ。〈アコ〉の柔らかいお尻が、当たるんだもん」


 「だもん、って可愛い感じで言ってもダメですわ。何とかしてください」


 「〈アコ〉が魅力的だから、どうしようもないよ」


 「もう、〈タロ〉様。褒めたら何とかなるって思ってません」


 「そんなこと、あるはずないじゃないか」


 「んうう、もう。出来るだけ小さくしてくださいよ」


 〈アコ〉は、無茶を言うよ。僕のは、充分小っちゃいのにな。

 これ以上小さくしろって、それじゃなくなっちゃうよ。見えなくなっちゃうよ。


 でも待てよ。小さくしろってことは、大きいってことだよな。


 「〈アコ〉は、本当に良い娘だな。僕に自信を、つけてくれようとしているんだな」


 「はぁー、〈タロ〉様、一体どこから、そんな話になるのですか。私は大きいままでは、困るって言っただけですわ」


 「ぐすっ、〈アコ〉、ありがとう」


 「えぇー、どうして。〈タロ〉様、急に泣き出して、どうされたのですか」


 「ぐすっ、ぐすっ、〈アコ〉、本当にありがとう」


 「はぁー、何に対してのお礼なんですか。嫌味なんですか。もう何も言いませんわ。好きなところを触って良いですから、泣き止んでください。まるで、私が虐めたみたいじゃないですか」


 《ラング川》沿いを、速足で進んでいくと、水車が見えてきた。


 「わぁ、大きい。〈タロ〉様、大きいですわ」


 「ぐすっ、〈アコ〉は、ほんまにええ娘や」


 「ちっ、〈タロ〉様、もうその茶番はいいです。うんざりしてきましたわ」


 〈アコ〉に「ちっ」って言われたよう。続きは「ちゃい」なんだろう。

 〈アコ〉は、ほんまは悪い娘や。


 僕達は、馬を降りて水車を見ることにした。久しぶりに見る水車は、とても大きく感じる。

 僕の背丈を、大きく超えていると思う。

 《ラング川》から次々と、大量の水を水路に落とし込んでいくのが頼もしい。

 水がバシャバシャと暴れる音が、いつまでも途切れない。


 水飛沫(みずしぶき)が跳ねて、〈アコ〉のフアフアの髪に、透明な水玉をいくつも形作った。

 プリズムのように、水玉が七色に輝き、〈アコ〉は水の女王のように輝いている。


 「〈タロ〉様、近くで見ると、改めて大きいですわ」


 水車を見てないで、ぜひ僕の股間を見て言って欲しい。


 「そうだろう。大きいだろう」


 言ってくれないので、自分で言ってやった。悲しみの自己申告だ。


 「それに、あんなに低いところから、水を汲み上げていますわ。それも勝手にです。話には聞いていましたが、〈タロ〉様は天才ですわ」


 〈アコ〉が、熱っぽい瞳で僕を見詰めてくる。

 似てるけど。たぶん、これはキスしてっていう目じゃないんだろうな。残念だ。


 「天才は大げさだよ」


 パクった知識で、天才と言われてもな。


 「でも、水路の先には、小麦畑が一面に広がっていますわ。《ラング領》は、とても豊になっています。自分のことのように、誇らしいのですわ」


 「そうか。そう言って貰うと嬉しいよ」


 「ふふふ、嬉しいですね。私もとっても嬉しいですわ。向こうにも、水車がありますね。向こうのも、見ていいですか」


 「もちろん、良いよ。見に行こうか」


 間隔を空けて水車が設置されているので、もう一度馬に乗る必要がある。

 まずは、〈アコ〉を鞍に乗せよう。お尻を押してあげよう。いやらしい意味ではないんだ。

 厩舎と違って、踏み台がないから仕方がないんだよ。


 「んんう、〈タロ〉様、お尻をそんなに、コネコネと触らないでください。手を動かし過ぎですわ」


 「そうかな。普通だよ」


 〈アコ〉は、不満の様子だけど、それでも股を大きく開いて、馬に跨ろうとした。

 でも、その時、幸運が訪れた。もしかしたら、〈アコ〉にとっては、不幸だったかも知れない。


 ― ビリ、ビリビリ ―


 と大きな音が辺りに響き渡った。


 「きゃー、〈タロ〉様、見ないで」


 〈アコ〉は、跨ろうとしているのを突然止めて、地面に降りてしまった。

 そして慌てた様子で、お尻を両手で隠している。


 「あっ、〈アコ〉、ズボンが破けたのか」


 「んん、そうなんです。お尻の部分が破けましたわ。やっぱり小さ過ぎたんです」


 〈アコ〉は、恨めしそうに僕を見ながら言った。

 服が小さいと主張して、自分のお尻が大きいとは認めなくないようだ。

 まあ、ピチピチだから、破れる可能性は大きかったな。ちょっと期待もしていたしな。


 「〈アコ〉、心配するな。ここには僕しかいないよ」


 「〈タロ〉様、他の人に、私のお尻が、破けたって言ったら絶対ダメですよ。決して言わないと、約束してください」


 必死だな。お尻の大きさを、すごく気にしているんだな。


 「当たり前じゃないか。〈アコ〉の恥ずかしい話を、僕がするはずないじゃないか。そうだろう」


 でも、少し大げさに言ったら、うけるんだろうな。〈アコ〉の母親だったら、爆笑必至だ。

 ちょっとしたエロ要素も、加えられるからな。

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