第341話 一桁違う

 「店主とでは、満足出来ないんだな」


 「えぇ、もっと必要なんです。かなり足りていません。今のままでは、満たしているとは、とても言えないと思います。ですので、明日から三人で頑張ります」


 おーい、三Pで励むのか。すごいな。想像すら出来なかった。

 この若い奥さんを、満足させるのは大変なんだ。

 「必要」「足りない」「満たされていない」って、要求がずいぶんと激しいな。

 かなり欲求不満が、溜まっているんだろう。


 僕では、とてもじゃないが、満足させられそうにないな。

 エッチなことのレベルが、一桁違うと思う。見習い騎士と、せい騎士ほどの格差がある。

 僕が慰めるなんて、偉そうなことを考えて、ごめんなさい。


 でも、僕は領主だ。少しだけ偉そうなことを言って、この場から去ろう。

 いたたまれない気持ちになるな。この若い奥さんに、僕は必要とされていない。

 実力が不足している者に、奥さんの胸やお尻は、決して応えてくれないだろう。

 ちくしょう。


 「そうなんだ。楽しいことなんだと思うが、ほどほどにしておいてた方が良いよ」


 「ご心配頂き、ありがとうございます。パンがドンドン売れて楽しくても、身体を壊したのでは意味がないですよね。ご領主様のお言葉は、主人にも必ず伝えます」


 あっ、レベルの違いを痛感させられて、ショックで良く聞き取れなかった。

 ただ、身体が壊れるような、ハードプレイをするつもりだったようだ。

 この若い奥さんは、本当に見かけによらないな。女性って分からないもんだな。



 少し歩くと鍛冶屋が見えてきた。ここは、いいや。スルーしよう。



 また、少し歩くと見たことがない店が見えてきた。

 どうも、食料品店らしい。野菜や肉が売られている。お惣菜も並べてあるな。


 「これは、これは。ご領主様、ようこそおいでくださいました。ご息災で何よりございます。何かお探しでしょうか」


 上品そうな、おばさんだな。言葉遣いが丁寧だ。


 「いや。別に探しているわけじゃないんだ。散歩なんだ」


 「そうなのですか。この町はご領主様のお力で、とても賑やかになりました。お礼申し上げますわ。人が増えて、この店もお陰様で繁盛させて頂いております。以前は自炊が多かったのですが、今は若い人が沢山増えて、お惣菜も沢山買っていかれのですよ」


 「へぇー、そうなんだ」


 「はい。自炊しないのは、どうかと思うのですが、若い人は違う考えのようです。売っている私が、言うのもおかしいのですが」


 「若い人の考えには、ついていけないね」


 「おほほ、ご領主様も大変お若いのに、私に合わせて頂く必要はないのですよ。お気を使ってくださって、お優しいのですね」


 「うーん、優しいとは思わないけどな。つられただけだよ」


 「おほほ。それが、思いやりを持って、おられる方の証拠だと思いますわ」


 「優しい」「思いやり」と言われると、なんか嫌だな。

 そんな誠実な人間じゃないので、居心地が悪いぞ。


 「まあ、良いけど。それじゃまたね」


 たぶん、もう来ることはないと思うけどな。ここの店主は、何となく苦手だ。



 もう帰ろうと思っていたら、会いたいと思ってもいない人間にあってしまった。

 コイツは苦手と言うか、ムカムカさせられるんだ。


 船長がヨタヨタと、こっちに歩いてくる。

 どうして嬉しいのか、口を半開きにしてハアハアしているぞ。

 舌でたまに、ペロっと唇を舐めている。妙に赤いな。

 はぁー、町の中を、イグアナが徘徊しているなんて誰の悪夢だよ。


 「若領主よぉ。いいところであったな」


 僕は会いたくなかったよ。どうして、コイツはゲージに入っていないんだ。

 誰か知らないが、飼い主はちゃんと管理しておけよ。人類の迷惑になっているぞ。

 放し飼いはいけないな。飼い主は猛反省しろ。うーん、飼い主か。、コイツの飼い主は誰だ。

 ひょっとしたら、僕が飼い主と世間は認識するかも知れない。

 でもしかし、強く冤罪と言わせて欲しい。


 「船長は、どうしてここにいるんだ」


 「若領主よぉ。そりゃ、ちょびっと冷てぇんじゃないのか。俺りゃよ、若領主の命令で、《インラ国》のよぉ、海図を作ってきたってぇ言うのによ。おかしいぜぇ」


 「おー、もう作れたのか。早過ぎないか」


 「何言ってやがる。そんなもんは、俺にかかりゃ、朝飯前のコンコンチキチキマンマン、コンチキチキマン、ってことよ」


 何かほざいているけど、これはイグアナ語なんだろう。

 思ったより、イグアナは知性があるのだな。ゴキブリより上かも知れない。


 「でもな。どう考えても早過ぎだ。一国の海岸線だよ。おかしいぞ」


 「ギャハハ、若領主はよぉ。賢いなぁ。バレたか。《インラ国》全部の海岸線は測ってないぜぇ。若領主の奴隷がいる、港までの海図だけなんだ。それで良いんじゃねえか」


 コイツ、また嬉しそうな顔になりやがった。にちゅりとした笑顔がキモイよ。

 笑い声も、がざゃりとしているよ。

 「にちゅり」と「がざゃり」で、心臓に負担がかかって、堪らなくなるな。


 「人聞きの悪いことを言うなよ。僕は奴隷を持っていないぞ」


 「まあ、まあ、そうしとこぅ」


 何なんだ。この言い方は。ムカつくな。

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