第340話 ヒイヒイ

 〈アコ〉と〈クルス〉と〈サトミ〉を、町の散策に誘ったけど、三人ともまだ寝ていた。

 もうお昼は過ぎているのに、何やってんだろう。

 〈アコ〉と〈クルス〉は、冬休み中だけど、少しだらけ過ぎだと思う。

 〈サトミ〉は、勉強をもっとしなくちゃいけないな。困ったもんだよ。


 しかたがないので、一人で散策することにした。ボッチでも、寂しくなんかないや。


 まずは、雑貨屋か。中年夫婦はどうしているんだろう。

 店を覗(のぞ)くと、服が店内に溢れかえっている。

 これはもう、雑貨屋じゃなくて、服屋だ。


 「あれま、お坊ちゃま、いらっしゃいませ。服を卸して頂いて、大変感謝しております」


 「あれま、お坊ちゃま、お久ぶりでございます。お陰様で商売は大繁盛です。ありがとうございます」


 この夫婦、相変わらず喋り出しが一緒だ。少し変化をつけた方が、良いじゃないのかな。

 それに、「お坊ちゃま」か。これも、相変わらずなんだな。

 僕はもう伯爵家の当主なんだけどな。まあ、良いか。


 「久しぶりだな。店は雑貨屋から、服屋に変えたの」


 「それが、そうじゃないんですよ。雑貨は、今でも扱っているのですが、服が売れすぎて、雑貨を並べる場所がないのですよ。嬉しい悲鳴って、いうヤツです」


 「へぇー、そんなに売れているの」


 「それはもう。この町は、今、活気に溢れています。どの商売も回転率が、すごいことになっているんですよ」


 「主人が言っていることは、誇張じゃないんです。壁と新農場で、人手が足らなかったので、職を求める若者達が、移住してきているんですのよ。御存じでしょう」


 「そうらしいな。でも、僕は書類で、知っているだけなんだ」


 「そうですか。旧門の集合住宅も、半分以上埋まっているらしいですよ。あんなものいらないって、大声で言ってた人達が無口になっています。笑えますね」


 「そうなんだ。それじゃ、また住宅難になってしまうな」


 「ははっ、お坊ちゃまは、お人が悪いですね。それを見越して、新町を造られたのですよね。計画どおりなんでしょう」


 「いやー、そうでもないさ。たまたまだよ」


 「本当ですか。私どもも、お坊ちゃまの計画に乗っかって、新町にもう一店舗開く予定なんですのよ。この店では狭過ぎなんです。おほほっ」


 おばちゃんの陽気な笑いが、狭い店で木霊しているぞ。もう、いけいけ状態だな。

 儲かり過ぎて、頭のネジが飛んでってるみたいだ。


 「そっか、それじゃもう行くけど、飛ばないように頑張ってね」


 「はあぁ、看板はしっかりしているので、大丈夫です。商売は、このまま頑張りますよ。お坊ちゃまは、お身体だけは、充分気を付けてください」


 次は、パン屋か。覗いたけれど、パンはもう売ってない。午後には、もうないのだろう。

 前もそうだったし、午前中に来ないと、パンは食べられないな。


 店には、若い奥さんしかいないみたいだ。遅い朝食を一人で食べている。

 若い店主はどうしたんだろう。別れてしまったんだろうか。

 性格の不一致と言う名の、性生活の不一致に違いない。


 若い奥さんが、満足出来なかったのかも知れないな。

 どちらにとっても、可哀そうなことだと思う。特に若い奥さんが、可哀そうだ。

 持て余しているんだろうから、慰めてあげたいな。どんな風に慰めよう。


 店先で、寝取りのシチュエーションを考えていたら、若い奥さんが声をかけてきた。

 この後、どんな展開が待っているんだろう。ドキドキだな。たぎるぞ。


 「あっ、ご領主様、ようこそいらっしゃいました。どうされました。何か御用事ですか」


 「悪いな。食事中にすまない。町を散策しているんだ」


 「また、視察をされているのですね。お若いのに、ご立派なことです。町が大きく変わって、吃驚されたでしょう。うちも、大きな変化がありましたのよ。今は主人と別々なんです」


 なるほど、別居状態なのか。もうすぐ別れるんだな。

 若い奥さんの胸とお尻が、寂しそうに揺れているもの。どう慰めよう。


 「それは大変だ。一人では寂しいんじゃないか」


 「えぇ、少し大変ですが、仕方がないことです。新しい人を入れるので、それまでの辛抱です」


 なんだ。別居中なのに、もう次の男がいるのか。入れるってやらしいな。


 「そうなんだ。変わり身が早いな」


 「褒めて頂いてありがとうございます。町がものすごく発展してますので、ついていくのが精一杯です」


 おいおい、精を一杯つくのか。赤裸々だな。ぶっちゃけ過ぎだよ。


 「一杯なの」


 「そうなんです。もう一杯一杯なのですよ。主人と私が作るのでは、全然足りないのです。だから、人を雇うことにしました。集合住宅にある店の売り子も必要で、ヒイヒイ言っています」


 若い奥さんが、ヒイヒイ言っているのか。僕も許嫁達に言わせてみたいな。

 見果てぬ夢だな。渇望するビジョンだ。銀河をかけるオペラだ。最大ボリュームで聞きたいな。


 でも待てよ。ご主人と子作りしているのか。別居中じゃなかったのかよ。

 それとやっぱり、ご主人との行為では足りてないらしい。全然、満足出来ていないのだろう。

 思ったとおり、性生活の不一致なんだな。

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