第337話 両想い

  僕は〈サトミ〉を引き寄せて、優しくキスをした。


 「んんう、キスの味が何だか、前と違う気がするね」


 そんなことは、ないだろう。僕は夕ご飯に、濃い味の物は食べてないぞ。


 「えぇ、味が違うの」


 「〈サトミ〉は、そう感じたんだ。〈タロ〉様は、そう思わないの」


 「うーん、甘い感じなんだけど、あんまり差はないような」


 「ふーん、そうなんだ。〈サトミ〉が、恋人になったせいだと思ったんだ」


 「僕は前から、〈サトミ〉のことを、恋人と思っていたからじゃないのかな」


 「そっか、〈サトミ〉と〈タロ〉様が両想いになったから、変ったんだね。〈サトミ〉は幸せだよ」


 うーん、両想いか。今までは、片思いだったのか。〈サトミ〉は、片思いだと思っていたのか。

 キスとか一杯しているのに、許嫁って難しいな。

 恋愛感情がなくても、結婚するってことだよな。

 お互い馴染みになるけれど、それが恋愛に発展するとは限らない。そう言うことなんだろう。


 でも待てよ。僕は〈サトミ〉に、好きって言ったよな。

 〈サトミ〉は、それをどう受け取っていたんだろう。

 どうも、完全に本気だとは、受け取ってなかったんだろう。

 胸とかお尻を、触るための言い訳と思っていたのかな。

 確かに、それもあるので、本気とは思われなかったのかも知れないな。

 バレているってことだよ。


 僕は、〈サトミ〉のことをどう思っているのだろう。

 嫌いじゃないのは、確かだ。でも、〈サトミ〉にキスが出来なくて。

 おっぱいやお尻が、揉めなくなっても、好きって言えるのかな。


 そんなことを考えても、何も意味がない。こんな仮定は現実じゃない、架空のことだ。嘘だ。

 嘘に真実が、あるはずがないと思う。真逆のものだ。


 だから、〈サトミ〉にキスをしよう。それが僕の真実だ。心からしたいと、思っているのだから。


 「そうなんだ。キスをしたいけど良いかい。顔にもするけど」


 「うん、良いよ。くすぐったいのは我慢出来るもん」


 僕は、〈サトミ〉の唇にキスをした。

 〈サトミ〉は目をつむって、「はぁ」って溜息をついている。

 その後僕は、〈サトミ〉の目や鼻や顎に、啄ついばむようなキスをした。

 〈サトミ〉のまつ毛は長く、鼻は小さくて丸い。短い顎は、すっきりとしたラインが綺麗だ。


 僕がにキスをする度に、〈サトミ〉はやっぱり「クスクス」笑って、身体を小刻みに震えさせている。

 「クスクス」笑っている〈サトミ〉は可愛いな。でもこの辺で、開放してあげよ。

 あまり我慢させるのも可哀そうだ。おしっこを、ちびらせてもいけない。


 「はぁー、くすぐったかった。でも、嫌じゃないんだ。〈タロ〉様は〈サトミ〉を可愛がってくれているんだもん。それは分かってるんだ」


 「そのとおりだよ。〈サトミ〉は可愛いからな」


 「それなら、お願いがあるんだ」


 「お願いか。可愛い〈サトミ〉のためなら何でも聞くよ」


 「ほんと、嬉しいな。それじゃ、王都の学舎に受からなくても怒らないでね。それに、学舎に入れなくても〈サトミ〉も王都に置いて欲しいんだ。もう一人で待つのは嫌なの」


 「〈サトミ〉は、勉強しているんだよね」


 「うん、頑張っているんだけど、〈サトミ〉はバカだから、沢山のことを覚えられないの。〈タロ〉様、ごめんなさい」


 「〈サトミ〉、謝る必要はないよ。頑張っているんだった、怒ったりしない」


 「〈タロ〉様。学舎に受からないと〈サトミ〉は、《ラング》に帰らされるの」


 「〈サトミ〉、冬休みが終わったら、〈サトミ〉も王都で暮らそう。僕ももう〈サトミ〉と離れているのは嫌なんだ」


 「ぐすっ、〈タロ〉様、〈サトミ〉は学舎に受からなくても、一緒にいても良いの」


 「そうだよ。王都で一緒に暮らすのは決定だ。僕は領主だから、誰にも文句は言わせないよ」


 「ぐすっ、〈タロ〉様、ありがとう。〈サトミ〉はもう、〈タロ〉様と離れ離れは嫌なんだ。待つのは辛いんだもの」


 〈サトミ〉は、本格的に泣き出して、僕の胸に顔を埋めている。

 〈サトミ〉の手は、僕の背中に回されて、服を強く握って離そうとしない。

 それは、僕と離れたくないという、〈サトミ〉の心の叫びなんだろう。


 だから、僕は〈サトミ〉の腰を抱きしめ返した。両手で強く。

 お尻の上の方を触ってしまっているのは、わざとじゃないんだ。勢いなんだと思う。

 あぁ、柔らかいな。


 可哀そうに〈サトミ〉には、辛い思いをさせてきたんだな。

 でも、これからは遠くで離れ離れにはならないし、させない。


 こういう時、権力を持っているのは、すごく有利だと思う。

 〈サトミ〉の父親にも、有無を言わさず命令が出来る。

 いつの時代も、どこの世界でも、多くの人が権力を欲しがるはずだ。


 それとやっぱり、〈サトミ〉は勉強がダメだったのか。

 これも、可哀そうなことをしてしまったな。〈サトミ〉には、何かお詫びをしてあげよう。


 王都で、フリルが一杯の服や、甘いお菓子を沢山買って、猫可愛がりで甘やかしてあげよう。

 甘々にして、トロけさせたいな。

 〈サトミ〉は、きっと甘い吐息を漏らして、僕に吸わせてくれるだろう。

 とろけそうな声を震わせて、僕に聞かせるのだろう。

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