第334話 クスクス

 帰りは、〈アコ〉と〈クルス〉と三人で帰った。


 「〈タロ〉様、ずいぶん熱心に見られていましたね。羨ましいと、思っている目でしたわ」


 「〈タロ〉様は、あそこにいた男性に、加わりかったのですか。若い女性を助けるふりをして、抱きしめたかったのではないのですか」


 「はぁ、何言っているんだ。僕が抱きしめたいのは、二人だよ。決まってるじゃないか」


 「少し疑っていますわ。綺麗な子が多かったと思いましたから」


 「本当ですか。目を見て言えますか」


 僕は足を止めて、二人を正面に見ながら言った。


 「当たり前だろう。二人の方がずっと美人だよ。それに、さっきは二人の方が、疑わしいことを言っていたぞ」


 「えっ、何のことです」


 「疑わしいって、なんですの」


 「結婚式を二回するって言ってじゃないか。どういうことなんだ」


 「あーぁ、それですか。〈タロ〉様は、心配しなくても良いです」


 「気にして貰う必要はありませんわ。忘れてください」


 「はぁ、二回目は一体誰とするつもりなんだ」


 「誰って、どういう意味ですか。もう、何を言っているのですか、怒りますよ」


 「ふぅ、本当に〈タロ〉様は、どうしょうもないですわ。そんなおバカなことを言わないでください」


 〈アコ〉と〈クルス〉は、僕を蔑んだような目で見てくる。

 ただ、怒ってはいないようだ。呆れている感じだな。でもどうして、僕が呆れられるんだ。

 二人が二回するって言ったのに、非論理的と言わざるを得ない。


 それに二人とも、僕を置いてスタスタと歩くなよ。手を繋がないのか。



 その日の夜に小屋へ行くと、〈サトミ〉がドレスを着たまま、〈トラ〉と〈ドラ〉と話をしていた。

 結婚式の後に親戚を集めて、披露宴という名の宴会をすると聞いていたんだ。

 〈サトミ〉は、そんな宴会が苦手だと思っていたので、大当たりだった。


 少しは〈サトミ〉のことが、理解出来てきたんだな。


 ただ、〈トラ〉と〈ドラ〉は僕を見ると、スタスタと小屋を出ていきやがった。

 魚を持っていない僕には、価値がないってことか。ふん、お邪魔猫が、いなくてせいせいするわ。


 「〈サトミ〉、こんばんは」


 「あっ、〈タロ〉様、こんばんは。どうしたんですか」


 「それは、〈サトミ〉に逢いに来たんだよ。邪魔だったかい」


 「ううん、そんなことないよ。〈サトミ〉は、〈タロ〉様に逢えて、嬉しいに決まっているよ」


 「そうなんだ。良かったよ。隣に座っても良いか」


 「うん。それも良いに決まっているよ。聞かなくても良いのに」


 「ははっ、これからは、聞かないようにするよ」


 「あはぁ、〈サトミ〉の横は、ずっと〈タロ〉様の席だよ。何時までも変わらないよ」


 「僕もずっと〈サトミ〉が好きだよ。何時までも変えないよ」


 僕は〈サトミ〉を横から、そっと抱きしめた。


 「あっ、〈タロ〉様、好き。もっと強く〈サトミ〉を抱きしめてよ」


 僕は、強く抱きしめながら、〈サトミ〉の後ろ髪を撫ぜた。

 〈サトミ〉が顔を上げて、僕を見てきたので、微笑んであげた。

 〈サトミ〉も、嬉しそうに微笑みを返してくれた。

 僕は、微笑んでいる〈サトミ〉の唇にキスをした。


 〈サトミ〉は、もっと嬉しくなったのか、「クスクス」と笑い出した。

 〈サトミ〉の目や耳や鼻に、僕はキスをした。〈サトミ〉の「クスクス」は止まらない。


 「くっー、〈タロ〉様、もう止めてよ。〈サトミ〉は、くすぐったく堪らないんだ」


 うーん、〈サトミ〉は、くすぐったくなってしまうのか。


 「分かったよ。それじゃ、〈サトミ〉が、くすぐったくない場所はどこなの」


 「えぇ、それを〈サトミ〉に聞いちゃうの、〈タロ〉様」


 「でも、聞かなくちゃ分からないだろう」


 「んん、でも〈サトミ〉が、それを言っちゃったら、そこに、キスして欲しいことになっちゃうよ」


 「それはダメなの」


 「んん、それは恥ずかしいんだ。〈タロ〉様から聞いてよ」


 自分で言うのと、聞かれて答えるのと、どれほども差がない気がする。

 でも、良いか。〈サトミ〉は、じゃれつきたいのかも知れない。

 イチャイチャするのは、僕も望むところだ。


 「じゃ僕から聞くよ。唇はどう」


 「そこは平気だよ」


 僕は〈サトミ〉の唇にキスをした。


 「んんう、くすぐったくないよ。甘いよ」


 僕は〈サトミ〉の首にキスをした。少し強めに吸って、跡をつけるように。


 「はぅん、少し、くすぐったいかな。それに、跡がついちゃうよ。ちょっと恥ずかしいな」


 次はどこが良い。〈サトミ〉は、ちょうどドレスを着ているから、脇の下にしてみよう。

 僕は、腕を押しのけるように、〈サトミ〉の脇に頭を入れた。


 「ち、ちょっと待ってよ、〈タロ〉様。そこはダメだよ」


 僕は構わずに、〈サトミ〉の脇の下に舌を這わせた。

 でもこれは、キスじゃなくて、脇の下を舐めたんだな。


 「ひゃー、〈タロ〉様。くすぐったくて、ゾクゾクして変な感じがするよ。そんなところを舐めないでよ。恥ずかしいよ」


 〈サトミ〉は、脇をしっかりと閉じて、涙目で僕を見ている。

 エッチなことをされて、必死になっている〈サトミ〉は、すごく可愛いな。 

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