第333話 青春が繰り広げられている

 「えぇ、ありますとも。ふふ、〈タロ〉様がご領主なんですから、あるに決まっていますわ」


 「〈タロ〉様の領地経営が、素晴らしいので、町が発展していっています。うふ、名領主と言われているのですよ」


 「二人とも、褒め過ぎだよ。お尻が、くすぐったくなるよ」


 「うふふ、いつもの仕返しですわ。私達も、言われていたのですよ」


 「ふふふ、結構嫌なものでしょう。これに懲りて、褒め過ぎるのを止めてくださいね」


 「分かったってば。今度から、褒め過ぎにならないようにするよ」


 〈プテ〉の被っている花冠は、〈ドリー〉の薄いピンクの花冠と、同じ花を使っている。

 今は冬だから、花の種類がこれしかないのだろう。

 許嫁達三人は、〈プテ〉の花冠の手伝はしていない。

 それほど親しくはないし、〈プテ〉には友達が沢山いるからだ。


 〈プテ〉の花冠は、〈ドリー〉のと違ってとても豪華だ。

 金や銀のリボンを贅沢に織り込んで、ティアラように見える。

 今まで、花冠は、綺麗だけど素朴なものだと思っていた。

 しかし、花冠さえも、変わっていっているんだな。

 僕の許嫁達は、どんな花冠を被るんだろう。それは少し先の、お楽しみってことなんだろう。


 僕の領主としての祝辞は、ごく少数の人しか聞いていなかったと思う。


 〈ハヅ〉と〈プテ〉が、モデルのように颯爽としているので、どうしても見てしまうようだ。

 かっこつけやがって、糞が。


 〈アコ〉と〈クルス〉も、僕の祝辞を聞かずに、コソコソと話をしている。

 話している最中に、心が折れそうになってきた。


 「すごく派手ですね。照れてしまわないのでしょうか」


 「一生に一回のことですわ。思い切り輝きたいのでしょう」


 「そうですね。気持ちは分かります。悩みますね」


 「ほんと、悩むわね。派手にするのか、落ち着いた感じにするのか。どちらも、ありですわ」


 「うふふ、それじゃ、二回しますか」


 「ふふふ、それが良いかも。両方出来るわ」


 〈アコ〉と〈クルス〉は、とんでもないことを言っているぞ。二回目は、一体誰とするんだよ。

 離婚することが、確定しているのかよ。はぁー、他人の祝辞を言っている場合じゃなかったな。


 誓いの契約も、それを燃やす儀式も滞りなく終わった。

 ただ、何かをする度に、いちいちポーズを決めるのは止めて欲しい。

 いくら、今日の主役でも限度というものがあるだろう。


 まじで、《ラング川》に流されて、深海の底でオオグソクムシにかじられてしまえ。

 このオオグソ野郎が。


 やっと式は、終わりに近づいた。後は花冠を、投げるだけだ。

 花冠を受け取ろうと、〈プテ〉の友達は、黄色い声でアピールし合っている。

 その周りを取り巻いて、〈ハヅ〉の友達が、にやけた顔を晒して待ち構えているようだ。

 男の方は、何を待っているんだろう。


 「さあ、投げるわよ。次の幸せを、掴むのは誰かしら。でも、取れなくても、恨まないでね」


 「野郎ども、準備は良いか。お嬢様方は必死だから、倒れないように助けるんだぞ」


 若い女性の「きゃー」という嬌声と、男どもの「おー」という野太い声に急かされて、〈プテ〉が「えぃ」って花冠を投げた。


 若い女性は、「私のよ」「私のものよ」と可愛い声を出しながら、次々に落下点へダイブして行くぞ。

 えー、ダイブするのか。これは、なんと言うか、捨て身としか言いようがない。

 それほど、花冠を、幸せを掴み取りたいのか。

 想像の上をいく、エネルギッシュな貪欲さに、怖くなって引いてしまうわ。

 怪我をすることが、怖くはないのだろうか。


 そう思っていたら、男どもが、素早く女性を抱きかかえて、支えているのが見えた。

 はぁー、落下点にダイブしていたと思っていたら、意中の男の胸にダイブしていたのかよ。

 嫌らしいよ。嫌らし過ぎるよ。羨ましいよ。羨まし過ぎるよ。


 あそこで、エッチな青春が繰り広げられているよ。甘酸っぱいより、相当エロ寄りの味だと思う。


 結局花冠は、地味な顔で、地味な服を着た、地味な女の子の手に渡った。

 それはそうだ。派手な子達は、花冠を取りに行っていないんだからな。


 この地味な子は、幸せな結婚をきっと叶えると思う。

 そうじゃないのなら、神様の怠慢だと糾弾されるべきだ。地味な子ほど、幸せになって欲しい。

 これは全国共通の願いだ。万国共通の思いだ。


 それに、地味な子の方がエロいと、巷(ちまた)では伝えられているらしい。


 エロさが、すこしある方が、結婚生活は上手く行くと思う。

 スパイシーである方が、美味しくいた抱けるはずだ。刺激的だもん。ピリピリするはずだ。


 これは僕の祝辞の時に、目の前で雑談していた、ザビエル禿げのおっちゃんが言っていた言葉だ。


 そのおっちゃんの嫁が、地味かどうかは調査出来ていない。

 そういう事情なので、眉唾ものかも知れない。

 ダジャレも、おっちゃんレベルだと認めよう。


 僕の三人の許嫁ではどうだろう。

 誰が一番地味なのか。〈アコ〉なのか、〈クルス〉なのか、それとも〈サトミ〉なのか。

 スパイシーなのは、誰なんだろう。僕の口からは言えません。

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