第332話 全身真っ白な服

  〈クルス〉は、僕に抱きついてきた。我慢出来なかったのだろう。

 僕の目を見詰めて、キスされるのを待っているように思える。


 僕は、温かな〈クルス〉の身体を抱いているのが、すごく気持ちが良い。

 ワインの酔いもあってか、頭がお花畑のように嬉しくなってきた。

 小さな蝶々も、微かに飛んでいる。身体がフアフアして、気分が最高に良いぞ。


 「〈クルス〉に飲ませてもらうのは楽しいな」


 「んんう、それは良かったです。〈タロ〉様、まだ飲みますか」


 そう言いながら、〈クルス〉もフラフラになっている。

 口に含んだワインに酔ったのか。僕に舌を吸われて、感じてしまったのか。

 どうなんだろう。このまま、口移しを続けていけば、ハッキリとするだろう。


 「うん。欲しいな」


 また僕は、「ヂチュー」と吸った。〈クルス〉の舌も、「ヂチュー」と吸ってしまった。

 判断力が、相当鈍っているな。


 〈クルス〉は、身体に力が入らなくなったようで、僕に体重をかけてきた。

 目も何だか虚ろな感じだ。


 僕もワインに酔ったのか、〈クルス〉を支えらなくて、ベッドの上に倒れてしまった。

 二人が抱き着いたまま、ベッドの上で寝転んだ状態だ。


 僕の頭は、少し朦朧としてたけど、これはチャンスだと思う。

 目の前にあった、〈クルス〉のおっぱいを揉むことにした。


 「はぁん、〈タロ〉様、スリップの上から、触るだけですよ。それ以上は許しませんからね」


 〈クルス〉の言葉を聞きながら、僕はずっとおっぱいを揉んでいた。

 どうも、空きっ腹にお酒を飲んだから、一気に酔いがまわったらしい。

 お酒を吸ったのと、疲れていたのも原因だと思う。


 結局、僕は朝まで〈クルス〉の部屋で寝てしまった。

 朝早く〈クルス〉に起こされて、コソコソと館に帰っていく。

 僕は朝まで、おっぱいを触ったままだったらしい。


 「うふふ、〈タロ〉様は、私の胸がお好きなのですね。退けてもどけとも、触ってくるのですよ。可哀そうになりましたので、そのまま触らせてあげました」


 怒ってはいないから良いんだろう。僕は胸が好きなのか。そうなんだろう。

 自分のことながら、執着し過ぎだとも思うな。

 〈クルス〉のおっぱいのお陰か、二日酔いではないし、熟睡出来たようだ。


 はははっ、こんな夜があっても良いんじゃないか。




 〈ハヅ〉と〈プテ〉の結婚式は、辛うじて晴れているが、肌寒い日だった。

 木枯らしが落ち葉を高く吹き上げて、通りを歩く人の肩に乗せている。

 太陽の光は弱弱しく、雲は低く空を取り巻いていた。


 ただ、若い二人と参列者のはしゃいだ声は、木枯らしにも負けてはいない。

 結婚式は、陽気な声で華やいでいる。


 〈ハヅ〉の友達も、〈プテ〉の友達も、大勢参列しているようだ。

 〈ハヅ〉と〈プテ〉は、見栄えも良いし、社交性にも恵まれている。

 皆の人気者なんだな。いわゆるリア充と、称される者達のようだ。


 リア充同士の結婚式ってわけか。

 けっ、《ラング川》に流されて、海の藻屑となってしまえば良いのに。

 羨ましくなんかないぞ。僕には、三人の許嫁がいるんだ。


 ただ、〈サトミ〉は、今、僕の傍にはいない。〈サヤ〉と一緒に、近親者席にいる。

 お澄まして顔で、親戚の人と話している様子が可愛いな。

 でも、ロングスカートのドレス姿は、もう少女じゃない。少し愁いを秘めた一人の女性だ。


 それにしても、〈ハヅ〉は鼻持ちならない。全身真っ白な服を着てやがる。

 上着のポケットに覗いている、赤いハンカチーフも相当ウザイ。何てキザな野郎だろう。

 恥ずかしくないのか。僕の式の時には、白は絶対着ないでおこう。

 性格を疑われたくない。


 〈プテ〉の花嫁衣装も、純白のドレスだ。


 ただ、肩ひもが細くて、見えないぐらいだ。首から肩全体が露わになっている。

 すごく大胆なドレスだと思う。胸が今にも見えそうなデザインだ。


 〈プテ〉の友達も、合わせたように、結構露出の多いドレスを着ている。

 冬なのに、そこだけ春の陽気みたいだ。

 色とりどりのドレスの蕾が、咲くのを待っているように見える。


 そこに〈ハヅ〉の友達が、にやけた口元で話しかけているのが、やたらと目につく。

 胸元を覗き込んで、鼻の穴をフガフガと膨らませていて、大変見苦しい。類は友を呼ぶんだな。


 「うちの領地は田舎なのに。〈プテ〉の友達のあの派手な服は、どこで手に入れたんだろう」


 「はぁ、〈タロ〉様が、導入されたのですよ。〈華咲服店〉の〈ベートア〉さんの、ご趣味だと思います」


 「〈タロ〉様が、王都の服を持ち込まれたので、こぞって若い女性が買われたのですわ。知らなかったのですか」


 二人は、露出の多い服に対して、あまり良く思ってないみたいだ。

 〈ベート〉の趣味に、冷ややかな感情を待っているらしい。結構際どい服を着ていたからな。


 「知らなかったよ。《ラング》も変わっていってるんだな」


 「そうですわ。思う所はありますが、良いことだと思います」


 「私もそう思います。若者が元気な町は、希望があると言うことです」


 「《ラング》の町には、希望があるんだろうか」

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