第328話 二人の関係性

 〈ドリー〉と〈カリタ〉が、結婚式後の挨拶にやってきた。


 「〈タロ〉様、多額のお祝いを頂きまして、何とお礼を言ったら良いのかわかりません。本当に、ありがとうございます」


 「ご領主様、祝辞もして頂いて、心よりお礼申し上げます」


 ふん、祝辞は聞いてなかったくせに、良く言うよ。やっぱり現ナマの威力だな。

 お礼にやってきたよ。〈ドリー〉が、本当に嬉しそうだ。目が輝いている。


 「二人とも、お礼はもう良いよ。それより、昨日は疲れてたみたいだけど、大丈夫だったの」


 「〈タロ〉様、ご心配をおかけして、すみません。式の準備やら色々ありまして、あまり寝ていなかったのです」


 〈ドリー〉が、申し訳なさそうに言訳をしてくる。

 〈カリタ〉は、その隣で黙って、ペコペコと頭を下げているだけだ。

 もう、二人の関係性が定まっている感じだ。

 まあ、こうなることは、二人が出会った時に決まっていたんだろうな。


 「そうなんだ。寝ないで、励んでたんだ」


 「ち、違います。寝ないで励んでません。〈タロ〉様は、何を仰っているのですか。私達をどういう風に見ているのですか。いい加減にして欲しいです」


 「違うの」


 「違いますよ。〈タロ〉様も何れ分かると思いますけど、式の前は本当に忙しいのです」


 「ふーん、そうなの。それより、二人はどこに住むんだったかな」


 「取り敢えず、新しい兵舎前の集合住宅に住みます。一、二年したら、新町に家を建てようと思っているんですよ」


 おー、それは良いぞ。早くあの大きな空間を、少しでも埋めて欲しい。

 そうじゃないと、広空間恐怖症になってしまうよ。


 「それは大変素晴らしいぞ。そうすると、〈カリタ〉には、ドンドン煉瓦を焼いて貰わなくてはならないな」


 「ご領主様、お任せください。職人も雇用したので量産体制が整っています」


 「ほぉ、それは頼もしいな。そうだ。城壁を見たけど、あれはすごいな。良く短期間であれだけのものを造ったものだ。〈カリタ〉は天才だな」


 「へへっ、そんな。褒められると照れますよ。でも、天才なのはご領主様です。新たに考案された壁の作り方が、優れものでドンドンはかどったのです」


 おー、ローマン・コンクリート様様だな。

 今も残る、古代ローマ帝国の遺跡群を、作り上げた技術のだけのことはあるな。


 「そうか、上手くいって良かったよ」


 「えぇ、上手くいっています。次の大きな建物は、旧兵舎跡に重臣方のお屋敷を建てます。それから、御内室様の後宮を建てる予定です」


 「そうだったな。よろしく頼むよ」


 「御内室」「後宮」って聞いて、ドキッとしちゃったよ。

 僕は、許嫁達と本当に結婚するんだな。 

 まだまだ先のことだと思っていたけど、具体的なことを聞くと現実感が出てくるな。


 「〈タロ〉様、後宮で働くメイドも、雇入れしようと思っています」


 「えぇ、もう雇うの」


 「はい。メイドの訓練は、直ぐには出来ませんよ。年単位の日にちがかかるのです。そのため、許嫁様に面接をして頂く予定をしておりますので、ご承知ください。この冬休み中に、決めたいと思っております」


 「はぁへぇ、そうなんだ。全面的に任せるからよろしく」


 はぁー、これは面倒そうだ。面接で人を落とすのか。気が重くなる仕事だな。

 これは、許嫁達の領分だと思う。任せておこう。僕は一切関知しないぞ。


 「そうだ。一つ命令をさせて貰うよ。〈カリタ〉と〈ドリー〉は、旧兵舎跡に住んでよ。二人は僕にとって、重要な人だからな」


 断腸の思いだ。空き地を少しでも早く埋めたいけど、これは譲れない。


 「〈タロ〉様、今、私は〈メイド頭〉です。しかし、子供が出来ましたら、職を辞さなければなりません。ですので、何れ重臣どころか、臣下でもなくなりますよ」


 「いや。〈ドリー〉が嫌だと言っても、辞めさせないよ」


 「えぇー、妊娠しても働けと言うのですか」


 「ううん、妊娠して子供が大きくなる間は、休職して貰う予定だ」


 「はぁ、休職ですか。でも、子供がいると短時間しか働けませんよ」


 「短時間でも良いんだよ。妊娠して子供を産んだ経験を、僕の未来の妻達に役立てて欲しいんだ」


 「なるほど。分かりました。仰るとおり《ラング》伯爵家には、そのような人材が必要と思われます。お役に立てるか分かりませんが、精一杯務めさせて頂きます」


 おいおい、住む場所を〈ドリー〉一人で決めちゃったよ。

 うーん、〈カリタ〉は、ニコニコ笑っているから良いのか。

 本当に良いのだろうか。今後の二人の結婚生活が心配だな。


 「理解してくれてありがとう、〈ドリー〉。それと、励んでいると思うけど、より一層励んでくれよ。〈ドリー〉の子供を待っているんだ」


 「ご領主様、お任せください。三日に一度を改めまして、二日一度で頑張ります」


 「きゃー、あなた。そんなこと、言わないでよ」


 〈ドリー〉は、慌てて〈カリタ〉の口を押さえたけど、間に合わなかったな。

 二日に一度は多いのだろうか。どうなんだろう。多いような気もする。

 ただ、やっぱりいたしていたんだな。そうだと思っていたんだ。


 「〈カリタ〉、任せたぞ」


 〈カリタ〉は、〈ドリー〉に口を塞がれながらも、目をキラリと光らせた。

 この夫婦は、なんやから言っても、上手くいくのかも知れないな。

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